労働基準法−17 (第8章)
外国人技能実習生を中心として

災害補償


 前回の第41条適用除外の次から当分外国人技能実習生に関係の少ない内容が続くので省略して第8章災害補償を見ていきます。この災害補償の細かな内容は労働者災害補償保険法に委任されていますが、どのような補償がなされるかの項目は残されています。
 労災保険では治療費や休業補償にとどまらず、死亡したら母国の遺族に対して、また重い障害を負った場合には一時金や年金が支給されます。年金で支給される場合には帰国した後も一生送金されることになります。当然、退職した後でも受給した内容は引き続き給付されますし、手続をしないまま退職した後でも事故があった日から2年以内であれば手続きをすることが出来ます。

(補償を受ける権利)
第八十三条  補償を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。

 次に労働基準法と労働者災害補償保険法との大きな違いが一点あるのでそこを見ておきます。それは通勤災害についてです。下記の条文で明らかなように労働基準法は「業務上」との文言しかありませんが、労働者災害補償保険法には「業務上の事由又は通勤による」となっています。

(療養補償)
第七十五条  労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

【労働者災害補償保険法】
第一条  労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

 補償を受けるうえでは大した違いはないのかもしれませんが労基法が通勤災害を対象としていないため就業規則の定め方如何によっては重大な問題が発生することもあります。一つは休業補償についてです。労基法では事故発生日から平均賃金の60%の補償を義務付けていますが、労災保険では最初の3日間は待機期間として4日目からしか補償はなされません。従って労働災害であれば最初の3日間については会社が保障する必要がありますが、通勤災害については会社はこの期間の保障をする必要がないことになります。
 次は解雇の問題です。労基法は第19条で業務上災害と産前産後の期間中とその後30日間は解雇を禁止していますが、通勤災害についてはこの解雇制限は対象とはされていませんので、解雇されてもどうしようもないことになりますが、労災補償保険による給付等は継続して受給できます。
 外国人であっても災害時の補償が受けられるのは日本人と変わりはないのですが、そのあたりの知識や情報を持っていなかったり、不平を言うと不利益を蒙る恐怖感からあきらめられているケースが沢山あると推測されます。日本人も同じだといってしまえばその通りかもしれません。これまで技能実習生ではすぐに帰国させられたという例をいくつか聞いたことがあります。直接関係を持ったのは腰や背中を痛めた程度の簡単なもので、日系人については前腕骨折の例が2件あったのて紹介します。
 一つは外国人の問題にかかわりだしたころの話で、夫婦で来日し農業への派遣で働いていた日系フィリピン人女性が仕事場の一つである畑の傍で転倒して右前腕を骨折したものでした。会社は労災保険への申請をしておらず、勤務を休めば賃金カットを行っていました。賃金は労働日数時間に関わりなく月8万円というもので最低賃金にも満たないという状況でした。日本に来てそんなに時間の経過していない時期の事故でした。来日した経緯を聞くと、フィリピンにある日系人協会らしい団体を通して日本の派遣会社に就職して来日しており、渡航費用や当座の生活費は借金している状況でした。来日前受領している労働契約書と来日後のものは大きく内容が異なっており、交渉の中で派遣会社に確認するとこのような契約書は見たことが無いとのことでした。来日後もらっているものと同じ会社印が押されていました。こうした状況で来日しているのが通常なのかもしれません。
 2つ目は、職場内でフィリピン人から暴行を受けて流産したフィリピン人女性からの相談を切っ掛けに、同じ会社に勤める10数名のフィリピン人の相談を受けている中で、昼食を食べるため帰宅途中自転車で転んで左前腕部を骨折したというものでした。時効まで1か月を切っていた状況であったためすぐ監督署に手続をとりました。ここも派遣会社から派遣されており、医療費については3割部分を派遣会社が負担していました。派遣会社は社会保険に加入させておらず、国民健康保険への加入指導もしていません。労災事故や私傷病を問わず大きな怪我や病気になると派遣会社の通訳が国民健康保険に加入手続きを取るという形です。その結果、家族の国民健康保険料と住民税が2年遡って請求されるという問題が発生しました。流産した女性も同様の扱いでした。また1か月ほど前には、農業で働いている日系フィリピン人の男の子が仕事中に怪我をして労災申請がないまま治療中との連絡もありましたが、父親が労災申請しないといっているとのことでした。理由は「会社が怖い」の一言に尽きるそうでした。この会社は評判の悪い会社のようで残業代も支払われておらず会社の扱いに耐えかねて入れ替わりが激しいと聞いています。数十名のフィリピン人がいるらしいのですが相談に来る気になるのを待っています。
 怖さを振り切って団結して会社に適正な扱いを申し入れなければ何も解決せず、同じような会社を渡り歩かざるを得ないといえます。日系フィリピン人の多くは辺鄙な場所で働いており社会保険はもちろん雇用保険も加入させてもらえない現実があります。当然のこと日本語も読めず、会社もそのあたりの面倒を見ていないため様々な不利益を蒙っています。ひどい例では、国民健康保険や住民税の滞納による差し押さえの書類が届いていても何かわからず放置されていることもありました。
 労働災害の問題や残業代また解雇の問題は日本人も同様の悲哀を味わっていても問題にすることは決して多くはありません。「早く忘れて次の職場を探そう」となってしまいます。問題にしなければ何も改善されませんが、実際、何が問題なのか、どこに相談すればいいのか分からないというのが現実ではないでしょうか。