労働基準法−13 (第32条の4)
外国人技能実習生を中心として

一年単位の変形労働時間制



 前回で、労働時間、休憩と休日について見ましたが、第32条の労働時間の原則(1週40時間、1日8時間)を柔軟に運用することによって効率的に事業運営を行うための制度として
  第32条の二 一ヶ月単位の変形労働時間制
  第32条の三 フレックスタイム制
  第32条の四 一年単位の変形労働時間制
  第32条の五 一週間単位の非定型的変形労働時間制
 の五つの制度が定められています。

 これらの制度では変形された期間内の労働時間を平均して1週40時間に収まれば良しとする制度です。例えば、1週間の非定型的変形労働時間制は飲食店に向いており、忙しい金曜日や土曜日を1日10時間労働とし、月曜日と火曜日を6時間労働にするなどして1週間を平均して40時間に収まるようにすれば8時間を超え10時間とした日であっても残業代を支払わなくても済むという制度です。一ヶ月の変形労働時間制は、隔日勤務と毎日勤務の形態をとっているタクシー業界で見られます。隔日勤務とは1日16時間乗車勤務し、翌日は休みとするものです。一年単位の変形労働時間制は工場などで年末年始、ゴールデンウィークやお盆に休みをまとめて取ることによって稼働効率を落とさないようにするというものです。この場合事前に1年間の勤務日が定められたカレンダーを作成しているのが一般的です。こうした制度は早い話が残業代の支払いを減らすのが目的と言った制度と言えます。しかし正当に運営される限りにおいては、まとまった休みが取れるため労働者にとってのメリットも少なくないと言えます。しかし技能実習生の実態を見ていると一年単位の変形労働時間制が悪用されている例が少なくないため今回はこの一年単位の変形労働時間制を見ていきます。この制度は1ヶ月以上1年以内の期間で変形期間を定めるものですが、一年の変形期間が一般的です。

  この制度を導入するためには条件が幾つかあります。
  (1) 1ヶ月前までに労働日と労働日ごとの労働時間を指定する。変更は認められない。
  (2) 変形期間が3ヶ月を超える場合、年間85日以上の休日が必要で、8時間労働の場合には年間105日以上の休日が必要
   になる。従って、労働日数は260日が限度となる。(注1)
  (3) 週1回の休日の付与が必要
  (4) 1日の労働時間の上限は10時間まで
  (5) 1週の労働時間の上限は52時間まで(48時間を超える週は連続して3週まで)
  (6) 残業時間の限度は、1週間14時間(15時間)、1ヶ月間42時間(45時間)、1年間320時間(360時間)・・( )内は変形制を導入し
   ない場合

 例えば、ある週については、月曜日〜水曜日を10時間労働とし木曜日から金曜日を8時間労働、そして土曜日を6時間とすれば、週52時間労働となり、それぞれの日の決められた労働時間を超えない限り割増賃金の支払いは必要ないことになります。ただこの勤務形態を連続して行うことには制限があります。 (注2)通常は、1日8時間以内の通常の勤務体制を取り、休日(注3)を年末年始、ゴールデンウィークとお盆に集中するために利用するのが普通です。

 この制度についての厚生労働省労働基準局の通達を見ると次のようになっています。
(1) 労働者の生活設計を損なわない範囲において労働時間を弾力化し、週休2日制の普及、年間休日日数の増加、業務の繁閑に
 応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することを目的とするものである。(昭62.1.1 基発1号)
(2) 労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要し、使用者が業務の
 都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、これに該当しないものであること。(平11.3.31 基発168号)
(3) 労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、一年単位の変形労働
 時間制を適用する余地はないものであること。(平11.3.31 基発168号)
(4) 特定された労働日及び労働日ごとの労働時間は変更することができないものであること。(平11.1.29 基発45号)
(5) 使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提とした制度であるので、通常の業務の繁閑等
 を理由として休日振替が通常行われるような場合は、一年単位の変形労働時間制を採用できない。(平11.3.31 基発168号)

 こうした通達の内容に合致した運用を行えるのはある程度の規模の事業所でなければ無理があるのではないでしょうか。10数名
 の車の部品の下請の場合、年間のカレンダーはありましたが、本来休日であるべき土曜日も出勤させられ週休1日が実態であり、仕事がなくなれば、勤務日であっても休業とせず、「賃金カットがいいか、年休にするのがいいか」と迫ってきていました。こうした運用をしているのならば、一年単位の変形労働時間制は成立しないものとして、通常の時間計算をして賃金の差額を清算をしてもらわざるを得ません。この会社は1年単位の変形労働時間制と残業時間の関係で2回問題を起した結果、フィリピン人技能実習生からベトナム人技能実習生に変更してしまいました。フィリピン人は教会に行っては問題を起こすためベトナムやスリランカの技能実習生に移行する例が最近よく見られます。また、ゴルフ場では、冬場3ヶ月を全て休日とし、それ以外は、毎日10時間以上働かせながら残業代を一切支払っていませんでした。こうした研修が成り立つのかとの問題もありますが、先に見たようにカレンダーで労働日と各日の労働時間を確定しなければいけないのにそうしたことはなく、お天気や客の入り具合またゴルフ場以外での仕事などとの兼ね合いで恣意的に変更していました。いずれの場合も、一年単位の変形労働時間制を形式だけ導入した残業代逃れが目的であったと言えます。
 一年単位の変形労働時間制は、キッチリ運用できる事業所にとってはありがたい制度と言えますが、ゴルフ場など天気に左右さ
 れる事業所や元請からの受注状況によって稼働状況が決まる事業所等では実際問題として導入しても正しい運用ができないのが実態と言えます。前に触れた会社では、1年単位の変形制を導入し、隔週土曜日が休みとなるようにカレンダーを作成しながら、休日である土曜日を全て出勤させるのが前提でした。当然、その日に対しては残業代が支払われてはいますが、実質は1週40時間1日8時間の原則に基づく週休2日制の勤務態様です。一年単位の変形労働時間制を形式的に導入することで、出勤とした土曜日の25%の割増賃金の支払いを免れようとしただけの話です。労働基準監督署にこの例について話を聞きに行くと、「労使協定もあり、届けでも済んでいるので、一年単位の変形労働時間制が成立しており、休日とされた土曜出勤についても残業代が支払われているので問題ない。この制度自体残業代の支払いを少なくするためのものだから・・」との回答があり、通達の話は出てこず、「あとは裁判所の判断を」とのことでした。確かに、言われることは良く分かりますが、先の通達にもあるように週休二日制の普及や休日の増加を目的とするものであり、恣意的に運用すれば労働者に大きな不利益が発生するため認められないとされています。通達に従った厳格な運用を指導してもらいたいものです。

(注1) 労働基準法が定めた労働時間の限度は1週40時間であるため、1年間の労働時間の限度は、40時間×52週=2080時間と
 なります。従って週40時間労働であれば、1日の労働時間は40時間÷5日=8時間となり、労働日数の限度は2080時間÷8時間
 =260日となります。従って、休日日数は365日-260日=105日必要となります。
(注2) 連続して48時間を超える週は3週が限度であり、変形期間の初日から3ヶ月毎に区切ったとき,各期間内で48時間を超える
 週は3週以内としなければならない。
(注3) 祝日については「国民の祝日に関する法律」で「休日」と定められていますが、労働基準法は、週1回の休日の確保しか定
 めておらず、祝日を休日にするか否かは事業所の判断に任されています。そのため、1年単位の変形労働時間制を採用する事業
 所では祝日は出勤として、年末年始等にまとめられている例が多く見られます。