労働基準法−11 (第24〜28条)
外国人技能実習生を中心として

賃金・休業手当



 労働基準法は第24条から第28条で賃金について定めています。ここで定められているのは賃金の支払い手続きについてであり、最低賃金を守らなければならないといった程度のことでしかありません。実際の賃金は会社の規模にもよりますが、いろいろな手当が付加されたり、支給に当たってのこまごまとした条件が定められています。労働基準法ではそうしたこまごましたことは定められておらず、手続上の問題と、法定労働時間を超えた労働に対する割増賃金や休日労働そして深夜労働の割増率が定められている程度にしかすぎません。あとは会社が労働基準法に抵触しないように関連条文また通達や判例を勘案して賃金体系を構築することになります。表面的な理解の下で形だけ構築し、運用は恣意的に実施していれば当然問題となります。賃金に関する問題では単純な未払の問題とこのあたりの恣意的な運用が問題となってきます。特に、後者の問題については相談を受けている中で分かってくるのが普通です。賃金の問題は本人たちにとっては問題がないように見えても専門的な知識と豊富な経験を持った人に相談しないと見えてこない問題が少なくありません。相談に行く場合には、契約書、賃金支払明細書そしてタイムカード等勤務時間の記録が必要になります。

 ここで掲載を省略した条文は第25条非常時払と第27条出来高払い制の保障給です。前者については、出産、疾病、災害や労働者又はその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合にはそれまで働いた賃金について労働者が請求した場合には会社は支払わなければならないと定めています。技能実習生の場合であれば、母国で不幸等があり帰国する場合には役に立つ条文かもしれません。出来高払い制の保障給については日系人の問題でありましたが割愛します。

(賃金の支払) 第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。・・・労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(以下略)

【30万円以下の罰金】

 ここは賃金の支払方法を定めており、「賃金支払いの五原則」と呼ばれています。このあたりについては特別問題はありませんが、賃金を支払うに当たって「賃金支払明細書を労働者に交付しなければならない」との文言はありませんので、労働基準法上渡す必要もなければ、渡す場合でも記載する内容も会社が勝手に決めればよいことになります。実際、現金を渡すだけで賃金支払明細書を渡していない例も時々見かけますし、ごく簡単な市販の様式を使用している例もあります。こうした場合、時間給や日給の場合、正確に賃金や残業代が支払われているのかどうか時間単価から逆算して労働時間を算出したうえで実際の労働時間と突合する必要があります。労働日数や労働時間が明記された賃金支給明細書が大半ですが、この場合でも、実際の労働時間が正確に反映されていないのが普通です。労働時間が一分単位で集計されているか、始業終業前後のミィーティングや掃除の時間などが含まれているのか、会社都合による休業日や休業時間が年次有給休暇で処理されていないか、残業計算の割増率など賃金が正確に計算されているかどうかの情報が含まれているにもかかわらず労働基準法上は賃金支給明細書を交付する必要がないというのは大きな問題といえます。ただ所得税法は所得税が分かる書面の交付を義務付けていますが、所得税が計算できる程度で良しとされます。

 「直接払いの原則」については本人口座への銀行振り込みも一定条件のもとに認められていますが、賃金未払い交渉のため弁護士やユニオンに代理権を与えた場合でも、解決金であれば弁護士やユニオンが代理受領することも可能ですが、賃金であれば直接本人しか受領できないことになります。

 第1項の後段の賃金からの控除については、租税公課等法律で定められたもの以外については、労使協定で定めたものしか控除することはできません。当然のこと、強制貯金については第18条で禁止されていますので、どのような名称であっても強制貯金に類するものの賃金からの控除はできませんが、技能実習生の賃金支払明細書を見ると問題があるものもあります。敷金名目で月に5千円控除していた例がありました。一部屋5人、2年間で60万円の敷金となります。これは帰国するときのアパートの補修費とのことでしたがあまりにも非常識な例といえます。所得税関連では、母国に送金し扶養しているのに扶養控除がなされていなかったり、年末調整をしながら還付金を本人たちに渡さなかったり、年末調整自体していなかったり、中国など租税条約により所得税の徴収が不要なのを知ってか知らずか引かれていたり・・。日系人の例では、社会保険料を賃金に見合わない低額な標準報酬月額で申請していたことが傷病手当金と育児休業給付金から判明し、年金事務所が是正に入ったこともありました。賃金支給明細書を細かく検討していくとさまざまな問題が見えてきます。

(休業手当)
第26条
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

【30万円以下の罰金】

 文面通りに解釈すればよいのですが、時には「使用者の責めに記すべき事由」に該当するか否かが問題となります。ここでは台風や地震など不可抗力な原因が対象となっており、親会社からの発注が突然中止になったり、材料を納入する業者の都合で材料が届かず休業した場合など、一見会社の責任ではないように感じますが、これらの場合は「会社の責めによる休業」に該当します。労働契約に基づいて、会社には、いかなる場合も仕事を提供する義務があり、それが出来なければ損害賠償に応じる義務があります。しかし自然の災害等会社の力ではどうしようもない場合には会社は労働契約に基づく義務は水所されますが、それら以外の場合には平均賃金の60%の支払い義務があるとするのがこの規定です。

 60%の休業補償を計算するときには少し注意をする必要があります。

@ 労働契約等で定めた休日は休業補償の対象にならない。
A 時間給や日給の場合であっても3カ月の平均賃金を基に計算しなければいけない。要するに過去3カ月の残業代や手当類を集計し、3カ月の暦
  日数で割った値の60%が休業手当計算上の日額になります。
B 例えば、時間給1千円、平均賃金が1万円で、8時間勤務の日を4時間勤務させ、残りの4時間を休業させた場合の休業手当は次のように計算
  します。
   10,000円×0.6=6,000円−4,000円(1,000円×4時間)=2,000円
となり、単純に休業した時間の4時間×1,000円×0.6=2,400円は誤りです。休業した時間に対して補償をするのではなく、休業時間のある1日に対して60%の賃金を補償するというのがこの条文の考え方となります。
 技能実習生を見ていればこの休業手当に絡んでいろいろな問題が出てきます。支払いがなされていない、年次有給休暇で処理されていた、会社の都合で他の休日と振り替えられたりとさまざまなケースが見られます。中には、タイムカードを押さないように指示が出て、賃金は別途現金で支給されているケースもありました。要するに中小企業緊急雇用安定助成金の不正受給をしているケースです。

 最後が最低賃金の問題です。

(最低賃金)
第28条
 賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによる。

最賃法の規定による罰則   最低賃金違反【50万円以下の罰金】
申告に対する不利益取り扱い  【6月以下の懲役又は30万円以下の罰金】

 労働基準法は賃金の決定する際には一定額以上でなければいけないと定めており、その額は、最低賃金法に委任され、毎年秋に改訂が行われています。技能実習生の賃金は例外なく最低賃金が適用されています。技能実習生制度は本来の趣旨に反して低賃金労働者の導入が目的となっていることから、例外なく最低賃金が適用されています。この最低賃金であれば日本人は絶対に応募してこないのですが・・。しかし最低賃金にしなければ会社としては帳尻が合わない問題もあります。それは第一次受入機関が会社から徴収する毎月の管理費にあります。経済情勢もありますが毎月一人当たり2万から3万円程度徴収されているようです。中には5万円と会社が話してくれた例もありました。広島県の最低賃金でざっと計算すると、719円×8時間×22日=126,544円に管理費25,000を加えて、15万円少々となります。こうした管理費が必要なのかも問題がありますが、残業がなければ、社会保険料や雇用保険料、家賃、水道光熱費等を控除されて7万円程度の手取り額としかなりません。当然この中から母国に仕送りをしますから、残業がなければ生活はかなり厳しいといえます。残念なことに、残業代未払の問題で相談に来て、交渉に入ると、いろいろ本人の悪い点を挙げつらってその人だけ残業をさせなくなってしまいます。お弁当屋さんではこれに加えて、毎日お弁当を持たせて帰していたとしてその代金を過去に遡って請求してきました。このお弁当の持ち帰りは本人たちにとっては迷惑な話だったのですが、こうした善意が認められるのも法律順守があって初めて生きてくるということを忘れたら、会社にとっては飼い犬に手をかまれたとの思いしか残らないのかもしれません。