労働基準法−9 (第16〜18条)
外国人技能実習生を中心として

賠償予定の禁止・前借金の禁止・強制貯金の禁止)



第16条(賠償予定の禁止)
 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
第17条(前借金相殺の禁止)
 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
第18条 (強制貯金)
 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。

各条【6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金】

 これらの条文は、第5条の強制労働の禁止と密接な関係があり、状況によっては両条文違反ということもありえます。こうした条文は労働者を不当に会社に拘束することを禁止している条文といえます。前号で第108号の強制労働への補足として紹介したフィリピンの関連会社からの研修生の問題は第16条の賠償予定の禁止そのものですが、貨幣価値や母国の労働慣行等の違い等も考える強制労働禁止の問題の方が大きいと考えられます。担当者と話したとき、フィリピンの弁護士に相談したら問題はないとのことでしたが、この場合日本の法律とフィリピンの法律のいずれが適用されるのかとの問題があります。このあたりのことは「法の適用に関する通則法」という法律があるのでこの法律に基づいて考えていく必要があります。これによると当事者が選択した地の法律を適用するが、選択がない場合には法律行為を行った当時最も密接な関係がある地の法によるとなっており、また特徴的な給付を当事者の一方が行う場合には、主たる事務所の所在地の法律が適用されるとあります。実際就業規則や契約書も日本語で書かれているし日本の本社が全てを決めているので当然日本の法律の適用がなされると考えられますが、ケースバイケースで詳しく調べてみないと判断できないといえます。
 第16条の前段の違約金は私たちの日常生活において当然契約不履行があれば違約金は当然のことと理解していますが、労働契約ではこうした違約金は労働者を不当に拘束することにつながるため禁止されています。欠勤や遅刻は当然労働契約の不履行ですが、こうした場合にも違約金を定めることはできないと言うことになります。しかしそれに応じた賃金カットや、度重なれば懲戒規定での減給処分を課すことはこの条文とは関係なく法律が定める範囲内であったり、常識的な範囲内で有れば問題はないと言えます。後段の損害賠償の予定の禁止については、社有品を破損したり、社有車で事故を起こした場合などその損害額に対する損害賠償の義務を労働契約内容としても良いが、実損費用を大きく超えるような額を事前に決めておくことを禁止しています。技能実習生が母国に一定の保証金をおいて来ている例があります。単純に3年間の研修期間を全うできなかった場合、例えば本人の病気等で3年を待たず帰国した場合、残業代未払いを提起してトラブルを発生させた場合などに没収されてしまうので3年間の不平も言わせず労働を強制するための手段として作用していますが、第5条の強制労働禁止や今回の第16条の問題と密接な関係はあっても労働契約を締結している会社とは関係ないところで行われているため労働基準法上の問題ではなく、制度上の問題として入管の指針で禁止されています。
 第17条の前借金相殺の禁止は賃金支払いの5原則の一つである全額払いの原則と関係するもので、賃金は賃金として支払い、貸したお金は賃金とは別に返済させることによって、会社への不当な拘束をなくそうとするものです。会社が福利厚生として設けている貸付金制度による返済金などもこの条文に関係しますが、自由に会社を辞める権利が保証された制度であれば特段問題とはならないと言えます。
 技能実習生の残業代で交渉したお弁当屋さんから毎日お弁当を持って帰らせていたから残業代を請求するならばこの費用を請求すると言われ、その費用分減額したことがありました。これなど厳密に言えば、後出しジャンケンではあっても第16条の違約金の定めの問題、また日々弁当代を貸していたと言うことからすれば第17条の前借金と賃金の相殺とこじつけて考えることも可能かもしれません。本人たちは美味しくないので日本人のパートさんに持って帰ってもらっていたとのことでした。ちなみに技能実習生の研修職種にお弁当家さんはなく、食品加工の職種で認定をもらっており、調査があったらイカの塩辛を作っていると言うように指示されていたとのことでした。
 第18条の強制貯金は昔は多かったようですが最近は聞くことがありません。これまで遭遇した例を紹介してみます。最初の例は明らかな強制貯金の例で、その目的は帰国時に一括して徴収する住民税の一部に充当するものでした。この会社の技能実習生の受け入れは毎年7月初め頃であったため、帰国時に前年度の住民税全額を徴収する必要があったため、強制貯金と年末調整しながらも本人たちに還付せずプールしておきその一部に充当するというものでした。会社の気持ちも分からないことはありませんが、本人たちに十分な説明もないことが大きなトラブルの元になると言えます。私のところに相談に来るのは残業代の問題ですが、いろいろ質問している中でこうしたものが表に出てきます。そうすると本人たちの会社への不信感は募るばかりとなってしまい、最後は住民税を支払わない交渉のため市役所まで押しかけた例もありました。あと一つの例は、強制貯金の変形版といえるものでアパート退去時の補修費用に充てるため敷金名目で毎月一人から5,000円徴収していたものでした。2年間の合計が一部屋5名で60万円程度の敷金となります。即刻やめさせましたが、以前部屋を滅茶苦茶にした技能実習生がいたことから始めたとのことで、実際にかかった費用との差額は返金するつもりだったとのことでした。実際そうだろうと思います。この問題の発端は、残業代の問題もありましたが、病気の時の年休の扱いなど本人たちへの説明不足からささまざまな不満がたまり相談に来た中で分かったもので、労働条件の改善を求めての色彩が濃い交渉となりました。同一企業で10名を超える技能実習生が帰国までの1年以上をユニオンの分会として活動し、親交を深めた今後の模範となる事例でした。