労働基準法−8 (第15条)
外国人技能実習生を中心として

労働条件の明示



第15条(労働条件の明示)
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2  前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3  前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

【30万円以下の罰金】

 私たちがコンビニでお弁当を買ったり、バスに乗ったりするとき代金を支払います。これも一つの契約行為といえますが、契約書をやり取りすることはありません。しかしアパートを借りる場合等には必ず賃貸契約書が取り交わされます。これには物件の所在地、部屋の構成、設備や賃借料の支払方法を始め利用するにあたって守るべき事項も記載されています。これは後々のトラブルを防止するためのものですが、いざ、就職する場合をみると契約書を取り交わすということはないといえます。採用通知だけとか、口頭契約が普通です。こうした現実を踏まえて労働基準法は一定の労働条件を書面で労働者に交付しなければならないと罰則付きで定めています。しかしこの労働条件通知書さえ交付されていないのが現実ではないでしょうか。
 技能実習生の場合には、技能実習生制度に基づいて雇用されているため、まず交付されていないということはありません。ただ過去に一件交付していない事例がありました。この事例は、自動車関連の下請け会社で、自動車関連産業の最低賃金が一般のものより高く設定されているため一般の最低賃金との差額分の人件費を抑える目的で交付していなかったものでした。残業代未払等で交渉に入り、この点を指摘し、労働条件通知書を提出させると自動車関連の最低賃金が記載されていました。本人たちに渡してしまえば詐欺行為が露見してしまうため渡さなかっただけの話でした。これは例外といえますが、私たちの手元にあるものに対して、雇用している会社が「そうした労働条件通知書は渡していないし、会社に控えもない」と不思議がるケースに時々遭遇します。協同組合が入管への手続きのため勝手に作成したものかもしれませんが、本人たちが所持しているのも不思議です。日系人の場合には、来日する前に母国の人材派遣会社から渡されるもので、来日してから渡される労働条件通知書よりはいい内容となっています。この場合も会社は「そのような労働条件通知書は知らない」といいます。しかし会社の印が押されているという不思議な話です。技能実習生でいうと雇用期間が3年や2年のものと同時に1年の雇用期間のものが混在していたり、同じ会社で研修している技能実習生でも内容が異なっていたりしています。裁判になり相手が出してくるものとこちらの手元にあるものと違っている例もありどれが本物かよく分からないのが現実です。
 広島は牡蠣の養殖・カキ打ち、加工等の水産業で中国人やフィリピン人を中心とした外国人が大勢います。中国人は技能実習生、フィリピン人は日系人と大別できるのではないかと推測しています。労働基準法では農業や水産業は天候に左右される職種であるため労働時間や休日の規定が適用除外となっており、残業代や休日出勤の割増賃金など支払う必要がないことになっています。農業関係の技能実習生については平成12年3月に農林水産省農村振興局地域振興課から「労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件についても、基本的に労働基準法の規定に準拠するものとする。」との通知が出ていますが、水産関係についてはそうしたものは出ていないようです。ジツコで話を聞くと技能実習生には適用除外は該当しないといっています。厚生労働省の技能実習生関連の通達では「労働基準法第4章に定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、農業又は畜産、養蚕、水産の事業に従事する労働者については適用されないが、これらの事業においても、深夜業及び年次有給休暇に関する規定は適用されること。/なお、労働時間等に関する規定が適用されない労働者についても、雇用契約において時間外・休日割増賃金を支払う旨を定めた場合には、当該契約に基づきこれらの賃金が支払われなければならないこと」(平成22年2月8日基発0208第2号)となっています。また、入国管理局の出している「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」を見ると「労働関係法令の順守」の項目があり、日本語と母国語併記による労働条件通知書の交付や「技能実習生について労働時間管理を行う必要があるほか,時間外労働や休日労働を行わせる場合には,労働基準法に定める割増賃金の支払いだけではなく労使協定(36協定)の締結が必要です。」とされています。労働基準法第41条の適用除外に該当する農業、水産・養殖業を除くとの文言が挿入されていないためすべての技能実習生が時間管理の対象であり休日労働についても割増賃金が必要と解釈するのが正解ではないかと考えます。そうすると農林水産省やジツコの話が理解できます。
 就職にあたっては会社の提示する労働条件を認めて、もしくは協議して決定します。当然こうして決定した労働条件は、第1項によって会社は書面で交付する義務が発生します。この労働条件に違反する内容があれば労働者はその事実だけで第2項によって労働契約を即時解除することが出来ます。同時に、当該契約時に住居を変更しており、契約解除に伴って他の住居地に移転する場合には第3項によって会社は必要な旅費を負担する義務を負うことになります。ただ14日以内という期間が定められています。ここでいう旅費は本人と同居の家族も旅費も含んでおり、帰郷という意味は以前住んでいた場所を意味しているのではなく、移転先を意味しています。外国人の場合、他県に住んでいる友人・知人からの情報で頻繁に移動する事例もあり、この条文は大きな味方となってくれるといえます。