労働基準法−5 (第11条)
外国人技能実習生を中心として

賃金の定義



(定義)
第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう


 前回の第9条が労働者、第11条が使用者そして今回の条文が賃金そして第12条で平均賃金についての定義を置いています。所得税法上の賃金また労働保険や社会保険での賃金などそれぞれ微妙に対象範囲が違っています。当然ここでいう賃金とはこの条文で定められているように「名称の如何を問わず、労働の対象として労働者に支払うすべてのものをいう。」とあるように会社が労働者に支払うすべてのものが対象となります。労働基準法は採用時に労働者に対して労働条件の明示を義務付けており、また常時10人以上の労働者を使用する使用者には就業規則の作成と労働基準監督署長への提出を義務付けています。当然それぞれについて記載すべき事項が定められており、賃金については当然記載する事項となります。慶弔見舞金等福利厚生的なものであっても就業規則等に記載があれば賃金とみなされます。
 こうした細かな定義は別として、要するに毎月支払われる賃金の構成がどのようになっているか、労働条件通知書等に明記されている通りに支払われているかどうかが労働者にとっては大きな問題といえます。当然最低賃金をクリアーしているかどうかは技能実習生の場合注意すべき点となります。1年間の研修生期間が置かれていた時代には、労働者と認められておらず、残業自体が認められていなかったため使用者の都合のいい解釈で中国人は時給300円、フィリピン人は時給500円で支払うという現実がありました。不法滞在している人たちに対しても労働法は当然労働者として保護していますので、研修生の場合、決められた研修時間を超えての研修(実質は労働)は入管法上認められない不法就労であるため、不法滞在者の労働と何ら変わるところがないためこの部分のみは労働者と見做すのが当然ではないかといえます。
 技能実習生で一番大きな問題は、労働条件通知書にサインしていながらそれを交付されていないことと、またその内容とは全く違った扱いを受けていることです。研修目的外の研修=労働は当たり前の話ですし、勤務時間や休日そして年次有給休暇は記載はあっても与えられていないのが現実です。賃金についてみると月給制とは言っても最低賃金に所定労働時間を乗じた金額ですが、最初から時間給しか記載されていないものもあります。
 賃金に関しては次のような問題がよく見られます。

(1)広島県の最低賃金(平成23年10月1日、産業別は平成23年12月31日発効)
 最低賃金は県ごとの実態に応じて決められており、また産業ごとに最低賃金が定められています。これを逆手にとって、労働条件通知書には産業別の最低賃金(一般最低賃金より高い)を記載し、実際に支払うのは一般の最低賃金であったという例もありました。この場合労働条件通知書は交付していませんでした。相談に来て残業代未払分の計算をしている中で判明し、本人たちに確認すると後輩が入ってきて労働条件通知書にサインをするためアパートに持って帰ってきたことから自分たちとは違うことに気づいていました。広島県の主要な最低賃金は次のようになっています。

一 般

710円

自動車

784円

造 船

825円

情報通信
機器製造

761円


(2)残業代を一切支払わないもの又は一定時間しか支払わないもの
 この問題は全ての労働者に該当する問題といえますし、日本人でもこれに該当する人は多いと思います。外国人技能実習生の場合、某協同組合が弁護士さんに向かって「日本人にも残業代を支払っていないのなら外国人技能実習生に対しても払う必要はない。」と指導していると明言したとのことです。送り込んだ会社から毎月高額な管理費を取らなければならないためこのような指導をしたのでしょうか。これがすべての協同組合に当てはまるとは思いたくありませんが、技能実習生制度にはこうした実態があらゆる面に表れてくるため現代の奴隷制度と揶揄されているといえます。
 大手の会社でも一定時間しか残業代を支払わないという会社は多いといえます。私が勤務していた会社では事業場の規模や実績に応じて残業時間の枠が設定されていました。ただ労働密度が必ずしも高くないホワイトカラーに工場で働く人たちと同様に厳格に残業時間計算をすることには抵抗を覚えますが・・。
(3)労働時間集計の問題
 この問題では単純に労働時間を短く算定するケースと始業終業時間前後の朝礼・掃除等の時間を労働時間にカウントしていないケースがあります。就業規則等に定められた始業時間の15分前から朝礼をする場合、また終業時間後の掃除等が義務付けられている場合には労働時間となりますが、無視されているのが当たり前となっています。このあたりも厳格に法律を適用するのがいいのかどうか・・しかし、トラブルが起これば厳格に請求せざるを得ません。
(4)休日の扱い
 休日は原則週1回確保しなければならず、1週40時間労働の枠があるため1日8時間労働であれば週2回の休日が必要になります。しかし休日は週1回で働いている技能実習生が多くいます。そうすると1回の休日については残業扱いとなり25%の割増賃金を支払う必要がありますが、これが無視されていたり、月額○○円と決まっている場合にはその日の賃金自体が支払われていないケースがあります。
(5)変形労働時間制
 労働時間は1週40時間、1日8時間以内とする必要があります。しかし業務の実態に応じて1週間、1か月また1年の期間の労働時間を平均して1週40時間に収めればいいという制度を労働基準法は定めています。これが変形労働時間制と呼ばれるものですが、これを実施するためには就業規則で定めたり労働基準監督署に届け出る必要があります。当然、技能実習生に渡す労働条件通知書にも記されている必要があります。労働時要件通知書に記され、労働基準監督署への届もされていながら実態としては届け出通りの勤務体制が無視されている場合が多々見られます。要するに、残業代を支払わないための方便として悪用されている例が多くみられます。
(6)休業手当との関係
 使用者の都合によって仕事を休ませた場合には平均賃金(過去3か月の平均日額)等の60%の休業手当の支払いが義務付けられていながらも無視されているケースがあります。同時に、各種助成金をだまし取る目的でタイムカードを押させずに労働させ、その日の賃金は現金で渡すといった例があります。技能実習生問題の乏しい経験の中でも数件遭遇しましたので世間一般広範に行われているようです。
(7)残業基礎給に含まれる手当そうでない手当
 残業代といっても一口に行っても残業代の時間単価をどのように計算するかといった問題があります。技能実習生の場合手当類はまずありませんので、時間単価で賃金が決まっている場合にはその時間単価に一定の率を乗じればいいのですが、月額の場合には1年間の所定労働時間をもとにして時間単価を算出します。問題なのは、手当が付いている場合、その手当が残業代の時間単価を算定する際に含めるかどうかと言った問題があります。労働基準法は施行規則で時間単価に含めない手当を次のものに限定しています。@家族手当、A通勤手当、B別居手当、C子女教育手当、D住宅手当、E臨時に支払われた賃金、F一箇月を超える期間ごとに支払われた賃金です。労働に基づかないものや毎月定例的に支払われない賃金が除かれています。日系ブラジル人の例で最後の、「一箇月を超える期間ごとに支払われた賃金」での問題がありました。これは稼働時間に一定の率を乗じたものを「能率給」として各月ごとに計算した額を2か月毎に支払っていたものでした。労働基準監督署に確認しているとのことでしたが、残業時間単価を低く抑えるための方便でしかなく実態としては毎月計算し、支払い時期を1か月遅れとしていただけなので無理がある話です。先の変形労働時間制の場合もそうでしたが労働基準監督署は持ってこられた書類また問い合わせがあった部分でしか回答しかないので自分に都合のいい回答が引き出せますが、いざ立ち入れり調査となれば実態をみて判断しますの全て否定されることになります。
(8)賃金控除項目から
 これまで触れた問題は賃金の支給・計算の面からのものでしたが賃金の支給があれば所得税のように当然控除される項目があります。社会保険料や雇用保険料また住民税などが必ず控除される項目となります。技能実習生の場合これらに加えて家賃・水道光熱費また積立金等内容の分からないものが引かれています。先日、会社が、社会保険を一切かけておらず、本人も日本語が読めないため国民健康保険も国民年金も一切支払っていない技能実習生がいました。あと2か月で帰国する時期だったので会社に対して社会保険への加入要請も、未納に対する支払督促も無視しましたが、もし事故に遭い障害1級に該当したら何らの補償もなく帰国せざるを得ないことになります。彼の場合、残業が多ければ賃金が増えますが毎月万単位の支給で賃金計算などしないどんぶり勘定でした。熱を出しても当然のこと年休はとれず働かされていました。家賃には問題もなかったので彼の場合はまだいい方だったといえます。あくどい話としては、会社が社会保険の資格取得しないまま賃金を回収するため保険料を控除していた例をいくつか聞いたことがありますし、家賃の問題では入居者の家賃を合計すると相場の倍になるケースは当たり前といえます。当然、アパートの程度はかなり悪くため息が出るのが現実です。数え上げればきりがありませんが、私たち日本人では問題にならないこの賃金控除の項目に大きな問題が潜んでいるのが技能実習生問題の特徴と言えます。