労働基準法−1 (第1条・第2条)
外国人技能実習生を中心として

労基法の原則と労働条件の決定



 一昨年来外国人の問題は止めて本業に集中しようと思いながらも問題が発生し、ズルズルと今日まで来てしまいました。昨年は、中国人留学生の解雇の問題からフィリピン人技能実習生の問題が連続して起こり裁判と労働審判の二つが進行し、後一つ裁判に進む案件があります。それも私たちのところに相談に来た技能実習生を深夜まで脅して交渉当日本人たちを連れてきて「相談は取り下げる。」といわせたIIS協同組合を中心としたものでした。裁判は始めての経験であり、また直接弁護士さんを通じて相手方と交渉する形もできてきました。同時に「フィリピン人労働者を支援する会」も立ち上げ、若手の弁護士さんから常時支援を受ける体制もできましたが、財政的な基盤は脆弱であり、日常活動等で支援する人材の確保が進まないことは残念なことでした。個人的に支援する域を超えてきているため今年は極力相談を受けることを避けて、これまで経験した問題を通して幾つかのものを勉強していきたいと考えています
 まず、労働基準法の第1条と第2条から見ていきます。


(労働条件の原則)
第1条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
A この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

(労働条件の決定)
第2条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
A 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。


 労働基準法を見るとき単に最低基準の労働条件を定めているということだけではなく、道路交通法等と同じように違反すれば罰則が科される刑法であることを考える必要があります。しかし実際にはそうした面が機能しているとはいえません。上記の条文では、最低の労働条件を定め、労使ともに対等であることを強調しています。しかし労働組合のある大手企業では充足されても中小零細企業で省みられることも少なく、労働者はそれに従わなければ雇用の確保もままならない現実があります。問題を起こせば解雇になってしまいますので、解雇覚悟か、退職後の問題提起かしか道は残されておらず、しかも2年間の時効の問題を考え合わせると労働者の受ける損害には計り知れないものがあります。冒頭の規定は理念的なもので罰則規定は設けられていませんが、この規定違反としても罰則規定を設け、さらに道路交通法並みに労働基準法の罰則の適用をしなければ労働者保護は果たされず意味もないお飾りの規定としての存在価値しかありません。外国人労働者、特に、技術者等その人の能力を評価した在留資格でない限りはみじめな状況に置かれている現実があります。技能実習生は一応制度に守られていますが、同様の形で来日した日系人(注1)の場合には社会保険や労働保険の適用はされず、住民税や国民健康保険への加入なども知らず、おまけに日本語ができないことからそれらの滞納の問題が広範に存在しています。病気になると普段は自費診療で済ませていても、いったん大きな病気をして国民健康保険に加入すれば過去2年に遡った保険料が請求されてしまいます。本来は会社に加入義務がありますが、労働者と同額の保険料負担を逃れるため加入させていません。また技能実習生の場合同様アパート代、水道光熱費、その他わけのわからない控除を強いている現状もあります。昨年地元の中堅企業に年金事務所が立ち入り調査をし、外国人のみ加入が判明して過去2年に遡って加入手続きを行い、労働者に70万円近い請求を行ってきた会社がありました。また雇用保険にも加入していない例も多く、こうした会社の不正行為によって労働者が蒙る不利益には大きなものがあるといえます。会社は労働者を雇用しなければ成り立ちません。当然経費削減による努力で利益の増大を図ることは当然のことです。賃金を低く抑えたり、残業や休日出勤をなくすことは当然のことでしょう。社会保険の負担は大きなものといえますが雇用主の義務でありその違反に対して罰則規定は必要ではないでしょうか。現在の状況では民法の規定で裁判に進まなければ労働者の権利が守れないというのは労働者にとって酷な気がします。特に日本語が読めず、ましてや日本の法律も知らない外国人労働者にとっては・・。
 余談ですが、労働基準法が刑法とはいっても労働基準監督署はこれをなかなか取上げてくれません。昨年も、労働条件通知書未交付と残業代未払い、解雇和国手当未払い等で告訴状を提出したところ裁判等に進むのなら保留するとの事がありました。裁判に進むと当然示談ということも出てきます。だからといってこうした労働基準法違反の事実が赦されるわけではありません。むしろ積極的にその事実を確認し、裁判の証拠となる措置が求められるべきだと思います。同じころ日本人の同様の問題で監督署に指導を依頼しましたが、残業代の未払いについては調査し、支払いをさせてくれました。当然罰則を与えるため送検されるべきでしょうが、支払えば終わりというのも変な話です。交通事故で示談が成立しても道路交通法の罰則を免れないのと同列に処理するのが普通ではないでしょうか。
 外国人技能実習生の問題については各条文に該当せず、家賃の問題等むしろ民法に関する問題がいろいろ出てきますが、そうなると裁判にしなければ解決は不可能となります。会社所有なり会社が借りているアパートの話ですから、雇用に関する問題として処理すべき問題ではないかといえます。通常であれば社宅としての福利厚生面の問題となります。しかし賃金回収の手段となっているこうした問題については当事者同士の契約の問題としてなかなか扱いにくい問題です。外国人技能実習生を受け入れる会社も住宅に多額な費用を費やしているからやむを得ないという話を聴いたこともありますが、この制度の主旨を無視した発言としかいえません。当然「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」に大きく関係している部分といえます。そのためにも理念規定に終ってもらっては困ってしまいます。私自身彼らを労働者として扱うことには問題があると考えています。技能実習生の問題から例を引いて進めていくためこの制度について簡単に説明しておきます。
技能実習生制度概略
 技能実習生は3年間の日本での技術修得の目的を持って来日します。労働者として働きに来ているのではないため在留資格も「研修」とされていましたが、一昨年の7月に入管法の改正により新たに作られた「技能実習」という在留資格を適用されることになりました。これによって、これまで1年間は研修生として毎月7万円前後の研修手当を支給され、2年目から労働者として研修に従事していた形から、来日して1〜2か月程度の座学期間が済めばすぐに労働者として扱われることになりました。理由としては、研修期間中残業が認められないにも拘らず常態として一般の労働者と同列に扱われて残業させながらも残業代が支払われないか低額な手当しか支給されないこと、また労災の適用もないということから問題が頻発したことの是正といえます。しかしこの制度の実態(注2)はともかく、本来この制度の趣旨である日本の進んだ技術を発展途上国に移転するための制度としての機能に見合った法律関係の見直しを必要としながらも、安易に労働者として扱おうとしたところに大きな問題があるといえます。たちまちは、残業代請求の2年間の時効の問題があります。また雇用保険や社会保険の問題等もあります。日本の現状を考えればこの制度を廃止ではなく拡充していく必要があるのは事実ですから法律関係の適用方法を修正していく必要があるといえます。
現代の奴隷制度
 この制度は現代の奴隷制度であり廃止すべきであるとの話をよく聞きます。そうした面を見ておきます。本人の意思に反して帰国させられる問題があります。彼らには研修職種の変更が認められないため、会社が倒産したり、JITCOの調査で研修外活動と認定され移籍先が見付からなければ帰国させられてしまいます。また残業代未払問題の提起等会社に不都合な行為をする人たちや労災事故にあった人たちも同様の憂き目に会います。こうした人たちのうち支援者側に連絡をとり、保護してもらうことがあります。そうすると送出し機関や家族から会社に戻るようにとの電話が掛かってきたり、ユニオンは金儲けのためにあなたを食い物にしているとのメールが届いたりします。こうした背景には、送出し機関と日本での受入機関である協同組合は、毎月送り込んだ会社から一人当たり3万から5万円の管理費を取っているということがあります。派遣会社と同じですが、悪いのは相手が一方的に弱い立場にある外国人であるため問題が発生しないようこうした取扱をしていることにあります。また携帯所持の禁止、教会に行っては行けないなど。教会に行っては行けないでは、ミサに来たフィリピン人技能実習生に社長から電話があり、教会にいると話すと、直ぐ帰るようにとの指示があり、私の目の前で飛んで帰ったこともありました。鎖にこそつながれて居なくても精神的にかなりキツイ状況に置かれていることこそ現代の奴隷制といっても過言ではないといえます

(注1) 日系人の場合、親戚や友人を頼って来日する場合と母国の送出し斡旋機関を通じて日本の派遣会社に就職するものとがあり後者の場合、来日費用を借金しており技能実習生制度という枠組に守られているわけでもなく大きな問題を抱えています。技能実習生と違う点は、転職の自由があることで、農業に従事している例では1件の家に15名前後押し込められ、1日14時間働かされ、夜の仕事は内職扱いとして残業代が支払われていませんでした。しかも1年以内に大半の人が知合いを頼って出て行っているとのことです。
(注2) この制度は、技能実習生にとっては出稼ぎであり、第一時受入機関にとっては金儲けの手段であり、第2時受入機関の会社にとっては安価な労働力を得ることができる制度で当事者の目的は一致しています。ただ違う点は、技能実習生は労働者としての権利が保障されていると考えていても、受入機関は、問題を起こしたり、思うとおりにならなければ強制帰国させればいいまたアパート代や水道光熱費等で賃金を回収できる便利のいい存在としての認識でしかありません。一方、行政は日本経済の空洞化を埋めるための制度としての実態を黙認したうえで建前論に終始しています。