福岡県の農業で働く技能実習生の問題から


 2月11日にカトリック岡山教会でJ−CaRM(日本カトリック難民移住移動者委員会)大阪教会管区主催の「隣のベトナム人と私たち」とのセミナーが開催され、技能実習生の問題について簡単な報告をしました。このセミナーを通じて日本語の堪能なベトナム人と知り合いになり、鳥取岡山地区ユニティーとの関係づくりも進みそうな方向になっています。また以前から連絡を取り合っている長崎の神父様も来られており、長崎のベトナム人神父様が技能実習生問題に関心を持たれているとのことで長崎に里帰りしたいと思っているさなか福岡の技能実習生の問題が飛び込んできました。福岡は土地勘もなく、支援団体もわからないためとりあえずは大名町教会で実習生達と会うことにし、通訳については長崎の神父様に連絡を取り手配をお願いしました。J−CaRMの組織が主要な教会で機能してそちらで対応してもらう連絡だけで済み、わざわざ出向いていく必要もない話なのですが、この教会の受付でJ−CaRMについて聞いてみると名前は聞いたことが活動しているのかよく分からないとのことでした。
 相談の内容はため息が出るものでした。当初5名の相談と言うことでしたが、2名は「怖い」とのことで脱落し3名の相談となりました。これまでの経過は次の通りです。

1.相談者(フィリピン人技能実習生女性3名)・・・事業主はAとBで異なっています。
 @ 1名は来日1年6か月経過・・・・・・・・・・・・・・・・・・A
 A 2名は3月で3年経過して3月17日帰国予定・・・B
 B 実習内容は耕種農業(施設園芸)で、Aは野菜の栽培、Bは野菜の栽培と花卉栽培であり、彼女たちのグループは1軒屋に
   18名が生活し、複数の農家で実習しています。

2.問題の発端
 @ 相談者3名が契約書通り残業代が支払われていないと協同組合と社長に説明を求めて口論となった。
 A 口論の中で、Aが残業代が正しく支払われないのならビザの切り替え時期の6月に帰国したいと言ったことから、2名の帰
   国に併せて3月17日の帰国と言われたが6月まで働きたいことまた残業代を支払ってもらいたいことから相談先を探すことに
   なった。

3.相談の経路
 @ Aが呉市にいるエンジニアで来日している友人に相談し、その人から広島在住で相談センタ−となっているフィリピン人女
   性を通して連絡かきました。
 A 第1回目の面談は、長崎の川口神父様に福岡での通訳を依頼し、大名町教会で日曜日に行ない、翌週の日曜日には黙想
   会で通訳が確保できないため広島から通訳を同伴し、聞取内容の確認とスクラムユニオン広島への加盟書と一応弁護士へ
   の依頼書にもサインをもらいました。
 B 福岡地区でユニオンを探すつもりでしたが、3月17日の帰国と未払賃金も多額になるため、技能実習生問題に精通した広
   島のユニオンで対応することにしました。

4.問題点
 相談の内容は、Aが6月まで働きたいことと残業代が支払われていないことで、聞取りの結果、次のような問題があることが分かりました。

(1)残業代
 @ 残業単価は、最初の1年間はAが200円、Bは300円であり、2年目からはいずれも450円になること。
 A 賃金支給袋に書かれた残業時間は実際の半分の時間しか書かれていないが、残業単価は900円を少し超える程度で、
   「最賃×1.25」の単価で外部に対しては計算上問題ないかたちとなっている。
 (例) 2時間残業した場合、賃金計算上は「1時間×最賃×1.25」と記載され、本人達には、「単価が450円だから残業時間の1時
   間は 2時間と倍にして考えなければいけない。」と説明を受けています。

(2)所定休日出勤
 契約書には、休日日数は年間125日、その内訳として「毎土・日曜日、祝日、年末年始と夏期休日」と記載されていますが、実際の休みは日曜日だけでした。
 なお、賃金月額は次の計算によって決められています。
    (365日-125日)×8時間×719円(最低賃金)÷12月=115,000円
 従がって、日曜を除く休日(125日−52日=73日)については未払となります。

(3)日曜日の出勤
 日曜日は月2回程度出勤していたそうです。休日出勤手当はAは8時間なら4,000円10時間なら5,000円、Bは5,000円の定額で決められています。Aの事業主は実習生の農協の口座に積み立ててくれており、Bの事業主は毎月支払ってくれています。

(4)家賃と水道光熱費の問題
 契約書に基づいて住居費20,000円、水道光熱費5,000円の合計25,000円が徴収されています。技能実習生一般の例にもれずここでも家賃が賃金回収の手段とされています。彼女たちは、1軒屋に住んでおり、4部屋にそれぞれ4〜6名の総勢18名が生活しています。合計すると45万円の負担となります。入管指針には「食費や寮費等を賃金から控除する場合には,労働基準法にのっとった労使協定の締結が必要であり,控除する額は実費を超えてはなりません。」(P.27)と記載されています。写真の家に住んでいますが、18名が生活するとしてトイレやシャワーまた台所など考えると普通の生活が可能なのでしょうか。
※ 団交の場で分かったのですが、住居の所有者は協同組合で、事業主は賃金から控除して全額を協同組合の口座に振り込むとのことでした。

(5)年次有給休暇
 本人たちは、年次有給休暇があることを知らされていませんでした。Aの事業主は、生理で労働できないときは、賃金カットなしで休ませてくれていたとのことなので、年次有給休暇で処理していたのか、そうした考え方もなく好意でそうしていたのか分かりません。一方、Bの方は、インフルエンザで休んだら日曜出勤に振り替えられたり、賃金カットされています。
 また、Bが3月17日まで年次有給休暇を使用すると言ったら、3月3日に帰国させると言われたそうです。

(6)賃金の支払いをめぐってその他の疑問
 Aの賃金支給明細書はパソコンで作成された様式に記載されていますが、日曜日の勤務については農協に事業主が預金しているため記載は一切ありません。
 Bについては銀行の現金持ち帰り用の袋に手書きで記載されています。しかも基本給に該当する部分は居住費の25,000円が差し引かれた金額が記載されています。
 A、Bともに税金、住民税また雇用保険料や国民年金保険料の控除はされていません。健康保険料については市役所から納付書が送られてきて、事業主が支払い、当該金額が賃金から控除されています。農業の個人事業主のため雇用保険の適用は無いとしても、これらの支払いは無視されています。労災保険はどうなっているか分かりません。

5.団交申入れ後の状況
 事業主や協同組合から表だった圧力はかからなかったようです。しかし団交申入れ後Aが金曜日に年次有給休暇を取ると協同組合に話したら返事をしてもらえず、無視されたとのことです。しかし一方では、協同組合から他の実習生たちに彼女たちの訴えが原因となって全員帰国させられるかもしれないと言ったような圧力がかかっているようで、他の技能実習生達から冷ややかな態度を取られており、中には自分たちも帰らされるのではないかと不安を募らせ文句を言って来たり、周りに物を投げまくる人もおり、諍いも発生しており、耐えきれないと訴えています。そのため週末には、前述のとおりAは前日の仕事が終わると広島の友達の所に遊びに来ましたし、Bたちは金曜日の仕事が終わると福山の友達の所に行きました。日曜日の13時から第1回目の団体交渉までには帰ってきました。団交時に年次有給休暇の話しをすると帰国まで休んでも問題ないとのことでした。

6.その地
 協同組合は農業関係を中心として技能実習生を受け入れているようで、この辺りの農家に数名づづ送り込んでいるようです。今回の事例と同じような問題がこの地域一帯の農業で働く技能実習生のにも共通の問題としてあると考えられます。工場などと違い、個人経営の農家では、労働法の知識もないまま、協同組合の指導に従わざるを得ず、多少の問題は有るとは思いながらも、どのような違反をしているのか分からないままなのかもしれません。しかしその結果。大きな未払賃金が存在しているのは事実ですし、場合によれば、受入停止の問題に発展します。
 協同組合の理事長の奥さんはフィリピン人であり、指導員もフィリピン人なのですがもう少し同国人を守ってもらいたいと思いながらも、問題のある先々でこの構図が付きまとってきます。また送出機関も技能実習生が労働問題でのトラブルを起こさないように圧力をかけてきます。フィリピンはカトリック教会の影響が強い国ですから、技能実習生の権利擁護の為、日本のカトリック教会とフィリピンのカトリック教会が連携をとりフィリピン政府に指導を申し入れできる体制づくりも考えていくことも必要かもしれません。ただそれ以前の問題として、各教区にはJ-CaRMとして有効に機能し、連携の取れるセンターが無ければ相談を受けながらも支援出来ないケースも出てくるといえます。解決までには何度も足を運ぶ必要がありますし、ボランティアの通訳を現地で手配できるか、同伴していくか等々問題尽きません。