江田島技能実習生による殺傷事件裁判を傍聴して―4
江田島事件判決書から


 この事件は、平成25年3月14日江田島市江田島町切串のカキ打場で発生した事件で、「殺人未遂、殺人、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反、器物損壊被告事件」として審理がなされました。裁判の中では、技能実習制度との関係も取り上げられましたが、技能実習生制度には問題があるとしてもこの事件と関係づけて考えることはできないと判断されました。
 確かに制度上の問題が直接殺傷事件の原因と結びつくと考えるわけにはいかないと思います。しかし様々な技能実習生を巡る問題、またこれまでに発生した技能実習生による殺人事件(木更津の畜産業、熊本の農業そして今回の水産業)を見ると全て第1次産業で発生しており、全て中国人技能実習生の犯行でした。こうした共通性は何を意味しているのか、またさまざまな技能実習生を巡る問題からこの制度の在り方を見つめ直してみる必要があるのではないでしょうか。
 この裁判の傍聴報告の最後として判決に沿って内容の一部を抜粋してみました。

【主文と結論】
 主文は、「被告人を無期懲役に処する。」です。裁判の中で取り上げられた事実が検討された結果、「被告人が追い詰められた精神状況から犯行に及んだことや、計画的犯行とまでは断定できないことなどを考えると、極刑がやむを得ないとまでは言えない。」として無期懲役の判決が下されました。

【罪となるべき事実】
 この事件は、平成25年3月14日午後4時30分頃から同日午後4時37分頃までの間に発生した13件の事件が対象とされました。
殺人・傷害 (9件)
器物損壊
凶器携行
 殺意有 8件(内殺人2件) 殺意無 1件 
3件
1件

【争点に対する判断】
 争点に対する判断をしていくうえで考慮すべき問題として「殺意」と「責任能力」について検討されています。

1.殺意について
(1)凶器として
 包丁長さ約20cmの鋭利なもの、鋤(長さ137cm、重さ約1.8kgとスコップ(長さ約107cm、重さ約1.95kg、先端が薄く鋭利になっている) 殺傷することができる凶器と言える。

(2) 殺意の態様
 殺意の中には「強い殺意まではなかったものの、死んでも構わないという気持ちに基づき、死亡させる危険性が高い行為を意図的に行ったと言う意味で、殺意があったと認められる。」とされたものや、1度しか刺していないとしても状況を考えて「殺意を否定する方向の事情として重視できない。」とされたものもあった。

(3)人間関係から
 「職場での人間関係にトラブルや大きな問題があったとはいえないが、被告人から見れば問題があった。/ また、被告人は職場の人間関係以外に、職場に中国人が働いていないことによる寂しさや、言葉の壁、思うように稼げなかったことなど、いろいろ問題を抱えていたと認められる。これらの事情が重なったことで不満が蓄積した被告人が、○○や○○従業員らに対する殺意を有するに至ったとしても、理解できることであるから、動機などの点から殺意を否定することはできない。」

2.責任能力
(1) 「殺傷能力の高い凶器を用いて、頭などの重要部分に強い攻撃を加える一方、通行人に対しては強い攻撃を行っていない。状況や相手に応じて攻撃した犯行態様からは、被告人が、自己の判断に従がって行動をコントロールできていたことが認められる。」

(2) 「被告人は、犯行直後に自殺しようとするなどしており、被告人が犯行直後の段階で、善悪の判断が出来る状況であったことも明らかである。」

(3)  犯行直前にテレビを見て妄想が生じたことについて、「起訴前に、被告人の精神状況を鑑定した○○によれば、被告人は、捜査段階の鑑定の際に妄想が原因で犯行を行なったとは説明しておらず、妄想が影響した犯行とはみとめられない。」

(4) 「本件犯行前の被告人の生活状況、勤務状況などからは、本件犯行当時、被告人に精神障害があったとは窺われない。」

(5) 上記のことから、「被告人が本件犯行当時完全責任能力の状態にあったと認められる。」

【量刑の理由】
 量刑の理由として、@犯行の態様について、A結果の重大性等、B犯行の罪質、動機等について、C遺族等の被害感情について、D社会的影響について、Eその他の考慮要素について、として説明がありますが、ここでは技能実習制度との関係に触れられているB犯行の罪質、動機等について、から抜粋します。

1.犯行の罪質、動機、技能実習生制度との関係
(1) 「日本語も満足にできない状態で○○で働くうちに、中国に残した家族との関係、思うように金が稼げていないこと、○○や従業員との関係など被告人では解決が困難な問題を抱え、これらが積み重なって、最終的には爆発し、自室から包丁を持ち出した上で、本件各犯行に及んでいる。時間を掛けて準備計画をした上で犯行を始めた事案とは断定できないが、自室にいる段階で殺害行為を決意していたことは明らかであり、犯行直前の被害者の対応によって衝動的に殺意が生じた事案とは異なる。」

(2) 「被告人が抱えていた悩みやストレスは、○○を殺害しても解決できないものであり、このような問題を抱え殺人など行なったことについて、被告のために考慮することには限界があるといえる。また、被告人の精神面に配慮した措置をとるとすればこのような事件にならなかった可能性も考えられるが、被告人が問題を一人で抱え込んでいたことや、○○関係者の被告人への対応がこれまでに受け入れた技能実習生への対応と同じようなものであったことなども踏まえると、○○が当時そのような措置を取ることは困難であった。」

(3) 「この制度が目的どおりの制度として運用されていない部分はあるが、被告人自身もお金を稼ぐ目的で来日し、一定の送金を行ない、帰国が近づいていたことなどによれば、被告人がおかれた環境や状況を個別に検討する以上に、技能実習制度の問題点を殺人などと結びつけるべきとは考えられない。」

 以上が判決文の抜粋です。技能実習制度とこの事件は関係がないとされるのは当然だろうと思いながらも心情的に割り切れない思いが残ってしまいます。「被告人自身もお金を稼ぐ目的で来日し、一定の送金を行ない」とあります。技能実習生は母国に養わなければいけない家族を残して来日しています。家族帯同が出来ない為、研修と割り切ることはできず、家族の生活を支えるため送金せざるを得ない出稼労働者としての意識を忘れることはできません。母国で溶接の資格を持ちスキルアップを目指して来日したにもかかわらず全く関係のない職種に従事させられている人からは技術が低下し、帰国後。職場が確保できるのか心配だとの声も聞こえてきています。
 この事件が発生した水産業は他の技能実習生問題とは全く違った特殊な問題をはらんでいます。加害者の陳双喜さんは制度上労働組合に加入していた(裁判では触れられていない)にもかかわらず労働組合は何らの対応もしていません。他のカキ打場での事件も同様です。水産業の技能実習生にかかわる様々な問題把握している地元のユニオンを証人として招き、この事件とカキ打場の技能実習生との具体的な関係が述べられれば判決自体変わらないとしても水産業における技能実習問題に一石が投じられ、改善も図られたのではないかと思うと残念な思いがします。