技能実習生の住居に係る問題


 外国人技能実習生問題の一つに住居に関するものがあります。狭い部屋に多の人が押し込められる、家賃が高すぎる、汚い、冷暖房が効かないなど様々な問題があります。しかしイザ対応しようとしても、アパートを借りると家賃が高額になり、また通勤する時間も1時間以上かかるが通勤できるのかなどと逆に無理難題を持ち出されてしまいます。個人間の契約であり、適正な価額も明確でないため、残業代や解雇等の問題に付随して扱われるものでメインの問題として扱われることはまずないと思われます。これらは労働問題と切り離して人権問題として人権擁護団体に対応を依頼すべき問題なのかもしれません。例えば下記の写真を見ていただいてどのように思われるでしょうか。東京の大学に進学し、アパートの入居条件としてこの内容は少々厳しいとしても納得して入居する人は少なく無いと思います。
料理禁止誓約書
 しかし外国人、それも技能実習生となると話はだいぶ違ってきます。この写真の会社では昼と夜は社内の食堂を利用しなければならないとのことでした。当然食事代は賃金から引かれます。例え無料としても、母国の料理が出来なければ精神的な負担も少なく無いでしょう。私がこれを持っているのもどうにかならないかと他県から相談に来たからです。これだけで会社と交渉に入ると残業をさせないとか、何かの落ち度を理由に帰国させられことにもなりかねないため日ごろの不満の数々を聞いき、広島見物でストレス発散してもらって終わりました。

【寮・寄宿舎規則の問題から】
 技能実習生達の居住環境も、アパートの一室に数名が居住しているものから、大人数が共同生活しているものまで様々です。寮として共同生活している場合には、無断外泊して規則を破ったから解雇して帰国させられると言う問題が時々聞こえてきます。共同生活をしている場合には労基法の寄宿舎に関する規定との関係を見ていく必要があります。この辺りのことが労基法や技能実習生に関する指針などでどのようになっているか見ていきます。

 まず労働基準法は第10章で寄宿舎について定めています。ただこの条文では「事業の附属寄宿舎」との文言があるだけでどのようなものがこれに該当するか分かりませんので、別途通達によって次の二つの条件を満たすものと規定され、さらにそれぞれに対しての判断基準も示されています。

(1)相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えるもの。
 @ 共同生活の実態を備えているか否か、すなわち単に便所、炊事場、浴室等が共同となっているだけでなく、一定の規律、制限により
  労働者が通常。起居寝食等の生活態様を共にしているか否か。
(2)事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連性をもつこと。
 @労務管理上共同生活が要請されているか否か。
 A事業場内又はその付近にあるか否か


 これに該当し、常時10人以上の労働者を使用していれば、会社は労働基準監督署に設置届や寄宿舎規則を作成して届け出る必要があります。
 寄宿舎規則は厚労省がひな形をこしらえていますが、この内容と厚労省が作成している「技能実習生の労働条件の確保・改善のために」では一部内容が異なっています。

「技能実習生の労働条件の確保・改善のために」
厚労省のひな形

@ 寄宿舎に居住する労働者の私生活の自由を侵してはいけません。
 ・ 外出および外泊について使用者の承認を受けさせること
 ・ 教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること
 ・ 共同の利益を害する場合以外に面会の自由を制限すること
は、禁止されています。

第13条 勤務時間外の外出及び外泊は自由とする。
  ただし、外泊する寄宿員は、事前にその旨管理者に
  届け出なければならない
第14条 外出又は外泊しようとする寄宿員は、業務に支障を
  きたさぬよう常に心がけ、外出又は外泊より帰った時に、
  は速やかに管理者に届け出なければならない


 「技能実習生の労働条件の確保・改善のために」の方は、「建設業附属寄宿舎規程」(昭和四十二年九月二十九日労働省令第二十七号)の内容と同じになっています。
 またJITCOの「外国人技能実習生労務管理ハンドブック」P.25は次のように記載されています。

8.寄宿舎(私生活の自由・人権の確保と安全衛生管理)
 また、労基法が適用されない場合も、火災時などの避難設備やトイレなど設備の確保等、宿舎の安全・衛生対策に加え、詰め込み、不当な私生活への干渉など私生活の自由・人権を侵すようなことをしてはならないことは当然である。
(1) 労働者の私生活の自由・人権の確保
 私生活の自由・人権を侵すおそれがある次のような行為は禁止されている。
  @ 外出、外泊の承認(日時、行き先を届けさせる程度は差し支えない)
  A 教育、娯楽等の行事への参加強制
  B 面会の自由の制限(共同の利益を害する場所及び時間を除く)
  C 技能実習生の失踪等問題事例の発生の防止を口実として宿舎からの外出禁止


 「厚労省のひな形」が外泊を「届け出なければならない。」としているのは寄宿舎を管理運営する立場からは当然のことといえます。しかしこれは労働者が絶対的に守らなければならない義務として有るのではなく管理上知っておいた方が良い程度のことと理解すべき文言と言えます。この規定違反で帰国させたり、重い罰則を科すのは「技能実習生の労働条件の確保・改善のために」やJITCOの資料からみて全く不当な扱いと言えます。同様なものに年次有給休暇の届出書があります。通常理由を書く欄がありますが、一応理由を知っておきたいという会社側の希望にしかすぎず労働者に記載する義務は無く、書いてもいいし、斜線でもいいというのと同じといえます。

【住居の広さと家賃】
 技能実習生の住居に関しては労基法の寄宿舎に該当するものとそうでないものに分けられます、会社敷地内の工場の上であったり、アパートを一棟借り上げて居たり、レオパレスのような程度の良いものまで様々です。僻地にあったり、老朽化した住居であったりまた多人数が押し込まれている、家賃が高いなどと技能実習生の不満が多いところです。
 労基法では第10章に寄宿舎に関する規則を定めています。これに該当しない場合には特別規定は有りません。またここで定められている居住環境に関する規則は労働者に対して少々厳しすぎるため建設業寄宿舎規則では規則に定める基準を緩和した「望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドライン」を定めています。また技能実習生に対してはこれに準じたガイドラインをJITCOが出しています。

寄宿舎規則

建設業寄宿舎規則
()内はガイドライン

JITCOガイドライン

一室の居住面積
(一人当たり)

床の間押入を除き2.5u以上

床の間押入を除き3.2u以上
(4.8u以上 (3畳 以上))

6畳に2人程度

一室の居住人員

16人以下

6人以下 (2人以下)


 労基法の寄宿舎に該当する場合には階段の寸法や非常階段等の設備基準も定められています。最近あった事例では1軒屋(4部屋)に18人程度また仮設建物の様な2階部分、仕切りは有るようですが、50名程度(実習生の話しで未確認)が居住しているというものがありました。寄宿舎に該当すると考えられますが、協同組合の担当者はその辺りのことは認識もあいまいなままでした。かなり不自由な生活環境と言えますし、火災が発生した時、安全な避難が出来るのか、重大な事故が発生するのではないかと心配になります。
 この1軒屋(4部屋)に18人の例では、水道光熱費込みで家賃が一人2.5万円でした。合計45万円となります。技能実習生の抱える問題でこの家賃の問題(注1)は少なくありません。住居は事業主が借りて提供している例と協同組合が借り上げている場合とがあります。前者では実費との差額が賃金の回収を意味しており、後者では事業主に対して管理費を安くし、事業主からもらうべき管理費を実習生達の家賃に振替えていると考えられます。この辺りのことは労基法第6条(注2)の中間搾取の問題と関係してきます。 (注3)

【監督上の行政措置・労働基準監督官の権限】
 (1)第96条の二 使用者は、常時十人以上の労働者を就業させる事業・・の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合において
  は、前条の規定に基づいて発する厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手十四日前までに、行政官
  庁に届け出なければならない。
 (2) 第96条の三 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合においては、行政官庁は、使用
  者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。
 (3) 第103条 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危険がある場
  合においては、労働基準監督官は、第九十六条の三の規定による行政官庁の権限を即時に行うことができる。

(注1) 1年間の研修生期間があったときの話しですが、2年目から家賃とは別に研修棟敷金(預)として毎月5千円賃金から引かれているケーズがありました。一部屋に5人住んでおり1カ月25千円、2年間では60万円になります。会社の説明では以前の実習生達が部屋を滅茶苦茶にし、30万円の修繕費がかかったからこうしたことに備えて敷金として徴収している。何もなかったら全額返還するとの説明でした。徴集すべきものではないため全額返還し以後徴集中止にしてもらいました。

(注2) 「本条は、職業安定法及び船員職業安定法の規定する範囲よりも広く労働関係の開始についてのみならず、其の存続についても、第三者の介入することにより生ずる弊害を排除することを目的とするものである。」また「「就業」とは、労働者が、労働関係に入り又はその労働関係にある状態をいう」(昭23.3.2基発381号)

(注3)  外国人技能実習生労務管理ハンドブック2016 年3 月版p.5  
 監理費・管理費について、法務省指針において技能実習生に負担させてはならないとしており、JITCO においても「外国人技能実習制度における講習手当、賃金及び監理費等に関するガイドライン」の中で「講習手当・賃金からの監理費・管理費の徴収禁止」を定めている。理由の如何を問わず監理団体・実習実施機関及び送出し機関は講習手当又は賃金から監理費・管理費を控除してはならない。こうした名目でなく家賃で肩代わりさせているのではないでしょう