A賃金・残業代等


 自分の労働に対していくら賃金が支払われるかは労働者にとって最大の関心事といえます。出稼ぎが目的として来ている技能実習生にとっては特別に関心のある事項といえます。前項で紹介した労働条件通知書を渡さずに最低賃金をごまかすというのは論外としても賃金未払いの問題には単純に支払わないものや外見的には労働基準法を順守しているように装ったものまでいろいろな事例があると思います。1年間の研修生期間があった時代には、所定の研修時間を超えて研修させることが出来なかったため、この時間を超えていわゆる残業をさせた時の残業代が中国人は1時間300円、フィリピン人は500円、また縫製業ではボタン付けやファスナー付が残業としてではなく内職として処理される慣行がありました。現在はすぐに労働者扱いになるため1時間300円とか500円ということは無くなったと思いますが、内職や請負として処理する方式は残っているのではないでしょうか。
 正当な賃金が支払われているかどうか確認するためには、労働条件通知書、賃金支払明細書と日々の稼働時間を記録したものがなければ正確な計算はできません。中には、日々の記録を取っている技能実習生達もいますが、記録がないのが普通です。時間的な余裕があれば一定期間記録を取らせた後にそれをベースとして未払い賃金を計算することになります。賃金支払明細書については労働日数、稼働時間、残業時間等の記載のないもの、基本給と残業代が合算されていたりと千差万別でその都度どのように計算するか頭を悩ませることになります。
【基本賃金の問題】
 技能実習生の賃金は、通常、基本賃金と割増賃金のみですが、たまに通勤手当や皆勤手当が支給されている例が見られます。JITCO所定の労働条件通知書を見ると、基本賃金、諸手当、割増賃金率と3つに区分され、基本賃金は月給、日給と時間給の三つのいづれかにチェックを入れて、金額を記載するようになっています。月給や日給にチェックが入っているとしても最低賃金と同額の時間給をベースに計算されています。この基本賃金が問題となるのは、何らかの事情によって仕事が途中で中止になる場合です。例えば、仕事中に雨が降り出して仕事が中止となって帰宅する場合です。この場合、中止になった以降の所定労働時間に対して賃金の支給はどうなるかといった問題があります。
 まず月給制と日給制の場合にはどうでしょうか。@ノーワークノーペイの原則に従って賃金カットをするか、A働く働かないにかかわらず全額を支払う場合、のいづれかになります。どちらの方法を取るかは使用者の考え方一つになりますが、賃金カットをする場合には、契約書において「仕事が途中で中止となった場合にはそれ以降の賃金は支払わない。」旨の記載が必要であり、記載が無ければ全額支払う必要があることになります。次に賃金カットされた場合には、当然、休業手当の問題につながってきます。労働基準法は第26条で「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定めています。1日の途中からの休業に対しては、通達で、その日について平均賃金の100分の60以上の賃金が支払われていれば休業手当の支払いは必要なく、不足がある場合にはその差額の支払いが必要としています。
 例えば、1日の所定労働時間が8時間、時間単価が1000円で、平均賃金日額が8000円とした場合、4時間労働して仕事が中止となった場合の休業手当の計算は次の通りになります。
  賃金は   4時間×1000円=4000円
  休業手当は 8000円×0.6= 4800円
 となり、賃金との差額800円の休業手当の支払いが必要となります。
 働かなかった時間4時間×1000円×0.6=2400円の休業手当が賃金とは別に発生するというものではありません。
 次に時間給で決められている場合はどうでしょうか。月給、日給また時間給というのは賃金支払形態を定めているものにすぎないため、月給や日給の場合同様に所定労働時間に満たない日の扱いの決め方に従うことになります。契約書に何も記載が無ければ、「所定労働時間×時間給」を支払ってもらう必要があります。
 こうした会社都合による休業については、年休を行使させたり、早退届を提出させたりといった問題が発生しています。
 次に、休日との関係で見ていくと、日給や時間給で決定されている場合には5月の連休、お盆また年末年始や2月など所定労働日が大きく減少する月については賃金がそれに比例して下がってしまいます。造船所で働いている技能実習生の1月分(12/21〜1/20)の賃金を見ると次のようになっています。(造船業で最低賃金は825円が適用されています。)

 
所定労働日数
所定労働時間
基本賃金
契約書記載例
20日
160時間
132,000円
1月分(12/21〜1/20)
16日
106時間
87,450円

 1月分の所定労働時間は128時間とならなければならないはずですが、2時間しか稼働しなかった日や7時間稼働の日などがあったためです。休業手当の問題は無視されています。これに残業代等が35千円あり、総支給額は122千円です。社会保険の標準報酬月額は18万円が適用されているため、社会保険料24千円、家賃15千円そして光熱費が14千円の計53千円の控除があり、手取り額は、68千円程度です。これから仕送りすることになります。技能実習生の生活と仕送りといった実態を考えると、月々の稼働日に対して支払う形式から、1年間の基本給の合計を月平均に直した上記の基本賃金を月給としなければ問題があるといえます。

【最低賃金違反の例】
 最低賃金は都道府県別に設定された最低賃金とそれより高く設定されている都道府県別・産業別の最低賃金とがあります。広島県の場合、最低賃金は24年10月1日から719円で、産業別最低賃金の内、自動車・同付属部品製造業は23年12月31日から784円となっています。自動車部品製造業では当然784円が適用になりますので、労働条件通知書には時間単価784円と記載されなければ入国管理局の審査をパスすることは無いはずです。まだ研修生が存在した数年前のことですが、労働条件通知書にサインさせて、本人たちには交付せず、自動車部品製造業ではなく、一般の最低賃金で支払っていた会社がありました。私たちは残業代を計算する過程でこのことに気づきましたが、この計算中に、後輩たちが研修生から技能実習生に移行に当たって労働条件通知書をサインするため寮に持って帰ってきたのを見ると時間単価が自分たちより高い金額(自動車部品製造業の単価)が記載されているのに気づき不思議に思っていたとのことでした。残業代の問題を提起していなければ、1か月後の賃金は自分たちと同じ単価になっているはずなので、会社に確認しても、最低賃金の存在自体知らない技能実習生にとっては、「あれは間違っていた。だから全員同じ賃金を支払っている」とごまかされてしまうはずです。こうした会社はまずないと思いますが、毎年のように改定されるため最低賃金の変更に伴なって賃金計算も正しくなされているかどうかをチェックする必要があります。
【残業代チェクの要点】
@ 1日8時間1週40時間を超えた労働時間が.25%の割増賃金の対象となります。
A 休日には、週1回の法定休日(通常は日曜日)と所定休日(祝祭日等会社が指定した休日)があり、法定休日は35%の割増、所定休日については
  1日8時間1週40時間を超えた部分のみ25%の割増が必要。但し、就業規則や労働条件通知書に所定休日は25%割増の記載があればこれに従
  います。
B 1時間単価の算出には手当類も含める。但し、扶養手当や通勤手当等労働と関係ないもの、また1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含
  める必要はありません。
C 始業終業前後のミィーティング・掃除などは労働時間とみなされます。この点は相談を受ける時こちらから確認しなければ表に出てこない事項と
  いえます。
D 変形労働時間制が採用されている場合には、事前にカレンダーが配布されているか、その通り運用され、恣意的に運用されていないこと。
E 最低賃金はほぼ毎年見直しがありますが、改定されないままであったり、改定月がづれている例が散見されます。またより高い産業別最低賃金
  に該当しているのに地域別最低賃金が使用されている例もあります。
F 内職とされるものがある場合には、「技能実習生の内職は、入管法上資格外活動となり許されていない。実習実施機関が技能実習生に技能実
  習の一部として内職を行わせたとしても、使用者である実習実施機関の行う作業・時間等の指揮命令により生産活動に従事している実態であ
  れば、これを雇用労働と評価することが適当であり、これを時間外労働として取り扱い、法定労働時間を超える場合は、法定の割増賃金を支払わ
  なければならない。」(JITCO 外国人技能実習生労務管理ハンドブックP14)
G 農業や漁業は労働基準法では労働時間や割増賃金が適用除外となっているが、技能実習生については、原則として適用除外として扱われてい
  ないため、適用除外を主張される場合には労働条件通知書で確認が必要。
A 賃金明細書
 賃金明細書の交付については所得税法が源泉所得税が計算できるものを交付すると定めているだけで労働法上交付の義務付けがないため市販の簡単なものでも構いません。しかし技能実習生制度の中で労働しているため、賃金と労働時間の関係また控除内容の明確に記載された賃金明細書の交付を義務付けてもらいたいと思います。技能実習生に関わらず、労働者にとっては自分の労働が賃金に正確に反映されているかチェックするために必要なものでありながら、労働基準法も賃金台帳としての記録は義務付けても交付まで義務付けていないのは不思議な気がします。
 ただ、JITCOの出している「外国人技能実習生労務管理ハンドブック」の参考資料の中に[参考資料5]として賃金支払明細書の様式が掲載されていますのでこうした内容が分かる賃金明細書を交付することが望ましいと考えられているといえます、
B 残業代の問題例
@法定労働時間の恣意的扱の例
 この事例はIHIの中の下請けか孫請けあたりであった問題で労働法の知識のないことをいいことに1週間の労働時間の合計が40時間を超えた部分に対して残業代が支払われると納得させていたものです。
会社から入手した稼働表(賃金計算期間:21日〜20日)
27
28
29
1
2
3
4
10
12
13
14
15
16
17
18
合計
曜日
合計
所定
8
7
8
8
7
8
8
8
8
165
残業
1
3
1
3
3
2
3
1
37

この表と本来の残業時間(稼働表修正後)及び賃金支給明細書を対比させたものが次の表です。

3月
稼働表
稼働表修正後
賃金明細
賃金未払額
@−A
労働時間
労働時間
@賃金
労働時間
A賃金
労働時間
202202177,581202172,2395,342
所定労働時間
165149122,925175144,375
造船業
最低賃金
825円
残業時間
375354,6562727,864
法定休日

a 「稼働表修正後」は会社の「稼働表」では土曜日の所定労働時間部分8時間が所定労働時間として集計されていたものを残業に移行させたものです。この月は上記の2回16時間でした。
b 賃金明細書の労働時間は問題ありませんが、所定労働時間と残業時間についてはいずれとも合致せず一定の操作が行われ割増賃金25%部分の未払いが生じています。
 この会社の残業時間の計算は、「日曜日から土曜日までの労働した時間を合算して40時間を超えた部分のみが残業となる」というものです。
 要するに、27日から3日までの期間の労働時間は42時間なので2時間の残業(本来は4時間)と計算します。12日から18日の期間は、52時間労働なので12時間の残業となります。1日8時間を超えても残業にはならないとの理屈です。12日から17日の期間の土曜日の8時間について割増賃金の対象となるかとの問題があります。ジャスト40時間だから「割増賃金の支払いは不要だ」というのもあながち間違いではありません。しかし契約書には法定外休日の割増賃金は25%と明記してあるのでその理屈は通用しないということになります。
c さらに悪いのは、賃金計算期間の初日からその週の土曜日まで、また最終日からその直前の月曜日までを1週間として計算していることでした。賃金計算期間の初日が木曜日であれば、木〜土曜日まで各10時間労働させても一切残業代は発生しないということでした。
A手当を残業代計算の基礎賃金に加えていない例
a 精勤手当が支給されていた例
 愛知県の造船所の技能実習生から送られてきた賃金明細書を見ると精勤手当が月2000円支払われていました。非常に珍しい例と思います。この手当は欠勤をさせない目的で導入されますが1万円前後が普通ではないかと思いますが、2000円と低額です。この手当は年次有給休暇を使用した場合に不支給とすることはできません。この会社の場合そのあたりが如何であったのかはよく分かりませんがが、残業代を計算するときの基礎給には含まれていませんでした。
 ちなみに未払額を計算すると、時間単価は15円(2000円÷(22日×8時間)×1.25)となります。彼の場合1年間に429.5時間の残業があったので6443円の未払があったことになり、精勤手当が支払われていない月についてはその理由如何によっては2000円×? の未払も考えられます、
b 基本単価720円、手当180円、残業単価900円としていた例
 これカキ養殖で働いていた日系ブラジル人であったものです。本人たちには時給900円として説明していたものでした。所定労働時間内の労働に対しては、時給720円、手当180円合計900円で計算し、残業については900円(720円×1.25)で支払っていました。手当は残業代の計算には入れないと説明されれば納得せざるを得ないかもしれません。
c 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の悪用
 これもブラジル人の例で、呉の造船所IHIの下請けで働いていました。賃金構成は次の通りです。

 時間給 
 皆勤手当 
 能率給 
 1,000円 
 15,000円又は20,000円 
 2か月に1回支給 

 残業代基礎給に皆勤手当と能率給は含まれていませんでした。皆勤手当については当然加える必要がありますが、2か月に1回支給する能率給をどのように考えるかといった問題がありました。会社側の言い分は、労働基準監督署に相談したら1か月を超える期間ごとに支払う賃金は残業代の基礎給に含める必要はないとの回答だったので、含める必要はないとの主張でした。しかし能率給の計算方法は、1か月の所定労働時間と残業時間を含めた労働時間に400円の単価を乗ずるものでした。前月の労働時間×400円と今月の労働時間×400円を合計した金額を支払うものでした。形の上では2か月に1回の支給となり、監督署の指導とも合致しますが、実態から判断すると単純に支払方法を各月にまとめただけであるため未払残業代として清算が必要となる例でした。

B1年単位の変形労働時間制の問題
 技能実習生の残業代の問題でよく出てくるのが1年単位の変形労働時間制をめぐる問題です。会社は、労働基準監督署に労使協定と年間カレンダーを提出しているといってきます。確かに形式的な導入はされていますが、実態としてその原則に則った運用が出来ていないことから残業代未払として問題とせざるを得ない事例に遭遇します。この問題については、1年単位の変形労働時間制とはどのようなものか、またどのような運用実態があるのかを調べて適用になるかどうか調べる必要があります。
a 1年単位の変形労働時間制の趣旨
 1年単位の変形労働時間制は、1年間の労働時間を平均して1週間40時間以内に収めることを条件に、1日8時間1週40時間の原則に関わらず労働日や日々の労働時間を一定の条件のもとに変更できるというものです。基本的な原則としては、@1日の労働時間の上限は10時間、A1週の労働時間の上限は52時間、B週1回の休日の確保、C年間休日は85日以上、D労働日と各日の労働時間の確定、E労使協定の締結と監督署への届出などがあります。年間の休日日数については一定の、=年間労働日数×所定時間÷(365日÷7日)=週平均所定労働時間で計算します。1日7.5時間労働であれば77日の休日が必要ですし、1日8時間労働であれば105日の休日が最低限度となります。
 こうした制度が設けられた趣旨また運用方法についていくつかの通達がありますので主な内容について列挙します。

@ 「労使が労働時間の短縮を自ら工夫しつつ進めていくことが容易となるような柔軟な枠組みを設けることにより、労働者の生活設計を損なわな
  い範囲内において労働時間を弾力化し、週休2日制の普及、年間休日日数の増加、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって
  労働時間を短縮することを目的とするものである。」(昭63.1.1基発1号)
A 「あらかじめ、業務の繁閑を見込んで、それにあわせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はない
  ことを前提としたものであること」(平11.3.31基発168号)
B「1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定め
  ることを要し、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、これに該当しないものであること。」(平11.3.31基発168号)
C「労働日の特定時には予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行わなければならなくなることも考えられるが、そのような休日の振替ま
  で認める趣旨ではなく、その場合の休日の振替は、以下によるものであること。」(平11.3.31基発168号)(就業規則に振替規定を定めておくこと
  と、また10時間労働することと特定された日と振り返る場合であっても、休日とされていた日は当初労働日と特定されていなかったため、8時間
  を超えて労働させた場合には時間外労働になる。)

b 事例
 工場では1年単位の変形労働時間制を利用する事業場は少なくありませんし、会社カレンダーを配布して問題なく運用されています。しかし、小規模の二次三次下請けになると業務の繁閑も一定せず、その通り運用できない実態があります。隔週土曜日が休みでカレンダーを作成していても、技能実習生は前日に仕事があるのかないのか確認が必要であったり、出勤すべき土曜日やその他の労働日で仕事がなく休業とすべき日を年休や欠勤として処理されたりしている例があります。またあるゴルフ場の技能実習生は、冬場の三か月間はゴルフ場が使用できないため、協同組合の寮に帰ってきて遊んでいるという例がありました。労使協定は労働基準監督署に提出はされていましたが、本人たちにはカレンダーの交付は無く、休日も週一回で労働日はお天気次第といった状態でした。日々の労働時間は管理されておらず、3カ月の休日があるため一年間の労働時間を平均すれば一週40時間は十分クリアー出来るためか、1日8時間を超えた労働に対しても残業代は一切支払われていませんでした。労働時間は、お客さんの入り具合やお天気次第です。技能実習生に3か月間もまとめて休日を取らせることを技能実習生制度が認めているのでしょうか。労働条件通知書には重機のオペレーターと記されていました。技能実習制度が建て前と本音の世界で運用されている典型的な例といえます。
 以上の例は、形式上の手続きは行っていても、その日の状況に応じて労働させているといったものですが、次の例は、当初から、月曜日から土曜日まで1日8時間の週6日労働を合法的に見せかけて行おうと最初から意図した悪質な例です。労働条件通知書に記載されていた内容と実態を対比すると次のようになります、