A国情からくる不信感の問題(警察、弁護士、治安)


 私達が教会のロビーで相談を受けていると沢山の研修生たちが傍を通り過ぎていきます。また相談に来ている人たちと顔見知りの人は近づいてきます。こうした機会に問題が無いかと問いかけても「問題ない」と答えますが、帰国が近くなったりすると相談に来ることから多くの人たちが問題を抱えながら抑え込んでいることが分かります。はっきりと「いろいろ問題はあるが怖いから相談はしない」という人たちもいます。知り合いもおらず、言葉もままならない外国で、協同組合と会社の人としか接触できない状態では自分の殻に閉じこもって我慢する以外ないのかもしれません。フェイスブックを利用したり、教会に顔を出すようになっても、賃金や労働条件のどこに問題があるのか分かりませんし、だれに相談すればいいのかも難しい問題といえます。当然、疑問点については協同組合が話を聞いてくれ、説明してくれるにしてもしっかりした通訳を連れてくるのはごく一部の協同組合の話でしかなく、受入機関側の日本語と片言の英語での説明に分からないまま頷いているにすぎないのが現実です。
 こうした現実に加え、技能実習生達が自分の抱える問題を提起することを恐れる原因の一つに母国の治安がしっかりしていないことからくる面があります。行政や警察が信用できないし、弁護士にしても相手が金を握らせて来れば簡単に相手方に協力してしまうということがあるようです。先のゴルフ場の技能実習生からも「この弁護士さんは信用できるか。相手から金をつかまされて立場を変えることは無いか」としきりに聞かれました。これを聞いたときびっくりしてしまいましたが、フィリピンではこれが当たり前だと一蹴されてしまいました。こうしたことから、技能実習生には、日本は安全で、人間は信用できるので、何らかあれば警察、消防署やコンビニに駆け込めと話しています。当然私達やユニオンも確実にみんなを守ることが出来ると納得させることが出来なければ前に進むことはありません。私たちと教会との関係やこれまでの活動などを知っているためこのあたりのことは問題はありませんが、いったん保護したり、交渉ごとになると母国の送出し機関から、「ユニオンを辞めなさい。彼らは仕事が無いので貴方のお金を狙って一生懸命になってるだけ」とか「入国管理局に記録され、これから他の国にいくことはできなくなる」などの脅しが電話やフェイスブックで送られてきます。当然家族からの電話もかかってきます。しかしいったん私たちと関係が出来た技能実習生達はこうした脅しに屈することは無く、むしろ笑い話として話してくれます。
 フィリピンの人と話していると時々びっくりするような言葉に驚きます。私がこうした問題にかかわりだしたころ日本に十数年住んでいるフィリピン人か私に、「日本ではピストルが買えないから」と言いました。私が「やくざは裏で買っている」と話すと、そんなことではなく「あなたみたいなことをフィリピンでやったら殺されても不思議がないので、護身用のピストルがいる」とのことでした。私たちは私たちの生活環境を標準にして相手のことを見てしまうと「かなりな額の残業代が支払ってもらえるのにの何故問題提起しないのか」と不思議な気持ちになりますが、こうした意識が心の奥迫にあればやむを得ないものと言わざるを得ません。

【送出し機関から技能実習生に来たメール】
 就業時間中に同僚の日本人から暴行を受けて鎖骨を骨折した技能実習生の事件で、警察に刑事告訴し、裁判で和解が成立した事件が持ち込まれた後に送出し機関から技能実習生にフェイスブックで送られてきたメッセージです。これを読んでいただければ送出し機関からどのような圧力がかかってくるかよく分かると思います。フィリピンの場合は、母国に保証金を積んでいないためこの程度のもので済んでいると考えられます。ただ自分一人で会社に残業代等の問題で苦情を言った時にこうしたメールを受け取ればどうでしょうか。日本も母国の状況と同じだと考えてしまい二の足を踏むことにはならないでしょうか。
 このメールには日本人は解雇されたとありますが、解雇はしておらず、同じ会社の他の事業所に移動しているだけでした。

 ジョエル元気ですか。あなたの電話番号を教えて下さい。話しましょう。
 今どこにいるの。
 会社は、貴方に怪我をさせた日本人を解雇したので会社に戻るようにいってます。
 ユニオンを辞めなさい。彼らは仕事が無いので貴方のお金を狙って一生懸命になってるだけよ。
 そして藤岡さんは貴方に仕事に戻ってきてもらいたいと考えているし、あなたは不法滞在しているので悪人になっているから私は会社に戻ることを勧めるよ。貴方達は裁判しても負けるのは分かっているのよ。貴方がかわいそうよ。
 日本の法律では働かない人は給料がもらえない法律があるよ。ユニオンはあなたを利用しているだけよ。
 馬場さんは貴方をかわいそうだと思っているのよ。彼自身IISの理事ですよ。
 だからもう一度お願いするよ。藤岡さんはまだ貴方を受け入れるのでこのチャンスを大切にして仕事に戻りなさい。あの日本人は解雇されたから。
 もしユニオンの人が貴方に話しをしてきたら次のようにいいなさい。「藤岡さんと話しをして問題は解決したのでユニオンを辞める。」と。
 会社に帰る前にユニオンに何も話さないでください。彼らは貴方を絶対に引き止めるからです。なぜかというと彼らは仕事がなくなり儲けが無くなるから。冷静に考えなさい。
 あなたが日本に来るときユニオンはなにもしていないでしょ。ユニオンを信頼しないで私達はお互い助け合うことです。貴方は自分のことだけ考えてはいけません。自分のやったことで迷惑がかかる人のことも考えなさい。
 馬場さんは貴方のやったことで頭を痛めているよ。お願いだから自分の仕事に戻りなさい。
 もし私と話したいなら事務所に連絡しなさい。もしいなかったら事務員に私の携帯電話の番号を聞きなさい。二人で話したほうがいい。
 今貴方が会社から出て行っているのはとても悪いことよ。これは入国管理局に記録され、これから他の国にいくことはできなくなるよ。もったいない話。ユニオンに行かなくても二人で解決できたのに。
 貴方はユニオンがどのような酷いことをしたか知っているでしょ!彼らは会社から250万円をとろうとしているのよ。法律的に会社は支払う必要はありません。貴方は仕事をしていないのだから。
 ユニオンは、会社が貴方を殺す計画をしていると貴方を脅して逃げるようにさせました。しかし貴方は死にませんでした。
 彼らは貴方に裁判官に嘘をつかせてお金を取るために利用するだけです。それは正しいことですか。そんなことをして貴方は恐ろしくないですか。貴方はユニオンの道具に利用されているのよ。貴方は大変なところに入ってしまったよ。
 藤岡さんは裁判で戦うといっています。馬場先生は、貴方が一番かわいそう、お金を持って帰ることは出来ないと言っていますよ。
 まだ時間があるので会社に戻ったほうがいい。入国管理局にまだ貴方が逃げたとの報告はされていません。もし報告したら貴方の記録は悪くなります。すぐに馬場先生に電話(連絡)しなさい。