@事業主の意識の問題


 外国人技能実習生が来日して3年間の研修生活がどのようなものになるかは本人たちの努力もさることながら、技能実習生を受け入れている会社がどのような考えで受け入れるに至ったかが大きな問題としてあります。この制度の趣旨に基づいた「日本の進んだ技術を学ばせるため」との意識ではなく、低賃金労働者の導入であることは確かです。低賃金労働者として労働法に即した扱いがなされておればそうした意識を特別問題とする必要はありませんが、会社の利益を優先し、残業代を支払う必要がないとか、人間としての尊厳を無視して会社の思うとおり働かすことが出来ると考えている会社が少なからずあるところに問題があります。そうした会社で研修を行うことになると様々な不満をもち、相談する勇気を持った技能実習生の場合には、相談先を見つけて問題提起へと進むことになります。
 これまで会社や協同組合と話している中で、現行制度になる前の研修生としての期間があった時は、残業は禁止されていたにもかかわらず、日常茶飯事に残業が行われており、「こちらから残業を命じているのではなく、研修生たちが残業をしたいといってくるからさせていた。」との言葉をよく聞きました。これを本人たちに確認すると、「会社から残業がしたいですか。」と聞いてくるから、当然、「したいです。」と答えたといいます。会社は「働かせたい」、研修生は「出稼ぎに来ている」との意識から両者の利害が一致して残業をすることになります。労働者ではないため、労働法の適用は受けないとの考えから、残業の時間単価は、中国人が300円、フィリピン人が500円といった相場があったようです。労働法の適用外だからといって、最低賃金を無視していいわけでもありませんので、最低賃金との差額が未払い賃金として問題となります。この労働法の適用を受けない研修生の権利を守るために研修生には労働者性があるとの立場から労働法の適用をすることで解決が図られてきました。また研修生が労働契約を交わした技能実習生になってからも一切残業代を支払わない例もあります。こうした会社側はどの様な意識を持ってこのようなことをしていたのかいくつかの例から見ていきます。
 技能実習生制度の大きな問題の一つに研修する職種が来日前に決められており、その認められた職種以外の職種に転換することが出来ないことがあります。会社が倒産したり、認められた職種以外で研修してることが発覚すると認められた職種の移籍先が見つからなければ帰国せざるを得ない宿命にあります。こうしたことを受入機関は承知しながらも無視して技能実習生を受け入れています。お弁当屋さんで働くフィリピン人の女性たちは、JITCOの職員がきたら「塩辛をつくっていると答えるように」と言われていると話してくれていました。彼女たちはお弁当屋さんは本来の研修職種でないことを知っていますのでそう答えざるを得ません。このお弁当屋さんは残業代を一切支払っていないため相談に来ましたが、怖いので帰国前に交渉してもらいたいとのことでした。そのため1年を超える期間労働時間を記録してもらい、それを基に支払い請求をしました。そうするとそれまで、退社時にお惣菜のあまりを持って帰らせていたが、「残業代を請求するのなら、その分の代金を支払え。」といってきました。同僚の日本人のバートさんたちも同じように持って帰っていました。あまれば廃棄するはずのものではないでしょうか。同じような例として、食事に連れて行ってあげた、家族の様に可愛がっていたなどの言葉を聞かされることもあります。それ自体は外国人に対して好ましいことではあっても、技能実習生達は、同時に、自分が雇用する労働者でもあります。その辺りのことをしっかり意識して対応できなければトラブルの原因としてくすぶり続けることになります。このお弁当屋さんは、交渉後、一切早出・残業をさせなくなりました。残業させるほどの仕事もなかったが、残業代が不要なら働かせよう、惣菜も持って帰らしていることだし、という意識でしかなかったとしか言いようがありません。
 次にゴルフ場で働いていた技能実習生の例も会社がこの制度を理解していないものとして挙げられます。この会社が、残業代を巡る裁判で提出してきた陳述書を見ると全く技能実習生の制度のことは理解しておらず、ただ「賃金が安い」との話を知人から聞き、協同組合の話を聞いてみようとの気持ちになったといっています。協同組合からは「賃金が安いし、よく働くのでフィリピン人研修生を受け入れてはどうか」と勧められた。しかし会社の業務は国道、県道、市道の植栽管理が中心であるため外国人の使用には二の足を踏んだが、ゴルフ場の経営もしていることから、こちらで使用できると考えて、研修生を受け入れることにした。ゴルフ場で使用することに問題があるとは協同組合は何も言わなかった。こうした内容のことが陳述書に記載されています。研修職種は「重機のオペレーター」でした。この協同組合ではこうした研修職種を無視したことを平気で行っているので協同組合に責任転嫁するのは分かりますが、受け入れる会社は技能実習制度に基づいて運用されていることは当然知っているはずですし、制度の趣旨も分からないまま受け入れたとはにわかに信じがたい話です。この会社も一切残業代は支払っていませんでした。彼らも後一年は請求しないとのことで、稼働記録を毎月送ってきていました。しかし数か月後、手根管症候群にかかった技能実習生が痛みから休業を始めたため、彼ひとりだけ残業代の請求をし、併せて傷病手当金の請求書類に証明を求めると解雇してきました。労働審判で残業代の支払いがなされましたが、会社はあと1名の技能実習生からの残業代の請求を恐れ、協同組合と相談もせず、勝手に解雇して、帰国させようとしたため連絡があり、保護することになりました。地位保全の仮処分申請で、残りの契約期間の賃金を支払わせましたが、残業代については話し合いに応じず裁判に進むことになりました。
 この二つの例は、技能実習生に対する会社のあり方として典型的な例といえます。この二つとも同じ協同組合の技能実習生であり、同じような指導を受けていたと考えられますが、お弁当屋さんの例は必ずしも悪意があったというよりは外国人に好意を持って向き合ったのはいいのですが、日本人と同じ労働者でもあることを軽く考えた結果といえます。ゴルフ場については低賃金労働者としてしか見ていなかったといえます。この二つの会社の意識の違いとして住まいの問題がありました。前者は本人たちも満足している住まいでしたが、ゴルフ場の方は、ゴルフ場に付属した建設現場用の粗末なトイレも使えないようなプレハブに住まわさせられていました。彼らの話によるとコンビニまで歩いたら4時間かかるとのことでした。もしマムシにかまれたり、猪に襲われて怪我をしたらどうするつもりだったのでしょうか。
 この協同組合と最初に関係を持ったのは二人の技能実習生の残業代の問題でした。教会で交渉をすることになっていた前日の深夜まで本人たちのアパートに押しかけて、ユニオンへの加入申請書の取り下げを強要して取り下げさせました。私達に取り次いできた人に泣きながら電話して来たとのことでした。1年近く経って彼が社長に金づちで頭を殴られ、50万円やるから帰れと言われて帰国したとの話をききました。しかし彼はこの50万円をもらってはいないらしいとのうわさもあります。
 これまでも最後の賃金等の清算は飛行場で行われるという話を聞きますが、その金額がおかしいとしても苦情も言えず、受け取らざるを得ない現実もあります。実際、帰国時の飛行場での問題で次のような例に遭遇しました。残業代の問題が解決し、帰国旅費は会社側が支払うとのことでしたが、福岡空港で送出し機関の通訳から飛行機代を請求されたと電話がかかってきました。とりあえず、こちらで支払うとのことで帰国しました。交渉窓口であった協同組合は私たちが運賃を支払うと言うとは考えていなかったようで、「飛行機代を支払うといったのは会社がチケットを買った場合で、今回は送出し機関が買ったためだ。」と言い訳をしましたが問題も無く解決しました。こうした例が全てとは言えませんが、これらの問題点が強弱は違いながらも混ざり合った状況が技能実習生を巡る受入機関にあるといえます。