2.支援体制の概要



 外国人技能実習生から相談を受ける場合、問題となっていること自体、日本人や技能実習生以外の外国人からの相談と大差はありません。しかし、相談を受け、解決に至るまでの過程には技能実習生特有の問題があり、これらのハードルを越えるための準備をしておかなければ相談を受けた時点、またはどこかの時点で、問題解決へ向けての努力を中止せざるを得ないのが現実です。早い話が「金の切れ目が縁の切れ目」というところに繋がってきます。相談を受け、解決までの流れを簡単に見ると、相談内容を検討して、保護が必要ならいつ保護し、どこに住まわせるか、解決までの生活費をどのように支えていくかが最大の問題となります。次に、できる限り早期に解決を図ることと最大の成果を導き出すためには単独で交渉にあたるか、他の機関との連携を図るか、また弁護士に依頼するのがよいかとの選択も重要な問題となります。そのためには一定の支援体制や連携体制を構築しておき、問題解決に動いている中で必要に応じてどのような組み合わせがよいのか模索していくことになります。

 支援体制構築の問題は別な項で扱うこととし、ここではどのような経緯で相談を受けてから解決に至るまでの一連の流れの中で関係する直面する問題や関係する機関について紹介します。

(1) 相談を受入の経緯と課題
 フィリピン人技能実習生を中心に外国人からの相談を受けていても、どこかに相談窓口を置いているのではなく、連絡に応じて対応しているのが実態です。不特定多数の相談を受けているというよりは、たまたま私を知っている人に巡り合った人が対象といえます。また、フェイスブックを通じて相談の来る地域が広がり、帰国した人たちから脱退一時金が支払われないといった相談も飛び込んできています。教会のロビーで相談を受けているため教会に相談窓口があるように見られているかもしれませんが、そうしたものは未だ組織されておらず、ミサの前後に相談受付窓口が設けられればより多くの人からの相談が受けられると考えられます。

 通常の相談は、懇意な数名のフィリピン人を通して連絡があります。また毎週英語ミサに出ていることから、ミサ前後に立ち話程度の相談は随時入ってきます。そうした立ち話を通じて労働問題以外に外国人が日本で生活する難しさを感じさせられています。いつも途中で立ち消えになる問題に偽装結婚ではないかと思われる人が絡んだ問題があります。必ずしも偽装結婚とは言えなくても年齢差や毎月5万円程度の生活費か婚姻に要した費用の返済の話が付きまとっています。

 教会に来る外国人といっても、教会の立地によって来る人たちは大きく異なっています。私の所属する広島市の幟町教会は在留資格では日本人の配偶者等、技術、人文知識・国際業務や定住者そして永住者といった長期滞在者、言い換えると生活基盤がしっかりしている人達、出稼ぎの成功者といってもいい人たちが中心です。そうはいっても労働がらみの問題がないわけではなく、大抵の人たちが日本人同様に黙認しているのが現状といえます。一方、呉教会は、生活基盤のできている人たちに加えて、日本有数の造船所であるジャパン マリン ユナイテッドや自動車関連等の工場等で働く技能実習生が沢山参加しているといった違いがあります。外国人問題で関係する教会としてはこの二つですが、大きな問題を抱えているのは教会から遠く離れた地域に住んでいる人達、教会に来たくても来れない人達と理由はともあれ教会に来ない人達です。

 私の守備範囲で、教会に来れない人達のグループに、音戸、倉橋、江田島で働いている人達がいます。平成25年5月から、江田島市の三高地区と高田地区でそれぞれ月一回土曜日の夜にミサを始めると20名前後の人たちが参加してきました。話をしている中でいろいろ問題があるのが分かってきます。カキ養殖業界全般の問題として社会保険や労働保険未加入の問題等があります。雇用の確保を考えるとなかなか問題としにくい問題であり、江田島市なり労働局や社会保険事務局が指導に入ってもらいたいと思っています。このグループは日系人が中心となっています。

 一方、東広島市を中心とした技能実習生のグループがあります。技能実習生の多くから受け入れ機関である協同組合や会社から教会に行くことを禁止されているとの話を聞きます。現実に、私と話していた女性の技能実習生は社長から電話がかかり、「今教会にいる。」と言ったら、すぐ帰るように言われて飛んで帰っていきました。こうした教会に行くことの禁止命令はフィリピン人技能実習生については全国的に行われていることかもしれませんが、それよりも問題なのは教会まで来る交通手段の問題です。郡部ではバスの便が悪く、バスとJRを乗り継いでくるとなると簡単な話ではありません。まして月曜から土曜日まで働かせられていれば、ミサどころの話ではないといえます。

 また幟町教会と目と鼻の先にある流川や薬研堀界隈の歓楽街にはフィリピン人経営のお店が30軒は下らないと聞いていますし、働いている人たちは100人を下らないと考えられます。この人たちを教会で見ることは少ないのですが、この人達を含めて、DV、ビザ、離婚、また物騒な話では主人からか肝臓移植を迫られている等様々な話が間接的に聞こえてきます。明け方まで働いていればミサへの参加も難しいため、歓楽街の真っただ中で夜7時ごろからミサをしたら何人集まるだろうかと考えてしまいす。当然、こうした人たち以外にも日曜日も働いている人たちも少なくはないようですし、子供を抱えていればなかなかミサに出たくとも出れない事情もあるといえます。

 以上が教会を中心とした活動の状況です。相談を受けることについてもう少し付け加えます。相談の連絡をもらうと、まず。日時と場所を決めます。幟町教会の場合は日曜日のミサの前後の時間、他の教会で行う場合は、ウィークデーの仕事が終わった時間や土曜日また日曜日となります。相談のある範囲は、東広島市と呉市在住者が多く、相談を受けた人に合わせて幟町教会か呉教会で相談を受けることになります。これ以外の地域では、尾道、福山、香川県、愛媛県や愛知県からの連絡もあるためそれぞれの地域の支援団体に依頼することになります。

 これまでの相談は技能実習生からのものが中心でしたが、技能実習生ではない、フィリピン以外の国の人の相談が増えてきています。この人たちの問題は労働問題以外の民事的な問題が中心となっています。また、フェイスブックに突然「○○さんからの紹介で・・」とメッセージが届きます。お互いが片言の英語とローマ字の日本語でやり取りするので理解するのにくたびれます。ある程度やり取りし、通訳してもらう人の電話番号を教えて次の段階に進むことにしています。

(2) 通 訳
 外国人技能実習生の問題を扱う場合意思疎通を図るための共通の言語が必要になります。労働契約書や賃金支給明細書等の資料を前にして片言の日本語で説明を聞くこともある程度は可能ですが、会社と交渉に入るとすれば細かな内容を把握する必要があるため彼らの母国語の通訳を必要とします。労働関係の知識や技能実習生制度についてある程度の知識のある人が望ましいといえますがそうした人はいないのが現実です。しかし同じ人に通訳を頼んでいるうちに経験を積んで大雑把なことは理解するようになります。

 フィリピン人の場合、ほとんどの人が英語ができますがその程度は千差万別で、基本的にはタガログ語でないと無理があります。これまで対応してきた技能実習生はセブ周辺の出身者が多く、ビサヤ語を話す人たちでした。通常の会話はタガログで問題ないのですが、文章になると「これはビサヤ語で書かれているので分からない。」と言われてしまうこともありました。

 通訳を依頼する人は広島市と呉市に数名いますが、みなさん仕事や家事の問題から時間的な制約も多いのが現実です。日曜日であれば教会に来ている誰かをつかまえて済ますこともあります。ただ問題があるのは、例外なく、「これはおかしい、こうじゃなければいけない。」と相談者に感情移入してコメントを加えながら通訳してくれるのでこちらが知りたい問題がなかなか聞き取れないという問題もあります。

 ユニオンに加入させる場合、特に裁判に進む場合には、頻繁に出てきてもらう必要もあり、多大な労力と出費を強いています。予定した時間と自分の時間とのせめぎあいからタクシーでの移動も少なくはありませんし、食事を負担してくれたりと目に見えない形での出費をしてもらっているのが現実です。機械的に要件を済ませるだけでなくすべてにわたって世話をやくフィリピン人のホスピタリティーの良さによるものですが、「金の切れ目が縁の切れ目」となる危険性をはらんでいるともいえます。

 知り合いとなったフィリピン人で日本語の通訳になれそうな人には電話番号を聞いていますが仕事をもっているためなかなか依頼する機会がありません。通訳についてはフィリピン人のグループの中でリストアップしてもらうようにお願いしますが、みんな仕事があるから難しいと断られてしまいます。フィリピン人の特性として、小さなグループはあってもそれらが大同団結して一つの連絡協議会的なものを造るところまではいきません。人の面倒見がいいのも事実ですが、どうしたわけか相談を受けた人が相談者を独占したがる傾向があります。私の所に相談者があると電話してきても、お互い時間の都合がつかず、通訳を用意するから○日の○時に教会に来させるように言うとそれに応じなかったり、日本語ができる人なら私に直接電話させるように告げてもそれを断られたりします。自分が最後まで責任をとれないからなのかどうかよく分かりませんがこうした経験がよくあります。

(3) 問題点の把握
 相談を受ける場合、本人たちの話や持ってきた資料を通して問題点を的確に把握することが出来なければ相談者の訴えだけを聞いて、問題なしとして帰らせてしまうことになってしまいます。場合によっては、そのまま強制帰国させられてしまうこともないとは言えません。

 残業代の問題が一番多いのでこれを例にとって説明します。

 相談に来るとき、契約書、賃金支払明細書とタイムカード等労働時間が分かるものを持参するように指示します。タイムカードや会社側の記録を持っている例は少ないし、労働時間の記録をつけている人も少ないのですが、自分の労働に対する正当な賃金が支払われているか関心の強い人や記録をつけておくようにと聞いている技能実習生達はそうした記録を持って来るので容易に状況が把握できます。記録がない場合には、1分単位で労働時間の記録をつけるよう指示し、一定期間の記録がたまった時点で残業代の計算をすることになります。これまで一番長い人では1年間記録したのち交渉に入った例があります。1年もかかった理由には、会社や協同組合に対する恐怖感から、帰国が近くなってからという例です。当然この期間中に私たちと接触を持っていることが会社に知られないように注意が必要になります。

 契約書を見ることによって、どのような労働条件で働いているのかが分かります。土曜日の残業をどのように計算するか、手当類が残業代の基礎単価に加算されているか、また変形労働時間制を利用していれば、それが認められるような運用がされているのか。こうした実態と賃金支給明細書を突き合わせて問題がないか検討します。一番時間のかかるのが労働時間の記録に従って日々の労働時間をパソコンに入力して正確な賃金と残業代の計算です。1年から2年分計算するとなるとかなりな重労働となります。ましてや数名の計算をするとなると・・。ここを完璧に抑えておけば作成した日々のデータと集計した金額を中心に交渉を進めることが出来ます。この集計作業で注意する必要があるのが、記録に現れてこない労働時間の部分です。すなわち就業時間前後の打合せや掃除時間です。また契約した1日の労働時間に満たない日が散見されることもあります。要するに会社都合による休業の扱いです。その他、年次有給休暇を会社の都合で勝手に使用させていることがあります。隔週2日制の場合、本来出勤日である土曜日に仕事がないから年次有給休暇として処理されていたり、1日の所定労働時間に満たない部分を年次有給休暇として処理されているケースです。こうした例では本人たちに「賃金カットがいいか、年次有給休暇を使用して賃金を100%もらうのとどっちがいいか」と確認したら、本人たちが了承したと会社は説明してきました。

 労働法、特に労働時間と賃金計算についての知識によって問題点の把握の仕方も違ってくるためいろいろな例を経験し、また他の支援団体の経験を共有する必要があります。

(4) 保護する場合の問題

 保護を要する例の中には暴行を受けてそれに対して会社が充分な対応をしなかったという例もありましたが、ほとんどは何らかの理由で一方的に帰国させられる場合です。この場合、支援者を知っていることが必要ですし、会社や協同組合と対決する強さが必要となります。こうした強制帰国には次のような事例があります。@会社の仕事が減少して解雇され、移籍先が見つからない場合、A本来の研修職種以外で使用していることが発覚し、移籍先が見つからない場合、B何らかの理由で会社にとって邪魔者となった場合(労災事故で負傷した場合)、C本人たちに過失があって帰国させられる場合などがあります。本人たちに過失があった場合でも、解雇が正当化される様な理由は少ないと考えられます。強制帰国になった場合の問題点として、@契約期間の残りの期間への補償、A解雇予告手当、B残業代の未払等、C研修を達成できなかったことへの損害賠償や慰謝料の問題があります。

 こうした強制帰国させられることになったので助けてもらいたいと連絡がありますが、時間的な余裕がまずないのが普通です。せいぜい2日か3日程度です。ひどい場合には24時間ない場合もあります。連絡があり、自分で逃げ出してこられるようであれば、場所を指定して来させますが、辺鄙な場所であればこちらからアパートまで迎えに行くことになります。スクラムユニオンでは飛行場で強引に数名の技能実習生を保護したこともあるといっています。これまではトラブルを起こさないよう夜迎えに行くことが多いので、住んでいる場所を探すのが大変になります。迎えに行くとなると技能実習生との連絡が頻繁になるので通訳を同伴するか、常に連絡できる体制を確保したうえで行動することになります。保護した次の段階は 住む場所の問題があります。夜遅い行動が通例であるため初日はホテルに宿泊させることになります。翌日からはどこか無料のシェルターを探すことになります。フィリピン人が自宅等を提供してくれたり、教会の一室を借りたりしてきました。過去の例から見ると半年から10か月と長期にわたって保護した例もありました。長期間泊めてもらうことで周りに大きな迷惑を強いることと伴に、技能実習生は研修先以外での労働が認められていないこと、生活保護の対象にならないことから生活費をどうするかが問題となります。失業保険が受給できる期間はいいとしても失業保険が出ないケースや終了した後は生活費を貸し付ける必要がでてきます。これまで1か月5万円の貸付をしていますが、この内から仕送りをしており苦しい生活を強いることになります。平成23年は裁判に入ったケースが3件あり総額で90万円、同時期に70万円の建て替えが発生していました。通常の支援はどうにかできるとしても長期間にわたるシェルターの確保と生活費の問題が解決できなければ誰かの善意に頼らざるを得ませんが、それでは「金の切れ目が縁の切れ目」となりいずれはこうした活動を終息させざるを得なくなるのが現状かもしれません。継続した活動を行っていくためには人材の確保もさることながらシェルターと生活費を貸し付けるための基金を確保することが不可欠といえます。

(5) 行政機関

@ 入国管理局とJITCO
 この二つの機関は技能実習生制度の運営上は重要な機関として存在しますが、実際の問題解決に当たっての有効な相談先として第一番目に出向く組織だと考えていましたが、問題解決に当たっての選択肢にならないのが現実です。ただ、身柄を保護した場合には、居住地の移動や研修をしていないことから在留資格要件を満たさないことになるため入国管理局に本人を連れて行き、状況説明をしておく必要があります。この場合でも、問題として正式に取り上げるのでもなく、了解してくれるわけでもなく、ただ状況を聞いただけという形にすぎません。しかし、係官によっては、協同組合に解決を図るよう電話をしてくれることもありました。

 JITCOについては「指導する機関ではない」と取り合ってはもらえませんが、失業保険を受給する場合には、JITCOに出向いて求職の手続という形をとる必要があります。雑談して帰ってくるだけの話です。

 この二つの機関以外に、技能実習生制度が適正に運用されているか立ち入り調査し強制力を持った是正勧告のできる第三者的な監査機関を設けなければ技能実習生制度の適正な運営は期待できないといえます。
 また、JITCOのHPによると、「入管法の改正に伴い、2010年7月1日以降に技能実習生を受け入れる監理団体は、講習期間中に専門的知識を有する外部講師による「技能実習生の法的保護に必要な情報」に係る講義を行うことが義務づけられました。」とあります。弁護士や社会保険労務士等でJITCOの講習を受けて登録されている者がこれを担当します。ただこれもテキストに記載された内容以外は話すことが出来ないと聞いたことがあります。労働法の知識については全員配布されるに日本語と母国が見開きで記載された「実習生手帳」に要点が記載されていますのでそれを見れば十分といえます。この手帳には、労働問題の相談先として都道府県の労働局監督課の住所と電話番号が記載されていても住所は日本語表記しかありませんし、果たして外国語に対応可能かとの問題もあります。できればこれに追加して各言語に対応できる各地の支援団体等の記載もあればとは思いますが、その前にこの手帳が確実に全員の手に渡っておかなければいけないのですが、これまで確認した結果では、「持っている。」と答えてくれる技能実習生の方が少ない状況です。

A 労働基準監督署
 労働基準法に関しての違反については労働基準監督署に相談に行き、是正指導を依頼することもできますが、解雇の問題となると解雇予告手当を除いて解雇の適否については受け付けることはありませんし、残業代の問題にしても3カ月の清算を基本に考えていることと2年の時効を超えての清算は取り上げてもらえないことなどもあり状況次第で活用することになります。ただ労働基準法は条文によっては懲役又は罰金といった罰則規定が設けられているので、この部分の刑事告訴も視野に入れる必要がありますが、係争中であればそれが解決るまでは保留する態度をとります。示談が成立すれば刑事告訴自体消滅してしまうという態度です。違反の事実があれば示談に向けての行為とは無関係に調査をし、罰則に該当する行為があれば検察庁に送り、罰則の適用をしなければこれからも労働基準法を順守しようとの気持ちを受入機関は持たないのではないでしょうか。以前JITCOから、監督署に訴えるとその記録は必ず入国管理局に報告されるとの話を聞きました。

 こうした労働基準法上の問題と並んで労災保険の窓口も労働基準監督署となります。研修生の制度があった時は、その期間、労災適用されていませんでしたが、今は最初の1・2か月の座学期間を除けば労働者となるため労災保険が適用になります。小さな怪我の場合、労災の適用がなされていない例が少なくないようですし、大きな怪我になると強制帰国になる例もあるようです。労災事故で治療中は解雇できませんが、1年契約であるため契約の更新をしなくても何ら問題はありませんので、治療が長引けば契約更新がなされずに帰国させられる可能性もあります。障害を負った場合には障害補償年金の問題が残ります。帰国してしまえば、このあたりのことは有耶無耶になってしまいます。当然、障害厚生年金の問題も同様です。労災事故に限らず技能実習生が死亡した場合の遺族厚生年金などどのようになっているのか考えてしまいます。

B ハローワーク
 技能実習生は労働者であるため雇用保険に当然加入することになります。しかし彼らは3年間の技能実習を目的としていても3年間の在留資格が与えられてはおらず、1年ごとに更新していますし、在留資格の要件を満たさなくなれば帰国させられます。会社が倒産し、移籍先が見つからなければ当然在留資格の更新はされませんし、何らかの理由で会社が労働契約の更新をしなければ同じ結果になるのかもしれません。また指定された職種以外の職種への転換は認められていないため会社の倒産等で移籍が必要となった場合には移籍先を探すことも難しい面があります。現実にこのような状況の場合には失業給付を受けながら移籍先を探すことよりも帰国が優先されてしまいます。実際問題として技能実習生が失業給付をもらうことは原則としてありませんが、会社が休業し、休業手当を支給しておれば、ハローワークを窓口として雇用調整助成金等を労働局に請求することは可能です。技能実習生よりも会社側に雇用保険加入のメリットがあるといえます。

C その他
 技能実習生が不当な取扱いを受けている場合、その改善を求めて相談できる機関は無いのが現実です。JITCOに電話する例もあるようですが、これらがどのように処理されているかは不明です。何らかの伝手を頼たり、インターネットでユニオン等の相談窓口を探して連絡を取ってきます。中には市役所や国際交流窓口等に飛び込みユニオンに連絡が来るというケースもあります。しかし、これらは自分で調べる場合であって、来日時の教育において指導されるものではありません。座学では、問題がある場合に実際に力になってくれる期間教えるべきだろうと思います。

(6) ユニオン
 個人的な支援活動の限界に相手側からの交渉の拒否があります。代理権をとれば問題はない話かもしれませんが、個人的な活動であればこちらが一人に相手方は多数という問題も出てきます。特段、法律に基づいた正当な範囲での交渉なので問題はないとしても、有利な解決を図ろうとすればこれらの問題に経験豊富なユニオンに加入させて一緒に団体交渉に臨むという方法が必要になります。そのためには技能実習生達の居住地に近いユニオンといつでも連携がとれる体制を構築しておく必要があります。

 現在の所、広島市の「スクラムユニオン・ひろしま」、福山市の「福山ユニオンたんぽぽ」の二つのユニオンと呉市にある「働く者の相談室くれ」と三次市の「働く者の相談室県北」との連携体制が取れており、状況に応じて協同しています。

 最近、中国地方と四国の瀬戸内側で活動しているユニオンが連絡協議会を結成したので関係づくりを進める必要があります。
 問題を抱えた外国人たちはインターネットの母国語のサイトを通じてユニオンの存在を知って連絡してくるようです。

(7) 弁護士
 弁護士とはユニオンとの連携で解決できない場合の次のステップとなります。しかし、最初から弁護士さんに依頼して交渉をお願いするのも有効な選択肢といえますが、費用の問題があります。一度、内容証明郵便を出してもらい交渉をお願いしたことがあります。その時は、相手方が旧財閥系企業の関連会社だったため内容証明を出すだけで解決すると考えたからでした。しかしこれで解決できる例はまずないといえます。問題は費用の点にあるのでボランティア的に動き、低額な費用で対応してくれる弁護士仲間を確保しておく必要があるとともに、労働法に精通し、技能実習生制度を理解している人が望ましいといえます。当然、労働関係の実務に精通した社会保険労務士等との連携も必要です。

(8) シェルター
 シェルターが必要になるのは、強制帰国となって保護を求めてきた場合です。連絡があってこちらから迎えに行くケースと逃げてくるケースとがあります。またユニオンでは時間がなく空港に出向いて保護した例もあるとのことでした。いづれにしても突発的に発生するので、まずその日の宿泊をどうするかとの問題、また翌日以降どこで保護するかは大きな問題となります。保護する期間は残りの在留期限までが限度となります。会社との交渉がスムーズにいけば1週間以内の帰国もあり得ます。しかしいづれにしてもその期間の宿泊先を確保する必要があります。これまで保護した初日はホテルに入れても翌日からは、幸いなことに無料で、教会やフィリピン人の自宅の提供を受けた家屋に住まわせることが出来ました。最長で10か月でした。当然、事案が重複すれば同じ部屋に同居してもらうことになります。ただこうした施設は常時利用できるものではないためその都度探し回ることになります。インドネシア人17名を保護しなければならない事態が一度発生したことがありました。結果としては保護することはなかったのですが、午後9時前後に保護して、その日の宿泊所は教会のお御堂、翌日からは遠方の廃止となった施設を利用する段取りが出来ました。彼らはイスラム教徒でカトリックの施設で問題ないのか、食事の問題など考える必要も出てきます。それ以前に通訳が確保できるのかとの問題もあります。

(9) 活動資金
 この問題も「金の切れ目が縁の切れ目」と言われるように切実な問題としてあります。今は個人的な活動であるため、自分の移動、その他の経費は少ない額ではないにしても好きでやっているので許容範囲で済んでいますが。前記のように保護する期間が1か月を超えるとなると生活費を支える必要があります。家賃、水道光熱費は宿舎の提供者に負担してもらっても彼ら自身の生活費と母国への仕送りの問題があります。これまでは1か月5万円を貸し付け、解決金から返済してもらっていました。彼らはこの中から仕送りをしていますので、1か月3万円程度の仕送りをしているので2万円程度で生活費となります。ハローワークから失業給付がもらえても90日で終わってしまいます。中には、会社が雇用保険の喪失手続きをしないため受給できないケースもありました。当然長期間になるとその期間内にユニオンや弁護士との打ち合わせや裁判所への出頭またハロワークへの手続きなど頻繁に出てきてもらう必要があります。市内であっても一回動けば500円弱の交通費がかかりますし、呉からくるとなれば1000円は必要になります。当然乏しい生活費から出さざるを得ません。打合せ等が終わると食事なり、お茶を飲みながら雑談をしますが、これはこちらのポケットマネーで賄います。この雑談を通じて新しい問題点が見つかることもありますし、技能実習生の生活や母国の様子などの話を聞く楽しみもありますので、ビジネスライクに用件が済めば別れるわけにもいきません。これまでに立て替えた生活費は1年間に延べ90万円、同時期に70万円の額に達しました。ここまで来ると個人的に対応できるレベルではなくなってしまい、これを機に50万円の目標で基金の設立をしましたがあと数年かかりそうです。使えば無くなってしまい、補充は難しいので生活費の立替のみを対象としています。

 この問題は技能実習生を支援する上では避けて通れない問題といえます。継続して支援するためには、個人の好意に頼るのではなく、交通費も含めてある程度は支援できる体制がないと新たな協力者は出てこないといえます。

(10) その他
 外国人に対する支援には日本語学習を始めとして様々な問題があり、さまざまな支援団体がありますが、労働問題を中心としているため直接関係を持つ団体はユニオンが中心になります。ユニオンの項に挙げたスクラムユニオンひろしまと福山ユニオンたんぽぽ以外のユニオンとは全く関係がありませんし、どのようなユニオンがあるのかも分かりません。ただたまたまフィリピン人を通じて知り合いになったことから、今日まで来ています。健康保険や生活保護の問題などについては呉市の日系人の問題を通じて「生活と健康を守る会」の協力を得たのでこうした問題については各地域の「生活と健康を守る会」を頼ることになります。こうした団体を大同団結した連絡組織があれば面白いのですが、それぞれの背景もあり難しい問題かもしれません。そうした利害関係が絡まない関係者を中心として平成平成24年6月に広島市で「技能実習生を支援する会」が結成されました。こうした問題に関心のある弁護士さん、中国語を学んでいるグループ、スクラムユニオン広島や私などが参加しています。この会は、直接問題解決に向けて活動する団体ではなく、広報活動を通じて情報の提供や支援者の連携を図ることを中心に活動しています。広報誌として「友好のかけはし」を年4回発行し、技能実習生向けのリーフレットの作成配布や裁判中の事件についての報告会等の活動を行っています。

 私自身の「フィリピン人労働者を支援する会」は先に述べた保護した技能実習生に向けて生活費を貸し出す基金の設立を目的としたものでメンバーを充実して活動をするといったところまではいっていません。本来は教会に来ているフィリピン人やベトナム人そしてブラジル人と教会の組織であるJ−Carm(日本カトリック難民移住移動者委員会)を含めた組織と考えていましたが活動に協力する人が見つからず個人的な基金管理団体として留まっているのが現状です。