平成20年度社会保険労務士労働基準法問題


【問1−B】誤り

[問題解説の主旨]
 就職するということは、労働契約を結ぶことを意味します。契約は民法の定め従って処理されなければなりませんが、労働の分野においては特別法として労働基準法がおかれていますので、労働基準法に定められている部分についてはこちらが優先されることになり、労働基準法に定められていない部分については民法の規定が適用されることになります。

[条文]
(賠償予定の禁止)
 第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
罰則:6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金】

民法
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 (賠償額の予定)
第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

[解説]
 労働契約を結ぶことにより、使用者は労働させる権利を得、労働者は労働を提供する義務を負うことになります。逆な言い方をすると、労働者は賃金をもらう権利を得て、使用者は賃金を支払う義務を負います。契約という行為は常に権利と義務という両刃の剣ということになります。さらに、付随的に発生する権利義務関係として、使用者は、安全で健康的な職場を提供する義務が発生します。労働者には適正な労働を提供するという義務が発生します。最近労働に起因するうつ病を発生した労働者の労災認定と損害賠償請求の新聞記事をよく見ます。ここでの損害賠償が労働契約に付随する信義則としての安全配慮義務や健康配慮義務違反に対して課される民法の規定による損害賠償であり、労災認定は労働基準法なり労災補償保険法の規定によるものとなります。
 上記の労働基準法と民法の規定の違いをみると、労働基準法が禁止しているのは、民法の第420条の賠償額を予定する場合だけで、第415条の本来の義務が果たせなかった場合には、損害賠償の義務を負うとの規定は適用除外されていません。業務中に会社の車で出かけて交通事故を起こした場合など、労働者が、「債務の本旨に従った履行」を出来なかったことを意味しますので、被害者に対する補償また社有車の修理代の弁済義務を負うのは当然のことといえます。この場合、使用者責任という問題もあり、被害者には会社が補償し、その後、労働者に対して求償を検討するということになります。
 実際にどのような場合に「賠償予定の禁止」に該当するか否かは下記の判例を参考にしてください。
【判例】

(1)  留学制度による留学学費については、従業員が一定期間会社に勤務したときは返還義務を免除する旨の特約付きの金銭消費貸借契約が成立し、費用負担は同契約によって決せられ、労働契約の不履行によって費用負担が決まるものではないので、違約金の定め、損害賠償の予定には該当しない。 (東京地平9.5.26)
(2)  企業の留学規定に基づき留学すれば留学費用を企業が負担し、留学終了後5年以内に自己都合退職等した場合には、留学費用を全額返還させるとの留学制度について、留学の応募自体は社員の自由意思に基づくものの、業務命令として留学派遣を命じているものと認定し、当該規定が本条に違反するとした。 (東京地平10.9.25)
(3)  美容師見習いにつき、勝手に退職した場合等には技術指導の講習手数料として入社時にさかのぼり一ヶ月につき四万円(月利3パ−セント)を支払う旨の契約について、従業員に対する指導の実態は一般の新入社員教育としてさして違いはなく、しかもこの契約により労働者の自由意志を拘束して退職の自由を奪う性格を有することは明らかであるので本条に違反する。(浦和地昭61.5.30)