平成17年度社会保険労務士労働基準法問題

【問7−E】 正解

[問題解説の主旨]
 私たち社会は、民法の規定によって社会秩序が成り立っているといえます。労働契約を考えてみると、今、労働契約法が検討されていますが、この法律が交付されるまでは、労働基準法によることになります。しかし、労働基準法における契約の考え方は民法の規定を基礎として成り立っています。一般論として定められている民法の規定を労働関係の特殊性に併せてつくられたのが労働基準法ですから、これに規定がない場合には民法の規定が適用されることになります。この問題はその典型的な例といえます。また、民法の規定を労働基準法が制限している場合もありますので、この当たりの認識しておく必要があります。

[条文]

民法
(隔地者に対する意思表示)
第97条
 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。



労働基準法

(制裁規定の制限)
第91条

 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

第12条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
  賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
  賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
A 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
B 前二項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
  業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
  産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
  使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
  育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項から第八項までにおいて準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第七項において同じ。)をした期間
  試みの使用期間
C 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
D 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
E 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
F 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
G 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる

[解説]
 会社で働いていく上での労働条件の基礎は、個別の労働契約ということになりますが、多岐にわたる労働条件全てを個別の労働契約書に記載することは不可能でしょうし、法律の改正に併せて契約内容の訂正をその都度おこなうことは不可能といえます。そのため、労働条件を統一的に決めた就業規則が作成されることになります。これは当然、会社の規模に応じて内容は異なりますが、労働基準法の定める労働条件を下回ることはできません。会社の実態に即した内容を定め、また可能な限り具体的な適用方法を明記しておく必要があります。この問題の内容自体労働基準法に定められているものですが、その効力を発行させる日については、労働基準法はなにも定めていません。そうなると契約についての一般法である民法の規定の適用を受けることになります。民法第97条は、「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定めていますので、この規定によって、平均賃金を算定する基準日が決定されることになります。
 設問にある、制裁を行う時に適用する平均賃金算定の基準日についても、民法の規定に従って次のような通達があります。「法第91条の規定における平均賃金については、減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日をもって、これを算定すべき事由の発生した日とする。」(昭30.7.19 29基収5875号)
 ちなみに、民法と労働基準法の違いをみると、「損害賠償額の予定」の問題があります。民法第420条は、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と賠償額を予定する契約を有効としています。一方、労働基準法は、第16条で「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と賠償額を予定することを禁止しています。どちらが優先されるかとなれば、労働契約という労働問題に特化しているので、民法の規定にかかわらず、労働基準法の規定が優先されることになります。