平成17年度社会保険労務士労働基準法問題

【問6−D】 誤り

[問題解説の主旨]
 就業規則は労働条件の統一的な適用という面と共に企業秩序を維持し、福利厚生を充実させるという面があります。そうした観点から、労働基準法では、労働条件の基本的な事項 (第89条の第3号まで)については絶対的記載事項としており、これら以外の事項については、3号の2以降に記載されているような事項についての定めがあるのならば、就業規則に記載する必要があるとしています。これらを相対的記載事項と呼んでいます。ここで問題となっている懲戒制度については、第9号に記載されているように相対的記載事項とされていますので、判例を知らなくても解答できるといえます。

[条文]
(作成及び届出の義務)
第89条
9.表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
(制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
(解雇)
第18条の2 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


[問題解説]
 会社の方針に従わない労働者に対して懲戒処分を行うことによって、会社の秩序を維持しようとすることは、スピ−ド違反は道路交通法で処罰されるのと同じように、当たり前のことといえます。しかし、懲戒処分に対する基準がなければ使用者の恣意によって行われることになってしまい、逆に会社の秩序を維持することが難しくなるといえます。そのため労働基準法では「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を就業規則に定めるように規定しています。会社の業務内容によって規定する事項は異なってきますので、内容についてまで労働基準法は規定していませんが、当然、公序良俗に違反するものであってはいけませんし、合理的な説明ができない内容では問題があります。

1.この問題関連の判例
(1) 企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行なうものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、または具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。(国鉄札幌運転区(国労札幌支部事件)

(2) 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。 (フジ興産事件)

2.その他懲戒関係の判例
(1) 懲戒権は原則として労働者の企業外における私生活上の言動には及びえないが、ただ労働者の職務外における私的な素行、言動についても、それが企業の運営に何らかの悪影響を及ぼし、それによって企業の利益が害され又は害されるおそれがあると認められる場合には、その限りにおいてこれを懲戒の対象とすることができる。(東京地41.2.10)

(2) 懲戒処分は労働者がした企業秩序違反行為に対する制裁であるから、一事不再理の原則は就業規則の規定にも該当し、過去に懲戒処分の対象となった行為について懲戒することはできない。過去に懲戒処分の対象となった行為について反省の態度がみられないことだけを理由として懲戒することもできない。(東京地裁平10.2.6)

(3) 始末書の提出は、謝罪処分にすぎず、懲戒処分の性質を含むものではない。したがって、始末書を提出させた後懲戒解雇しても二重処分とはいえない。(大阪地54.12.22)