平成17年度社会保険労務士労働基準法問題

【問6−A】 正解

[問題解説の主旨]
 問6では、就業規則について労働基準法等が定める条文についての問いではなく、その労働の現場で実際に発生した問題に対して裁判においてどのような判断が下されたかを問題としています。第1問目では就業規則の法的規範性が成立するための条件として適用を受ける労働者全員に周知されていることが必要だとされています。

[条文]

(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2.退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
4.臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
5.労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
6.安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
7.職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
8.災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
9.表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
10.前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
(作成の手続き)
第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
(制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
(法令及び労働協約との関係)
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(効力)
第93条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となつた部分は、就業規則で定める基準による。
(法令等の周知義務)
第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第5項及び第6項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第1項及び第5項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

[解説]
 常時10人以上の従業員を使用する事業主は就業規則を作成し、労働者の過半数代表者の意見書を添付して監督署へ届出ることが義務付けられています。しかし、就業規則は作製したが、労働者の過半数代表者の意見を聴かず、届出もしていない場合、また、労働者の過半数代表者の意見を聴いていても監督署に届け出ていない場合であっても就業規則は有効なものとして扱われますが、作成に関する手続違反として罰則の適用を免れることはできません。
 「労働者の意見を聴く」との定めについては、就業規則を作成する場合には、労働者が反対意見を表明していても何ら問題はありませんし、労働者が故意に意見書の提出をしない場合には、意見を聴いたことが客観的に証明できれば問題ないとされています。しかし、「就業規則は使用者が一方的に制定変更し得るものであるが、その変更が既存の労働契約と対比して労働者にとって不利益な場合にはその同意なくして労働契約の内容を変更し得るものではない。」(秋田地37.4.16)との判例もあります。就業規則の不利益変更を行う場合には、労働者代表の同意がなければ、変更以前の労働者に対しては適用されませんが、施行後採用された労働者に対しては適用されるということになります。ただし、この場合、不利益変更が社会的状況、また当該企業の状況等を考慮し合理的な説明が付くことが必要となります。
 つぎに、就職をするとなれば当然労働契約を結び、その内容は書面で交付する義務が使用者には課されています。しかし、沢山の労働者を使用する企業では個別の労働契約で労働条件を定めることとすれば、同一労働であっても労働条件の違いが生じないとも限りませんので、就業規則を定めることによって、画一的、統一的に労働契約が適用できることが可能となります。これが問題文中にある「就業規則が法的規範としての性質を有する」との文言の意味するところとなります。当然、就業規則が労働基準法に違反していないことと公序良俗に反しておらず、合理的な内容であることが前提となります。さらに、懲戒規定なども当然盛り込まれるはずですから、就業規則に定められている内容は労働者に周知されていなければ大きな問題が発生することとなりますので、最高裁の判例でも、問題文の通り、「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」(フジ興産事件、平成15.10.10)とされています。