平成17年度社会保険労務士労働基準法問題


【問1−B】正解

[問題解説の主旨]
 賃金の計算期間と支給する賃金の支給対象期間が異なる場合に全額払の原則との整合性はどうなのかという点が問われています。
 賃金に関する規程は、事業所ごとに大きく異なっているため一般的な賃金計算期間の例の説明と、賃金差し押さえと全額払いの原則の関係を見ていきます。
[条文]
第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
第89条 2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

[解説]
就職するに当たって最も関心が高いのが労働時間と賃金ではないかと思います。労働基準法では、労働契約を結ぶ場合、重要な労働条件については、文書で明示しなければならないと定めており、またその事業所の労働条件を就業規則として定めること、またそれに記載しなければならない事項も定めています。賃金の支払については第24条で、また就業規則に記載すべき事項(労働契約書も同じ)は第89条第1項第2号で定めています。 
賃金支払の5原則
就業規則に記載する事項
(1) 通貨払の原則
(2) 直接払いの原則
(3) 全額払いの原則
(4) 毎月1回以上払いの原則
(5) 一定期日払いの原則
(1)賃金の決定
(2)賃金の計算方法
(3)賃金の支払方法
(4)賃金支給対象期間
(5)賃金支払日
(6)昇給の方法

 ここで問題となっているのは、「賃金支払日」が「賃金支給対象期間」の末日であれば問題ないのですが、これがズレていることから「全額払の原則」に違反しているのではないかということです。
 賃金がどのように支払われているかをみると、1日から月末賃金を翌月の10日に支払うもの、前月の16日から当月の15日までの賃金を当月月末に支払う方法などいろいろあります。前者の場合には、基本給もその月の時間外手当等も一括して支払われるため設問の様な問題は起こらないでしょうが、後者の場合には、基本給また月額で固定されている手当類は16日以降月末までは出勤したものとみなし、当月の1日から月末までの賃金を、時間外手当等日々発生する手当類は賃金計算期間に応じて支払うのが一般的だといえます。そうすると、月末の支払日には16日以降の時間外手当類もまた欠勤した場合の控除額も無視されているということになります。現実に日々支払う賃金以外はこうした計算方法を取らざるを得ないといえます。就業規則に記載する事項としての「賃金の計算方法」に含まれる問題ですから、このあたりのことを明記しておけばいいといえます。
 全額払に関しては、会社の貸付金また交通事故で会社の車を壊し、毎月一定額を返済している場合については、事業主が一方的に賃金からの控除はできないとされていますが、労働者の同意がある場合には控除も全額払いの原則に抵触しないとされています。
 では、サラ金から賃金差し押さえの通知が来たとしたらどうでしょうか。この場合法律に基づいた賃金差し押さえ命令であれば、条文中の「法令に別段の定めがある場合」には控除して支払うことも出来るとされているため事業主は従わざるを得ないことになります。しかし賃金の全額を差し押さえてサラ金に渡したのでは、その従業員の生活が成り立たなくなってしまいますので、民事執行法では差し押さえできる賃金の額に制限を設けています。月額賃金の場合、賃金の4分の3(上限額は33万円)に相当する額は差し押さえできないとされていますので、使用者はこの規定に基づいて処理していかなければならないことになります。もし、会社に貸付金の制度があるようであれば、自社の貸付金回収のため、賃金差し押さえがあった場合の対処法も就業規則に定めておく必要があります。