平成17年度社会保険労務士労働基準法問題

【問1−A】正解

[問題解説の主旨]
 出来高払制で使用する労働者に対する保障給の額の決定に関する問題ですが、ここでは平均金賃金の計算方法に準じて1時間当たりの保障給の計算方法とその額(60%)の妥当性について問われています。
 どのような労働者が出来高払制労働者に該当するのか、保障すべき額はどの程度となるのか、また休業手当との関連はどうなるのかについて見ていきます。

[条文]
 第27条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
 第26条 使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

[解説]
 条文中の「出来高払制その他の請負制」について、厚生労働省労働基準局は、「請負制とは、一定の労働給付の結果又は一定の出来高に対して賃率が決められるものである。本法においては、出来高払制は請負制の一種であると解している。」と説明しています。従って、普通私たちが考えている請負制、すなわち「Aというパソコンソフトを5万円で3日間で作成する。」というものではないことに注意しておく必要があります。あくまでも出来高に応じて賃金が決定されるというもの、要するに、出来高払制と同義語と考える必要があります。
「出来高払い制で使用する労働者」の身分関係はどうなっているのかを考えて見ます。
  (1)  労働契約を締結した100%出来高制の労働者、
  (2)  労働契約を締結した固定給と出来高給が併用された労働者
 という2つの形態が考えられます。契約内容の違いはあっても第27条が規定しているのは、どのような契約形態をとろうが「一定の労働給付の結果又は一定の出来高に対して賃率が決められるもの」を対象とした規定であるといえます。しかし、(3)の場合には第27条に規定する「出来高払制その他の請負制で使用する労働者」に該当するかどうかという問題があります。通達によると「賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額中の大半(概ね六割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる「請負制で使用する」場合には該当しないと解される。」とされています。
 (2)と(3)に該当する職業としてはタクシ−の運転手さんがあります。(2)の100%歩合制であれば1日働いてもお客さんに乗ってもらえなければその日はただ働きとなってしまい、生活が成り立たなくなってしまいますので、この規定が生きてくるといえます。この規定に準じて、「自動車運転者労務改善基準」では「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の六割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること。」とされています。さらに歩合制に関して、「歩合給制度のうち累進歩合制度は廃止するものとすること。」とされています。この累進歩合制度とは、売上が増えれば増えるほど運転手さんの取り分が増えるように歩合給の率を設定するものですが、この結果、長時間乗務から健康また安全確保の面からも問題がある制度といえます。累進歩合制度をとらないにしても、基準を無視した乗務を黙認し、過労による事故が発生し、運転手さんが亡くなれば、遺族から安全管理義務違反として事業主さんは責任を問われかねないといった問題も潜んでいます。
 どの程度の額を補償すればいいのかとなると、第27条では「一定額の賃金の保障」と記載しているだけで規則等でも、この金額がどの程度かといったことは一切決められていません。運転手さんの基準では、「通常の賃金の六割以上の賃金が保障」されるように定めていますが、第26条の休業手当にしても傷病手当金、雇用保険の基本手当の額などをみても共通して六割の額が示されていますからこの辺りの額で就業規則または労働契約等で定めておく必要があるといえます。定めていなかったとしたら、第120条第1号違反として30万円の罰金が事業主には課されますが、判例によると、この規定は、単に使用者に対し労働契約において保障給を定める義務があることを規定しているだけで、労働契約に保障給の定めがない場合には、労働者は使用者に対して保障給を請求できないとされています。
 では、第27条に該当するタクシ−の運転手さんの例(全額出来高制か固定給の割合が60%以下の場合)を取りますが、車検に出した車が帰ってこず、その日乗務できなかった場合はどうでしょうか。第26条の休業手当の規定に基づいて平均賃金の60%を支払ってもらうことが出来るでしょうか。しかし、賃金支払原則として法的に定められたものではありませんが、働いていないのだから賃金はもらえないという「ノ−ワ−ク・ノ−ペイの原則」もあります。第27条と第26条の条文を見ると、第27条は「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」とかかれており、労働した場合の賃金の保障について規定しているにすぎません。一方、第26条は「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合」と限定されています。従って、「保障すべき賃金と、保障しなくていい賃金とがある」ということになります。先にあげた2つの契約の形態のうち、(1)の場合には、労働していないので補償する必要がないことになります。しかし、(2)の固定給と出来高給の併用となれば、「ノ−ワ−ク・ノ−ペイの原則」によって出来高給については何ら保証する必要はないが、固定給部分については、第26条の規定に基づいて平均賃金の60%の休業手当の支払が必要になります。ただ、車検から帰ってきたのが、昼からで、それまで事務所で待機しており、結果として4時間の乗務しかできず、売上も減少したのであれば、「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」との定めに従って、手待時間も含めて8時間分の出来高給部分に対して保障しなければならないといえます。
 問題文中に、「労働時間に応じ1時間当たり、過去3か月間に支払った賃金の総額をその期間の総労働時間で除した金額の60パ−セントを保証する旨を規定」とあります。第27条に従い1時間当たりの補償額を規定しているのでなんら問題はありませんが、もし、このようにして算出された額を上回る額で1ヶ月当たりの補償額を決めている場合はどうでしょうか。このような決め方は、夜勤手当などでみることも出来ます。交代制勤務で22時から翌日8時まで、休憩時間2時間の勤務をした場合、22時から5時までは深夜割増賃金の対象となりますが、深夜割増賃金を支払わず定額の夜間勤務手当を支払う場合です。この場合、深夜割増賃金を上回るように決定された夜間勤務手当であれば問題ありませんが、そうでなかったら問題があるといえます。同じように考えても支障はないでしょうが、第27条の場合には、このような一定期間を対象とした賃金保障の考え方を採っているのではなく、あくまでも働いた時間に応じた賃金保障についての規定であることに注意しておく必要もあります。