うつ病で解雇無効の記事から


うつ病で解雇無効 東芝に賠償命令

 過重な労働からうつ病になって休職したのに解雇されたのは不当だとして、東芝の元社員、Sさん(41)(埼玉県深谷市)が、東芝に解雇無効などを求めた訴訟の判決が22日、東京地裁であった。鈴木拓児裁判官は「業務以外にうつ病を発症させる要因は認められず、解雇は違法」と述べ、解雇無効と未払い賃金や慰謝料など計約2800万円の支払いを命じた。東芝側は控訴した。 原告代理人によると、業務が原因でうつ病になった社員の解雇を無効とした判決は例がないという。 判決によると、東芝の技術系社員だったSさんは2000年秋以降、液晶生産に関する新規プロジェクトを担当し、1か月の時間外労働が約90時間に上った。その後、うつ病を発症して01年9月から休業し、04年9月に解雇された。 

(読売新聞 H20.4.23)

 職場におけるメンタル関係の問題は大きな問題として注目されています。えくれしあ第42号で労災請求件数が平成11年以降急速に増加している様子を報告させていただきましたし、過労死と労災認定、メンタルヘルスマネッジメント検定の話なども掲載してきましたが、今回の新聞記事もそうした流れの中の問題といえます。この事件の争点は解雇無効と解雇という不法行為に対する損害賠償請求といえます。労災認定についてはなにも触れられていませんが、事件の争点から見れば当然関係してくる部分といえます。未払い賃金の支払いを命じているのは労基法第76条の休業補償(平均賃金の60%)かと推測します。当然、労災申請すれば最初の3日間を除いて休業補償給付として給付されます。この記事を勉強材料として、(1)うつ病が業務に起因していると判断される場合、(2)「業務以外にうつ病を発症させる要因は認められず、解雇は違法」とされたこと、(3)休職期間満了時の扱い、の三つを簡単に見ていきたいと思います。

(1)うつ病が業務に起因していると判断される場合
 うつ病などの精神的疾患を労災認定するための基準として、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(H11.9.14基発第544号)を出していますので、これを基にして判断することになります。この指針では精神的疾患を10に分け、このいずれかに該当する疾患でなければなりません。うつ病はF3の気分〔感情〕障害に該当し、業務に起因する疾病とされます。次に@対象疾病の発病前おおむね六か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、A業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと、の条件を満たさなければなりません。「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(H13.12.12基発第1063号)では、@ 発症前一か月間ないし六か月間にわたって、おおむね四十五時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること、A 発症前一か月間におおむね百時間又は発症前二か月間ないし六か月間にわたって、一か月当たりおおむね八十時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること、としています。直接、うつ病の発生も同じとはいえないとしても参考になると思います。うつ病発症前に「1か月の時間外労働が約90時間に上った。」とあります。また、時間外労働以外の個人的な原因は無いと判断されていますので、過重な時間外労働が原因だったと判断されたようです。

(2)業務以外にうつ病を発症させる要因は認められず、解雇は違法
 言い換えれば、「うつ病は業務上疾病に罹ったものであるから解雇できない。」ということになります。この根拠となるのは、労働基準法は第19条になります。この規定をみると「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」要するに、Sさんのうつ病は、業務上疾病だからその療養中は解雇が出来ないので、会社が行った解雇は無効だということになります。
 Sさんは解雇されるまで業務上疾病として労災申請を会社に要請していたのかどうかは不明ですが、労災認定のことが記事に出てきていませんし、私傷病として休職しており、解雇となって始めて、業務上疾病で療養中だから解雇無効だとの訴えを起こしたものと思えます。昨今の状況から、また、共同通信の記事をみると同工場は、01年にうつ病を発症して自殺した社員が労災認定されていると報道されていることから考えても配慮が足らなかったといわれても仕方がないかも知れません。
 会社は控訴していますが、もし敗訴すれば、休業初日に遡って労災申請をおこなうことになりいろいろな処理が必要になります。労災保険で給付されない最初の3日間の休業補償は会社が支払う必要が出てきますし、健康保険組合が支払った医療費や傷病手当金などは労働基準監督署に健保組合が返還を求めることになります。

(3)休職期間満了時の扱い
 休職の制度について法律は何も定めていませんので、この制度を設ける必要はありませんが、導入するのであれば各企業が自由に定めることになります。会社の都合による休職もあるでしょうが、私傷病時の扱いが中心となります。記事の中に「うつ病を発症して01年9月から休業し、04年9月に解雇された。」とあることから、Sさんの勤続年数では3年の休職期間が就業規則に定められていたと考えられます。また、この事件では、休職期間満了により退職ではなく解雇と表現されていることから、休職期間が満了すれば例外なく退職となるのではなく、「状況によっては休職期間を延長する場合もある」と定められていたと推測されます。そうであれば、30日前に解雇予告(労基法第20条)をする必要が生じます。もし、休職期間満了の30日前までに休職期間満了で解雇になる旨の通知をしなければ平均賃金の30日分の解雇予告手当の支払いが必要となります。定年の場合も同様の扱いとなります。この件に係わらず、就業規則の定め方と法律との関係が分かっていなければ思わぬ問題が発生しないとも限りません。