帰宅途中に義父の介護(1時間40分)をしたら通勤災害と認められないか?


介護で寄り道は「通勤」 休業補償の不支給取り消し

 共同通信によると、義父の介護のために寄り道した後、帰宅する途中に交通事故に遭ったのは通勤災害だとして、大阪府富田林市の男性が、休業補償を不支給とした羽曳野労働基準監督署長の処分取り消しを求めた訴訟の判決で、大阪地裁は 12日、請求を認めて支給を命じた。
 通勤経路を外れたことが日常生活上、必要な行為だったかどうかなどが争点となり、山田陽三裁判長は判決理由で、介護の内容を具体的に検討。両足が不自由な義父と同居する義兄の帰宅が遅く、男性が週4日程度介護していたことなどから「必要不可欠な行為」と認め、決定を取り消した。
 判決によると、男性は 2001年2月26日、富田林市内の建材店での勤務を終え、通勤経路とは異なる市内の義父宅へ向かった。夕食の準備などの介護をした後、徒歩で帰宅途中に交差点でミニバイクと衝突、脳挫傷などのけがをした。2003年2月に休業補償の支給を労基署長に請求したが翌3月、不支給の決定を受けた。

平成18年4月 12日 (独立行政法人労働政策研究・研修機構メルマガから)

 高齢化社会となって年金や健康保険の問題もさることながら、介護に係わる労働問題もいろいろ発生しています。家族の介護を理由に、他県への配置転換命令無効の確認訴訟で、裁判長は配転命令権の濫用との判断を下した事件もあります。ここでは業務終了後、義父の家に寄り、介護をした後の帰宅途中での交通事故を労働基準監督署が通勤災害と認めなかったこと(労災保険審査官、労働保険審査会の判断も同様であった)から訴訟となり、裁判所は通勤災害に当たるとしたものです。
 この裁判で通勤災害として認定できるか否かの問題点が三つ挙げられ、それぞれに対して裁判所は次のように判断しています。

(1) 義父の介護のため合理的な通勤経路を逸脱する行為は「就業に関し」の要件を満たしているか。

  「この原告の移動は,業務の終了により本件事業場から原告の住居へ最終的に向かうために行われたものであり,労災保険法7条2項のいう「就業に関し」(業務関連性)の要件を充たすものと認められる。」


(2)

 義父の家出介護に1時間40分の時間を費やしているが、労災保険規則8条1号の「日用品の購入その他これに準ずる行為」で想定している時間を大きく超えているのではないか。

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 「義父と同居する義兄又は原告の妻による介護のできない時間帯において原告が介護することは,原告の日常生活のために必要不可欠な行為であったと認められるところ,労災保険規則8条1号の「日用品の購入その他これに準ずる行為」には,このような介護をも含むものと解される。」

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 「原告が本件事故の当日に義父の介護のために義父宅に滞在した時間は約1時間40分程度であるし,その間に原告が介護以外の行為に時間を割いたことは窺われないのであって,この滞在は介護のためにやむを得ない最小限度のものであったと考えられる。」


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(3)

 本件交差点の北側を東から西へ横断する限りにおいて合理的経路といえるが、東側を南から北に横断する時点で被災しているため合理的経路にまだ復しているとはいえないのではないか。

 「本件交差点が特に規模の大きな交差点ではないことを考慮すると,本来,合理的な通勤経路を判断するに当たって,本件交差点のどの部分を横断することが合理的であるかまでを厳格に検討する必要はないというべきである。しかも,証拠によると,原告は,本件交差点東側の道路(幅員約3.9m)を南から北へ約3mわたった地点で本件事故にあったことが認められるのであって,原告が本来の合理的な通勤経路に復した後に本件事故が生じたものと認めて差し支えないと考える。」


 労災保険法では、就業を目的として、住居と就業の場所との間の往復を合理的な経路及び方法により行う場合、及びその途中において、日常生活上必要な行為で、必要最小限の行為を行っている場合に限り、その合理的経路を逸脱または中断した間を除いて労災保険の対象としています。この裁判では、1時間40分の介護が長すぎるのではないか、また事故が起きた場所が本来の通勤経路上にあると認められるのかが主な争点になったといえます。しかし、小さな交差点で道路を横断する場所、それも90cmを問題にするのもどうかと思います。裁判所の判断のように小さな交差点は一つの場所として扱うのは妥当な判断かと思います。介護の問題などこの条文がつくられたときには考慮されてはいなかったと思います。社会の変化にともなって法律の条文も解釈も変えていく必要があります。こうしたことから平成18年には単身赴任者の帰省先と赴任先の住まいとの間の往復途中の事故も労災とする旨の条文が追加されました。

 労災保険法は第7条(注1)で通勤災害について定めていますのでその要点をみておきます。

1. 通勤と就業との関連性

 住居と職場との往復が就業することと密接な関連がなければなりません。自宅からそのまま出張先に行ったり、お得意先や官庁に寄って出社する場合には、就業するためではなく、業務のためとなってしまい通勤とは認められませんので、事故が発生すれば業務上災害として扱われますし、退社時も同じことになります。
 ラッシュを避けるため早く行くことには問題はありませんが、資格試験の勉強をするため早朝に出社する場合には、勉強が目的となってしまうので通勤災害とは見られないということになります。


2. 合理的な経路及び方法

 自宅から事業所までの常識に考えられる通勤経路と通勤方法を意味していますので、通勤手当支給申請書に記載された経路また方法に限定されることはありません。その日の状況で、徒歩、公共交通機関またマイカーを使用しても問題はありません。また、共稼ぎの夫婦が子供を保育園や実家に預けに寄る経路も合理的な経路とされます。ただ、近所の多くの人が近道だとして鉄道線路を歩くルートや無免許運転をする場合などは当然のことながら「合理的な経路及び方法」と認められることはありません。


3. 単身赴任者の自宅と赴任先住居との往復(7条2項3号)

 家族と別居する特別な事情がある場合には、この間の往復も通勤として扱われます。特別な事情には、家族の介護、子供の就学、配偶者の就業、自宅の管理などがあげられています。


4. 通勤経路からの逸脱または中断

 原則として、通勤経路から逸脱また中断した場合にはそれ以降は通勤災害として認められませんが、次の場合には、日常生活上必要な行為であって最小限度のものであれば、逸脱・中断した間を除いて例外として認められ事があるとされています。

@ 日用品の購入その他これに準ずる行為
A 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
B 選挙権の行使その他これに準ずる行為
C 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

 施行規則に記載されている内容ですが、全て自分自身に係わるものであり、家族の介護などについては触れられていませんが、この裁判では「日用品の購入その他これに準ずる行為」に含まれるものと解釈されました。しかし、必要最低限のことですから、もし、義父の家で入浴したり、一杯飲んだりすれば例外規定は適用されないでしょうが、ケースバイケースで検討されなければならないものといえます。「職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」にしても、社労士受験講座に通う場合、カルチャースクールで労働基準法の講座に出席する場合、一般教養として英会話教室や生花教室に通う場合なども含まれると考えてもいいのでしょうか・・。認められるとしてもここに掲げられた必要最小限の時間に限られていますので、友人とばったり出会って雑談した場合などもその時間が問題になるといえますので、厳格に考えなければならないといえます。

【不服審査請求】
 通勤災害として労働基準監督署に保険請求し、不支給と決定された場合の対処方法としては、この事件の場合がそうですが、裁判に至る前に、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行い、再度不支給とされた場合には、労働保険審査会に対して再審査請求をし、ここでも不支給が正当とされた場合には、裁判に訴えるという流れになります。こうした一連の流れは、雇用保険の場合も同じですし、健康保険や厚生年金保険の場合も同様ですが、社会保険審査官また社会保険審査会と名称が変わります。

(注1)労災保険法の規定
第7条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1.労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
2.労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
3.2次健康診断等給付
2 前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有する
 ものを除くものとする。
1.住居と就業の場所との間の往復
2.厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
3.第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
3 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間
 及びその後の同項各号に掲げる移動は、第1項第2号の通勤としない。
 ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための
 最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。