始業・終業時刻前後の労働時間のこと


残業代613万円未払い
メルパルク広島に是正勧告


(略) 各部署の上司が記録した残業終了時間を超えて、従業員のタイムカードに残業終了時間が記されていることが、同労基署の4月の調査で判明した。
 メルパルク広島側は「従業員は上司が命じた時間に残業を終え、タイムカードを押していると思っていた」と説明。今後は、各部署の上司の目が行き届くよう、3か所だけのタイムカード機を9つの部署内全てに設置するとしている。(略)
(読売新聞H20.5.17)

<ワタミ>バイト217人に未払い賃金1280万円支払う

 「ワタミ」(東京都)の子会社で居酒屋「和民」などを全国展開する「ワタミフードサービス」(同)が、勤務時間を少なく算定していたとして、アルバイト店員計217人に総額約1280万円の未払い賃金を支払っていたことが分かった。
 ワタミによると、06年9月にフードサービス社が北大阪労働基準監督署から一部店舗での勤務時間の不当算定に関し、是正指導を受けた。その際、同監督署の指導で「和民香里園駅前店」(大阪府寝屋川市)など府内6店について調査し、アルバイト店員の勤務時間を30分未満は切り捨てていたことが判明。6店の計60人に、未払い賃金約400万円を支払った。
 同社はさらに昨年、全国約400店のアルバイト店員約1万2000人を対象に過去2年間にさかのぼった実態調査を実施。41店157人に対し賃金未払いがあることが新たに分かり、約880万円を支払った。

(6月1日20時28分配信  毎日新聞)

 ここに挙げた新聞記事のように労働時間の算定の仕方を誤ると賃金の未払いとなり労働基準監督署の指導を受けることに繋がってきますのでこの辺りのことを考えてみたいと思います。
 メルパルク広島の場合、従業員からの申告ではなく、抜き打ち検査で発覚したと毎日新聞は報道しています。記事を見ると「各部署の上司が記録した残業終了時間を超えて、従業員のタイムカードに残業終了時間が記されている」ことから賃金未払いとの是正勧告を受け、支払うことになり、改善策として「3か所だけのタイムカード機を9つの部署内全てに設置する」ことにしたとしていますので問題となったタイムラグは大きくはなかったのかもしれません。たとえば、業務を終了して、制服を着替えてタイムレコーダーを押しに行くと20分程度の時間が過ぎてしまうような場合であれば、各部署にタイムレコーダーを置き、タイムカードを押した後に着替えをすれば解決するかもしれません。ただここには制服や作業着への更衣時間は労働時間とみなされるかという問題があります。例えば、「作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。」(三菱重工業長崎造船所事件最高裁H12.3.9)との判例があることから制服に着替える時間も労働時間と考えることができます。この判例は造船所の現場で作業服や保護具により労働災害から身体を守るという場合が想定されていますので一般的な職場での作業服や制服への更衣時間が即労働時間となると短絡することには疑問を感じます。「一般に更衣時間は労働時間ではないが作業着の着脱等も、その作業服が制服として着用を義務付けられていたものでない以上は、・・労働時間とする理由にはならない。」(大阪地裁S.56.8.25)との判例もあります。また最高裁の判決に「社会通念上必要と認められる限り」という文言が入っているように更衣時間を無条件に労働時間としているわけではありません。作業服や制服を自宅から着用してくる人もおり、社会通念上は労働時間と考えることには無理があるといえます。しかし、ホテルや飲食店での接客担当者の服装点検が厳格に行われる職場であれば更衣時間は労働時間に含まれると考えられます。労働の現場の状況を検討した上で無いと結論はでない問題といえます。  また、始業・終業時間に接した時間帯の準備また整理時間的なものをどこまで労働時間と見なすかは難しいと思います。終業時間を目指して仕事をしていても区切りが悪く15分程度で終わるのであれば労使ともに残業との意識はないと思います。残業となるためには使用者の残業命令が必要でしょうが、指示も無ければ、残業するとの意思表示も無いこのような時間を、行政側から黙認していたと言われれば反論も難しいかもしれません。そのため、監督署から是正勧告を受けた某社では、出社した時間、仕事を始めた時間、仕事を終わった時間そして退社する時間の4回タイムカードを押すことにしたと聞いたことがあります。このようにしたところで労働時間と出退社時間のタイムラグが大きければ残業隠しの疑惑をもたれてもやむを得ないと言わざるを得ません。また、パソコンに電源を入れた時間、切った時間の記録から労働時間のチェックもできます。こうした機械的なチェックを行ったとしても実際に残業なのか、個人的な活動のために使用していたのかとの疑問は残ります。この場合には、服務規律で会社の施設や備品を私的に使用することを禁止しているはずですから、時間外管理に併せてそうした面での管理も適切に行われていなかった報いと謂わざるを得ないかもしれません。
【残業とみなされるための要件】
 労働契約で定められた時間が労働時間で、それを超えれば全て残業時間となるということは当然のことですが、工場のようにラインが終業時間に止まったり、次の勤務の人に引継ぐような職場と事務職の職場とでは労働密度の違いもあり、同列に考えることに違和感を感じるのは私だけではないと思います。しかし、労働契約がある以上、労働契約で決められている始業終業時間前後に1分でも仕事をしていれば残業時間と考えるのが「法律的に正しい」ことを理解し、労働時間管理の在り方を考え、そして状況に応じた運用方法を考えていく必要があるといえます。
 労働者に残業を行わせるためには、就業規則や労働契約で残業があることを明記し、労使協定(36協定)を労働基準監督署に提出しておく必要があります。こうした手順を踏んで使用者が残業命令を発することによって初めて残業と認められることになります。しかし、「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的に見て正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる。」(昭25.9.14基収2983号)と通達にあるように黙示の命令というのもありますし、場合によっては黙認していたということも当然ありますので、トラブルを防ぐためにも明確な残業命令また残業禁止の命令が必要となります。参考までに次の判例を紹介しておきます。「賃金(割増賃金を含む)は労働の対償であるから(法11条)賃金が労働した時間によって算定される場合に、その算定の対象となる労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間又は使用者の明示又は黙示の指示により業務に従事する時間であると解すべきものである。したがって、使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない。」(神代学園ミュ−ズ音楽院事件東京高裁平17.3.30)
【残業時間の端数処理】
 ワタミの場合は、残業時間の計算をする際に30分未満の端数を切り捨てていたため、切り捨てられた部分の賃金が支払われていないとして是正勧告を受けています。こうした30分未満の端数を切り捨てるという扱いはよく見られるのではないかと思います。残業代の計算も時間単位で計算できるので集計の煩雑さも少ないといえるかもしれません。もし、毎日10分の残業時間を切捨てていたとしたら22日勤務では、220分=3時間40分のサービス残業となりますので一寸した食事を楽しむことが出来る残業代を失ったことになります。当然、その逆の場合もありますので、プラスマイナス0かも知れません。しかし、賃金全額払いの原則から労働契約で定められた時間を超えて残業したのであればその時間全てに対して賃金が支払われなければなりませんので日々30分未満の端数処理をすることは認められず、1分単位で集計を行わなければなりません。このように1ヶ月の労働時間を集計したあとに、ワタミが行ったように、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げるという方法をとったとしたらどうでしょうか。この場合には、事務の簡便化として労働基準法違反とはならないとの通達(注1)がありますのでこのような問題とはならないということになります。
【過去2年間にさかのぼった実態調査】
  過去2年間さかのぼって調査をして未払分を支給しています。なぜそれ以上遡らなかったのかという疑問も起こりますが、これは時効の問題と関係してきます。労働基準法第115条で、「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」と定められていますので、2年を超えて生産する必要は無いことになります。同様に、年休についても付与された日から2年間で消滅しますし、退職時の証明にしても退職後2年を超えれば請求できないことになります。退職金だけが例外で5年間の時効とされています。
(注1)
 割増賃金計算における端数処理として、次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び第37条違反(注2)としては取り扱わない。
(1)  一か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に一時間未満の端数がある場合に、三十分未満の端数を切り捨て、それ以上を一時間に切り上げること。
(2)  一時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、五十銭未満の端数を切り捨て、それ以上を一円に切り上げること。
(3)  一ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に一円未満の端数が生じた場合、(二)と同様に処理すること。
(昭63.3.14基発150)
(注2)
 法第24条は賃金の全額払いの原則に対する規定、第37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金に対する規定となっています。