裁判員休暇制度をめぐっての雑感


裁判員休暇制度〜有給、期間上限なし マンダム導入へ

 化粧品メ−カ−のマンダム(本社・大阪市)は、21日、2009年5月までにスタ−トする裁判員制度で、社員が裁判員に選ばれた場合に備え、有給の特別休暇制度を来年1月に導入すると発表した。正社員だけでなく契約社員、パ−ト社員を含めた約1000人の全従業員が対象。裁判員の職務に必要なら、期間の上限なしで取得できるようにする。/裁判員として仕事を休んだことを理由に、企業が社員を解雇するなどの不利益な取り扱いをすることは法律で禁じられているが、給与をどう扱うかは各企業の判断となっている。トヨタ自動車も有給の特別休暇制度を導入する方向で検討しており、同様の動きが広がりそうだ。/マンダムは就業規則を改定し、裁判員に選任された場合の特別有給休暇の規定を明記する。「制度の意義を踏まえ、仕事上の負担なく、社員が安心して責任を果たせる環境を整える必要があると判断した」(広報IR室)としている。 (読売新聞H18.12.22)


 裁判員制度が昨年の5月に制定されました。従業員が裁判員に選任されれば当然会社を休むことになります。会社を休むとなれば、就業規則のどの条項に該当するのか、また該当する条項がなければ、欠勤として処理するのか、それとも本人が年次有給休暇を請求するのかといった問題が発生します。裁判員制度導入は国の施策であり、それに応じるのは国民の義務です。労働者が選任されれば所属する企業は支援する社会的責任を負っているといえます。しかし、零細企業また個人事業主が裁判員に選任されたとしたら国民の義務また企業の社会的責任以前の問題として、まさに死活問題とならざるを得ないといえますが、ここではこうした問題は横において、この新聞記事が報告している内容等について簡単に触れてみたいと思います。
 まず裁判員制度の概要を見ておきます。裁判員が扱う対象となる事件は殺人、強盗致傷、傷害致死、危険運転致死、放火、身代金目的の誘拐、保護責任者遺棄致死などの重大な事件が対象となっています。こうした事件は、平成17年度には全国で3629件ありました。これを1県あたりの平均値で対象件数と選任される裁判員の人数を見ると次の表のようになります。

全 国
1県当り
対象件数
3,629件
年当り
月当り
裁判員選任数(年間)
77件>
6.4件
462人
※裁判員は1事件当たり6人選任されます。
※裁判員制度については、http://www.saibanin.courts.go.jp/をご覧ください。

 単純平均ですが、県内で毎年462人が選任されるとすれば、大企業ではいつかは直面する問題ともいえます。担当する裁判の内容が重大事件であることから考えると、資料を読み、検討して考えをまとめなければならないでしょうから出廷する日だけ休暇を与えればいいというものでもないし、また仕事の片手間に行えるものとも考えられません。そうするとまとまった休暇が必要であるといわざるを得ません。そのため「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」では、裁判員に選任された場合であっても第16条に辞退する場合の規定が設けられています。辞退できる事由の一つに「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがあること。」というのがあります。個人事業主や研究開発をしている人などは辞退する、させる、ことも可能でしょうが・・。第71条には、「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」との条文もあります。となればそれなりの取り扱い規定を定めておかなければ裁判員に選任された労働者が安心して任務を全うできないということにもなりかねません。
 労働基準法は休暇について、年次有給休暇(第39条)、産前産後の休暇(第65条)そして生理休暇(第68条)の三つを定めているだけですから、これらに該当しない慶弔休暇等は与えなくても法律上の問題は発生しないといえますが、福利厚生の一環とて企業規模に応じて休暇制度を充実させていくことは企業の社会的責任といえるのではないでしょうか。これまでも従業員が市町村議員や市町村が設置する委員会の委員に就任することを予想して、就業規則に「公職に就任した者がその職務を遂行したときには必要な期間又は時間の特別休暇を与える」との規定を設けている事業所もあります。こうした場合には、この条項で一応問題はないと考えられます。しかし、これを適用するに当たっては休暇中の賃金の問題、裁判員の日当との関係、賞与との関係、退職金の算定期間に含めるのかどうか、休暇の期間の問題などいろいろ細かいことがあるので、別に運用規定を作成しておかなければその都度取り扱いが異なることになりかねません。
 就業規則は、労働条件を統一的に扱うとの趣旨から、労基法第89条で常時10人以上の労働者を使用していれば、作成し、届出する義務があり、それに記載すべき事項も定められています。休暇は必ず記載しておかなければならない事項とされていますので、もし、裁判員に選定された者に対して休暇を与える条項が無ければ欠勤扱いか、本人の申し出により年次有給休暇扱いか、休職の規定が適用できれば休職扱いかということになってしまい従業員が不利益を蒙らざるを得ないことも考えられます。
 この新聞記事のなかに「給与をどう扱うかは各企業の判断」との文言がありますが、基準法が事業主に休暇中の賃金支払い義務を負わせているのは年次有給休暇のみで、それ以外の産前産後の休暇また生理休暇については賃金について触れていないので有給であろうと無給であろうと事業主が勝手に決めればいいことになります。裁判員選任に伴う休暇制度を設けても無給扱いとしてしまえば、年次有給休暇を使うでしょうから実質は有名無実ということになってしまいます。
 昨年の4月から導入された定年延長制度に対しては助成金の制度がありますが、有給の裁判員休暇制度を導入してもこうした制度は無いようです。該当者が出た場合には助成金が交付されればと思いますが、裁判員制度は厚生労働省の管轄ではないからなのでしょうか。後者は任意の制度ですが、前者は法律で導入が義務付けられている制度ですから助成金を出す必要があるのか疑問に思います。そうは言いながらも法人成りした会社が要件に該当していたので先日申請させていただきましたが・・。