違法時間外労働理研に是正勧告  さいたま労基署


違法時間外労働理研に是正勧告  さいたま労基署

 理化学研究所和光研究所(埼玉県和光市)が、研究員や技術員に違法な時間外労働を行わせているとして、さいたま労働基準監督署から昨年6月と12月の2回にわたり、是正勧告を受けていたことがわかった。監督署は未払いの時間外労働賃金を支払うよう求めており、総額は200万円前後にのぼるとみられる。
 是正勧告の対象は、裁量労働制労使協定が結ばれていない3研究センタ−を中心とする研究職、技術職の職員650人。同研究所によると、このうち任期制の職員396人には、給与に超過勤務手当相当額が含まれているとみなして労務管理してきたが、労働契約書や就業規則に明記しておらず、労働基準法に反していると指摘された。任期制以外の職員には月15時間分の超勤手当を定額支給しているが、これを超える場合は支払いが必要とされた。
 研究所は、任期制職員に超勤手当が給与に含まれていると承知していたかどうかの確認書を配布。研究ノ−トなどを参考に勤務実態や所属長による超勤命令の有無を調べた。その結果、未払い分の支払いを求める職員十数人に、過去2年にさかのぼった手当を、6月にも支給することにした。
 大河内真・理化学研究所理事は「そもそも研究者に時間外労働や超勤手当の概念はなじまず、裁量労働制の導入に向けた交渉を進めている。ただ現状では労基法に照らして問題があることは事実だ」としている。

(読売新聞H19.5.14)


 私たちがアパ−トを借りる場合、広さや設備などの状況、敷金、月額の賃借料、共益費そして賃貸借期間などが記載された賃貸借契約書が作成されます。同じように就職するとなれば雇用契約を結ぶことになりますが、こうした契約書を交わす意識が労使とも薄いように思います。労働基準法は、使用者に、労働者を採用するときには、契約期間、就業場所、勤務時間や賃金などの労働条件を書面で労働者に交付することを義務付けています。言った言わないといったトラブルを避けるためにも雇用契約書(注1)を交わしておく必要があります。
 しかし、労働者の多い会社では、一人ひとり労働条件を決めていたのでは管理できないことになってしまうため就業規則、(注2)を作成しそれを労働者に一律に適用していくという方法を取ります。就業規則が作成されているからといって労働契約書を交わす必要ないということではなく、労働基準法が定めている採用時の労働条件の明示事項は示さなければならず、その具体的な内容は就業規則によるという形で明らかにしなければなりません。この場合、就業規則も同時に渡すか、いつでも閲覧可能な状態にしておかなければなりません。
 上記の事件でも採用形態によって労働条件が違うのならば、雇用契約書の中で、また就業規則の中で明確に決められていなければなりません。そのあたりのことはあいまいなまま使用者側の都合で処理されていたように思われます。この記事の中にある言葉を手がかりとして時間外労働に関する問題を見ていきます。

(注1) (注2)雇用契約書及び就業規則に必ず記載しなければならない事項は次の通りです。なお、常時10人以上の労働者を使用している事業所は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。 ※左右ずれているのはそれぞれの違いを分かり易くしているためです。

雇用契約書 (施行規則第5条)
就業規則記載事項 (第89条)

(1) 労働契約の期間に関する事項
(2) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(3) 労働時間・休日・休暇・交代制に関する事項
 @ 始業及び終業の時刻
 A 所定労働時間を超える労働の有無
 B 休憩時間
 C 休日
 D 休暇
 E 就業時転換に関する事項
(4) 賃金並びに昇給に関する事項
 @ 賃金の決定
 A 計算方法
 B 支払の方法
 C 賃金の締切
 D 支払の時期
 E 昇給に関する事項 (5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)



(1) 労働時間・休日・休暇・交代制に関する事項
 @ 始業および終業の時刻

 A 休憩時間
 B 休日
 C 休暇
 D 就業時転換に関する事項
(2) 賃金並びに昇給に関する事項
 @ 賃金の決定
 A 計算方法
 B 支払いの方法
 C 賃金の締切
 D 支払の時期
 E 昇給に関する事項
(3) 退職に関する事項(解雇の事由を含む)



1.「違法な時間外労働」
労働基準法第32条は次のように定めています。

@ 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 これを法定労働時間と呼び、それぞれの会社で定めている労働時間を所定労働時間と呼んでいます。従って、所定労働時間が法定労働時間以内であれば、1週40時間、1日8時間までは残業させることも可能ですが、原則として、法定労働時間を超えて働かせることはできないことになります。しかし、これでは仕事が滞ってしまいますので法定労働時間を超えて労働させることも出来るという例外規定が法第36条に定められています。法36条の規定に従って労使協定を結び、この協定書を労働基準監督署に提出すれば、法第32条の規定にかかわらず法定労働時間を超えて労働させることが出来ることになります。36協定と呼ばれるものがこれに当たります。
 この記事で問題になっているのは、36協定の未締結や未提出による違反ではなく、時間外手当を支払っていないことによる違反です。後で説明するように、「給与に時間外手当も含まれている」からとか、「定額の時間外手当を支払っている」からという理由で、割増賃金を支払っていないことに対する法律違反ということになります。
 もし、36協定を結ばないまま時間外労働や休日労働をさせた場合にはどうなるのかということもあります。36協定が結ばれていないからといって時間外労働や休日労働が無効になることはありません。雇用契約や就業規則に定めた労働時間を超えて労働させているのですから、その労働時間に相当する割増賃金の支払いはしなければなりませんが、事業主に対して第119条第1項の規定により32条(労働時間)また35条(休日)違反として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金対象となります。また、36協定を締結していても監督署に提出していない場合も同じこととなります。要するに36協定は罰則規定に対する免罪符の効力があるだけということになります。

【時間外労働の賃金】
 雇用契約書には、1日の労働時間(所定労働時間)と、時間給、日給又は月給という形で賃金の額が記載されています。従って、所定労働時間を超えて労働すれば当然その時間分の賃金を請求する権利が労働者にはあります。この場合、労働基準法は、1週40時間、1日8時間を超えた労働をさせた使用者には、25%の割増賃金を支払うように義務付けています。もし、雇用契約書で定める1日の労働時間が7時間であった場合には、8時間に達するまでの1時間分についてはこの25%の割増賃金を支払うことまで労働基準法は要求していません。もし、使用者が、雇用契約書なり就業規則に「所定労働時間を超えた場合には25%の割増賃金を支払う」と決めておれば、残業即割増賃金の支払が必要となりますが、「法定労働時間を超えたとき」と定めていれば、8時間を超えたときから割増賃金の支払いが必要になります。
 割増賃金の支払い対象となるのは、時間外労働と休日労働そして深夜労働(午後10時〜翌朝の5時)をした場合となります。それぞれの割増賃率は時間外労働が25%、休日労働が35%そして深夜労働が25%と定められています。深夜労働の考え方は、この時間帯に労働した場合には25%の割増賃金を支払らはなければならないというもので、残業した場合もあれば、3交代勤務でこの時間帯を通常の労働としている場合もあります。簡単に言えば、寝ているべき時間帯に働くのだからご苦労賃として25%の割増をつけようという性格のものです。ですから時間外や休日労働しても賃金が支払われない管理職に対しても深夜労働の割増賃金は支払う必要があるということになります。従って、時間外労働が深夜に及んだ場合には、25%+25%=50%、休日労働が深夜に及んだ場合には35%+25%=60%の割増賃金の支払いが必要になります。

【【休日労働】
 労働基準法第32条が定めている「1週40時間、1日8時間」の労働とは、休日を除いた労働日の労働時間を指しています。そのため36協定届も、1日に延長できる労働時間と、1日を超える一定の期間延長できる労働時間を記載するとともに、別に、休日労働の必要があれば休日労働させる回数と勤務時間を記載するようになっています。
 労働基準法第35条は休日について次のように定めています。

@  使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
A  前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。


 「国民の祝日に関する法律」第3条は「国民の祝日は休日とする」としていますが、最低の労働条件を定めている労働基準法では、上記のとおり休日は週1回与えるだけでよいとしていますので、祝日を休日としなくても別に問題はありませんし、日曜日を休日としなくてもなんら問題は無いことになります。現実に、百貨店、飲食店などのように日曜も祝日も仕事をしているところもあります。
 ここで考えてみたいのは、割増賃金の問題です。休日には35%の割増賃金を支払うように定めるとともに、休日は週1回でよいとしている点です。土日の週休2日制で、祝日も休みとする会社が多いと思いますが、このように労働基準法の規定以上に会社が休日を定めている場合、これら全ての休日労働に対して35%の割増賃金を支払わなければならないかということです。労働基準法が定める休日、これを法定休日といいますが、これは週1回ですから、少なくともこの日(会社が指定した日。一般的には日曜日)に労働させれば35%の割増賃金を支払う必要があります。しかし後の土曜日、祝日など、労働基準法が定めた休日を超える休日(所定休日と呼びます)については25%の割増とするか、35%の割増とするかは会社が勝手に決めればよいことになります。従って、雇用契約書や就業規則に「法定休日労働の場合には35%の割増」、又は「所定休日労働の場合には35%の割増」のように明確に記載しておかなければ人によって扱い方が違うことにもなりかねません。

2.「是正勧告」
 労働基準法は最低の労働条件を定めた法律であり、使用者に、これを守らせるため、第13章に罰則の規定を置き、労働者に対しても、労働基準法違反が事業所内で行われていれば、労働基準監督署又は労働基準監督官に申告することができると定めています。労働基準法違反があれば取締りが必要となるので、こうした労働基準行政の取り締まりに当たる者として労働基準監督官が置かれており、法102条で司法警察官としての職務を行うこととされています。労働基準監督官は、調査の結果、違反が見つかればその解消を命令します。これが是正勧告ということになります。

(労働基準監督官の権限)
第101条 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
A 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
第102条 労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
第103条 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危険がある場合においては、労働基準監督官は、第九十六条の三の規定による行政官庁の権限を即時に行うことができる。
(監督機関に対する申告)
第104条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
A 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。


3.「裁量労働制」、「そもそも研究者に時間外労働や超勤手当の概念はなじまず」2.
 労働時間は1日8時間、1週40時間と定められています。しかし、こうした枠を一律に嵌めてしまうと、1週間、1ヶ月また1年というサイクルで考えた場合、忙しい時期また暇な時期が定期的に出てくるような業種や業務では労働時間を効率的に活用することができませんし、システム開発や放送番組の取材や研究開発の業務などでは労働時間の枠を嵌めて管理すること自体に無理がある職種もあります。こうしたことから労働基準法は、前者には時期的な業務の繁忙期と閑散期に応じて1日8時間にこだわらず、一定の期間を平均して1週40時間に収めれば良いとする変形労働時間制という制度を、後者には仕事の遂行方法や手段また時間配分は労働者の裁量に任せ、仕事をするしないにかかわらず決められた時間の労働をしたものと見なし、業務の遂行に関して使用者は一切タッチしないとする裁量労働制という制度を取り入れています。
 変形労働時間制には、1週間単位、1ヶ月単位、1年単位そしてフレックスタイムという制度があります。一方、裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の二つがあります。これらの制度を取り入れるためには、原則として、労働者の過半数代表者との労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要となっています。
 この記事に記載されている裁量労働制とは、専門業務型裁量労働制を指しています。この制度は全ての労働者に認められるのではなく19の業務に限定されています。「新商品、新技術の研究開発または人文科学・自然科学の研究の業務」が含まれているので、この記事の場合はこれに該当すると考えられます。どうした訳か3研究センタ−を中心とする研究職、技術職については裁量労働制の労使協定が結ばれておらず、任期制の研究員の賃金には時間外手当が含まれているとし、それ以外の職員には15時間分の超勤手当を支払うことで済ませていたとされています。
「 そもそも研究者に時間外労働や超勤手当の概念はなじまず」と記事にあります。文部科学省所管の独立行政法人でノ−ベル賞を受賞した野依良治さんが所長をしている日本を代表する大規模な研究所ですから、その通りだろうと思います。ただ、ここに働く全ての人が専門業務型裁量労働制に該当するわけではありません。研究を補助している事務職員や技術職員は除かれます。ちなみに大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)も専門業務型裁量労働制の対象業務とされていますが、()書きにあるように研究が主業務になっていない者は当然除かれています。

4.「労使協定」
 労働基準法には、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合」という条文が良く出てきます。労働基準法のこうした条文に基づいて締結した書類が「労使協定」と呼ばれます。
 また、似たようなものに「労働協約」という言葉があります。これは、労働組合法第14条に基づいて労働組合と会社との間において取り決められた労働条件に関する書面を指しています。

労働組合法第14条

 「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。」


5.「給与に超過勤務手当相当額が含まれている」、「労働契約書や就業規則に明記しておらず」、「月15時間分の超勤手当を定額支給」
 使用者は、労働基準法第36条により、俗に言う36協定を締結し、労働基準監督署に届出ることによって法定労働時間を超え、また法定休日に労働させることが出来ます。また、同第37条の規定によって割増賃金を支払う必要があります。要するに、時間外労働と休日労働をしたらしただけの割増賃金を支払わなければならないということになります。この記事によると、給与の中に時間外割増賃金を含んでいたり、定額の超勤手当という形で処理していたということですが、もし、そうであれば、雇用契約書や就業規則にその旨を明確に記載していなければ時間外手当をもらっていないという不満が出てこざるを得ません。ただ、人によって時間単価は異なるという問題も出てきますので、おおよそ15時間分ということでしかありません。時間外手当を低く抑えるという目的で使われることが多いといえます。

【給与に超過勤務手当相当額が含まれている】
 一般の賃金に時間外手当が含まれているということは少ないのではないかと思いますが、年俸制の場合にはこの問題が時々裁判で争われていますので、年俸制の例を通してみていきます。当然、年俸制の場合であっても1週40時間、1日8時間という労働時間の枠はありますので、これを超えて労働すれば割増賃金を支払わなければなりません。ただ年俸の決め方によっては割増賃金の単価が異なってくることがあります。それは次の二つの場合です。

 (1)賃金と賞与を含めた形で年俸を定める場合
 (2)賃金だけを年俸制として決め、賞与は別枠としてその都度決定する場合

 (1)については、「年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は「賞与」に該当しない。したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。」(平12.3.8基収78)との通達に従って賃金部分と賞与部分を含めた年俸全額が割増賃金計算の基礎となる賃金に該当することになります。
 一方、(2)の方は年俸に賞与が含まれていませんので、年俸のみ割増賃金計算の基礎となる賃金に該当することになります。この考え方の違いは、割増賃金の基礎となる時間単価の計算から除かれるものの(注1)一つに「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」があるためです。(2)の場合はこれに該当しますが、(1)の方は年俸の中の一部を賞与としているだけにしか過ぎないためです。本来1回で支払うものを、賃金支払いの5原則の一つ、「毎月払いの原則」に従い、12回プラス2回に分割払いしているに過ぎないためです。
 次に、年俸の中に時間外手当も含まれているとする雇用契約を交わすのであれば、当然、「時間外手当=年間100時間×時間外単価」のように時間数と時間外手当の額を明確にしておかなければなりませんが、この記事では使用者側が賃金の中に時間外手当も含んでいると一方的に言っているだけで雇用契約書にも就業規則にもそのあたりのことが明確にされていません。このあたりのことについて次のような判例があります。

 「年俸制を採用することによって,直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし,そもそも使用者と労働者との間に,基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり,使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても,労働基準法37条の趣旨は,割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから,基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては,これを同法に違反するとまでいうことはできないが,割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。
 そうすると,上記認定事実によれば,被告における賃金の定め方からは,時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず,そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり,どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから,被告におけるこのような賃金の定め方は,労働基準法37条1項に反するものとして,無効となるといわざるを得ない。
 したがって,被告は,原告に対し,時間外労働時間及び休日労働時間に応じて,時間外割増賃金等を支払う義務がある。」(創栄コンサルタント事件 大阪地H14.5.17)



 この判例のように、年俸の中に時間外割増賃金が含まれているといってもその額がいくらか明確に証明できない以上、別途時間外割増賃金を支払う必要があることになります。しかし、額が明確に雇用契約書に記載されていたとすれば、正規に計算した割増賃金とその額を比較し、正規に計算した額が大きければその差額だけ支給すれば良いということになります。

(注1) 割増賃金の対象から除かれる賃金項目
 @家族手当、A通勤手当、B別居手当、C子女教育手当、D住宅手当、E臨時に支払われた賃金、F一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

【月15時間分の超勤手当を定額支給】
 この場合には、記事中に、「これを超える場合は支払いが必要とされた。」とあるように、正規に計算した割増賃金の額との比較をするということになります。ここでは、超勤手当とされていますので毎月15時間分の時間外手当を時間外のあるなしに関わらず一律に支給していたと考えられます。この方式であれば、単純に、各月毎に比較し15時間以内の超勤の月は調整せず、15時間を超えている月については差額を支払うということになります。
 こうしたケ−スと似たものに営業手当を時間外手当に変わるものとして支給しているケ−スがあります。この場合も、雇用契約書や就業規則で時間外手当に替わるものとして明記しておかなければそのようには見なされないことになります。明記していたとしても、時間外手当の支払いが免除されるものではなく、毎月正規の割増賃金額と比較し、営業手当の範囲内であれば調整せず、営業手当の額を超えればその差額を支給しなければなりません。

 各種手当の支給によって割増賃金が支給されたというためには、それらの手当が実質的に割増賃金としての性格を有すること、手当てのうち、割増賃金相当部分とそれ以外の部分とが明確に峻別できること、手当の割増賃金相当部分の額が労働基準法37条所定の計算方法によって算定された額を下廻っていないことが必要である。

(大阪地平9.12.24)


6.「研究ノ−トなどを参考に勤務実態や所属長による超勤命令の有無」
 労働基準法には、労働時間・休日また割増賃金などの規定が定められており、これらに対する違反には罰則規定が適用されるため、使用者には労働時間の管理が義務付けられているといえます。この記事にとどまらず、割増賃金の未払いがたびたび報告されていますし、過労死による労災認定の裁判も数多く報告されています。こうした情勢を受けて厚生労働省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平13・4・6 基発339号)という通達を出しています。これによると、「使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。」とされています。
 ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
 イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
 タイムカ−ドの場合、出社時間と退社時間は記録できますが、実際に何時から何時まで仕事をしていたかは把握できないため、出社時間、仕事を始めた時間、仕事を終えた時間そして退社する時間と4回タイムカ−ドを打刻している事業所もあります。労働基準監督署が立ち入り検査をするときには、パソコンのログオンとログオフの時刻で労働時間をチェックしています。パソコンが一人1台の時代になってきたのでこれがもっとも正確に労働時間を把握する方法かもしれません。
 本来、時間外労働については、労働者の判断のみで行えるものではなく、使用者の命令があって初めて可能となるのが原則だといえますが、この記事の場合、賃金に時間外手当を含んでいたとか、定額で支払っていたという実態ですから、労働時間管理はまったく行われていなかったのではないでしょうか。そのため時間外労働の実態を一人ひとりの記憶を頼りに調査せざるを得なかったといえます。

7.「過去2年にさかのぼった手当」
 未払いの割増賃金の支払いの対象期間が2年前までとされていますが、これは労働基準法第115条が時効期間は2年と定めているため、過去2年までしか訴求できないことによります。年次有給休暇が新たに発生した年度の翌年までしか繰り越せないのも年次有給休暇が発生したときから2年間の時効で消滅することによります。

労働基準法第115条

 「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」