うつ病による自殺に対する労災保険の適用と損害賠償請求


上司が罵倒「会社辞めろ」
パワハラ自殺 労災認定・・新浜労基署心理的圧迫原因

 大手道路工事会社「前田道路」(本社・東京)の愛媛県内の営業所長(当時43歳) が昨年9月に自殺したのは、上司からしっ責され続け、心理的な圧迫を受けたことが原因などとして、新居浜労働基準監督署は労災と認定し、27日、妻の会社員岩崎洋子さん(43)(松山市)に通知した。所長は当時、上司から「会社を辞めろ」などと罵倒され、下請け会社への未払いの工事代金まで家計から穴埋めしたという。弁護団は「パワ−ハラスメント(職権による人権侵害)」が原因と認められた異例のケ−スとしている。
 弁護団によると、2003年4月に愛媛県西条市の営業所長となったが、昨年7月ごろから、契約料を発注元から減額されるなどして売り上げ目標が達成できず、四国支店(高松市)に呼び出されて上司にに厳しくしっ責された。
 8月には、下請け工事代金が滞ったため、家の預金から150万円を引き出して業者に支払ったこともあった。しかし、営業成績は不振が続き、上司から「所長として能力がない」と約2時間責められるなどしたため、うつ病になったという。9月に入ってからもしっ責は続き、休み明けの13日に、営業所敷地内で首をつって自殺した。「怒られるのも言い訳するのもつかれました」などの遺書が残されていた。
 同労基署は成績不振をしっ責され続けた下請け業者に未払い金があった業務に関する相談者がいなかった―ことを理由に悩んで自殺に至ったと洋子さんに説明したという。
 記者会見した洋子さんは「会社とは再三交渉したが、パワ−ハラスメントが人の命を奪うことを認識していなかった。これで会社の非が認められた」と涙ながらに語った。
 前田道路の布沢誠忠・総務部長は「」労基署からの書類を見てから対応を考えたい。遺族と誠心誠意、対応していく」とはなしている。

(読売新聞 平成17年10月28日)

うつ病で自殺、労災と認定 会社が厳しいしっ責で圧迫

 共同通信によると、道路舗装大手、前田道路の東予営業所(愛媛県)の所長だった男性=当時(43)=がうつ病で自殺したのは、過大な売り上げ目標を達成できず上司からどう喝的なしっ責を受けた心理的な圧迫が原因などとして、新居浜労働基準監督署は 27 日までに労災と認定した。
 代理人の弁護士によると、男性は 2003 年4月、営業成績の著しく悪い東予営業所の所長になった。営業所を統括する四国支店(高松市)の上司は毎日早朝に「その日の工事出来高予定」を報告させ、厳しいしっ責を続けた。
 さらに自殺直前の会議では、支店の上司らから「能力がない」「会社を辞めろ」「会社を辞めても楽にはならないぞ」などと約2時間にわたり、ののしられた。男性は 2004 年8月にうつ病を発症。翌月、営業所敷地内で首つり自殺した。
 男性は 2004 年8月以降、午前6時半ごろ出勤し、午後8時半ごろ退社する長時間労働が続いたが、出勤簿には午前8時出勤、午後6時退社と記載することを強制されていた。また会社と下請け業者との間で板挟みになり、業者への工事代金 150万円の支払いを個人の預金から立て替え払いしていた。
 男性の妻岩崎洋子さん(43)が 2004 年 12 月に労災申請。洋子さんは 27 日記者会見し、損害賠償請求訴訟を前田道路相手に起こすことを検討していることを明らかにした。

(インタ−ネット10 月 28日)


 同じ事件を扱った記事ですが、読売新聞の記事とインタ−ネットのニュ−スの記事を載せてみましたが、それぞれ報道の内容が微妙に違っていますので、あわせて読むとより広く問題点が理解できると思います。

 パワ−ハラスメントもセクシャルハラスメントもどの世界においても昔から見られるものですが、セクシャルハラスメントは雇用機会均等法の制定により厳しい批判の対象とされてきています。セクシャルハラスメントについては、「現状では、職場におけるセクシュアルハラスメントの内容についての事業主や労働者の理解が十分ではなく、また、その防止のための措置を講じている事業主が少ない状況にある。」として「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」(平成10年3月13日労働省告示第20号)が出されています。この中で、セクシャルハラスメントを対価型と環境型とに分類し、「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる女性労働者の意に反する性的な言動により女性労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該女性労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」として、「女性労働者の腰、胸等に度々触った」等の例を挙げています。男性から女性に対するものですから、こうした明確な例を出すまでもなく誰でも何がセクシャルハラスメントになるかは容易に判断出来ることだといえます。しかし、パワ−ハラスメントとなると何が基準となるのか非常に判断が難しいといえます。しっ責されること、怒鳴られること、無視されることなど職場においては日常茶飯事かもしれませんし、むしろそうしたことは職場での教育の一環として黙認されてきた現実があります。しかし、それも度が過ぎたり、個人攻撃の隠れ蓑として行われたのでは当事者はたまったものではないでしょう。これまでもパワ−ハラスメントにより病気になったり、退職し、また自殺された方は沢山おられたと思いますが、こうした面での法律的な対応は遅れているのではないでしょうか。

 仕事からくるストレスが原因となって精神障害を引き起こす労働者が増えてきていることから、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平成11年9月14日基発第544号)が定められています。この指針は、パワ−ハラスメントを防ぐためのものではありませんが、心理的負荷は過重な仕事量だけではなく、この新聞記事のような過重なしっ責によるストレスも当然予想されていますので、この記事のうつ病による自殺をこの指針を通してみていきます。

 セクシャルハラスメントでは本人が性的に不快感を感じたという主観的な判断が基になりますが、こうした問題に主観的判断を持ち込んでしまうと歯止めが利かなくなってしまいますので、「心理的負荷による精神障害の業務上外の判断に当たっては、精神障害の発病の有無、発病の時期及び疾患名を明らかにすることはもとより、当該精神障害の発病に関与したと認められる業務による心理的負荷の強度の評価が重要である。その際、労働者災害補償保険制度の性格上、本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかではなく、多くの人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価する必要がある。

 また、業務以外の心理的負荷についても同様に評価する必要がある。

 さらに、個体側要因についても評価されなければならない。精神障害の既往歴が認められる場合や、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向等に特に問題が認められる場合は、個体側要因(心理面の反応性、脆弱性)が大きいとされている。

 以上のことから、労災請求事案の処理に当たっては、まず、精神障害の発病の有無等を明らかにした上で、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因の各事項について具体的に検討し、それらと当該労働者に発病した精神障害との関連性について総合的に判断する必要がある。」という立場から判断することを基本としています。

 自殺の原因は過度なしっ責から発症したうつ病と判断されています。この指針でみると「精神および行動の障害」分類中のF4に挙げられているストレス関連障害に該当します。また、心理負荷の原因となる項目として「ノルマが達成できなかった」は中程度のものとして挙げられています。自殺の取り扱いについては、「IDC-10のF0からF4に分類される多くの精神障害では、精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められる。」とされており、遺書に対する考え方も「遺書等の存在については、それ自体で正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されていなかったと判断することは必ずしも妥当ではなく、遺書等の表現、内容、作成時の状況等を把握の上、自殺に至る経緯に係る一資料として評価するものである。」とされています。こうした状況から、労災認定されたものと考えられます。

 当然、こうした状況に至った背景には使用者側の健康配慮義務違反が想定されていると考えても問題はないと考えます