サ−ビス残業告発 懲戒解雇された大阪の元社員2人提訴


サ−ビス残業告発 懲戒解雇された大阪の元社員2人提訴

 「サ−ビス残業を労働基準監督署に内部告発したため、懲戒解雇された」として、経営コンサルタント会社(東京)の大阪支社に勤めていた男性二人が十日、同社を相手に社員としての地位確認と月額50万円−47万円の給与の支払を求める訴訟を大阪地裁に起こした。訴えによると、同社は昨年六月から、社員の顧客対応に関する社内テストを土日や祝日などに実施したのに時間外手当を支給しなかった。このため二人は同十月、天満労基署に「サ−ビス残業になっている」と通告。翌月には労働組合を結成し、大阪府地労委に不当労働行為の救済を申し立ててが、今年三月に懲戒解雇された。
 二人は「テストは時間外労働の強要。」労基署への通告は正当な行為で、懲戒解雇は無効」と主張。一方、コンサルタント会社は「適正な処分と思っている」としている。

平成16年5月11日付 読売新聞


 小さな記事ですが、労働法の勉強の材料としてみると非常に面白い内容が含まれていると思います。ここに書かれている術語やフレ−ズの背景にはどのような法律が動いているのか、次の7つの項目について検討してみたいと思います。


1.同社を相手に社員としての地位確認と月額50万円−47万円の給与の支払を求める訴訟
2.社員の顧客対応に関する社内テストを土日や祝日などに実施したのに時間外手当を支給しなかった。
3.天満労基署に「サ−ビス残業になっている」と通告。
4.労働組合を結成
5.大阪府地労委に不当労働行為の救済を申し立て
6.懲戒解雇
7.テストは時間外労働の強要


1.同社を相手に社員としての地位確認と月額50万円−47万円の給与の支払を求める訴訟
  この事件では、トラブル解決の方法として、@労働基準監督署への通告、A労働委員会への救済申し立て、B訴訟、と三つのステップを踏んでいます。
 近年の不況・リストラにより個人と使用者間の労働紛争が著しく増加していることから、平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が制定され、紛争調整委員会が紛争解決に当っています。この法律が対象としているのは、あくまでも個人と使用者間の紛争解決を目的としており、労働組合と使用者間の紛争は対象としていません。従って、この事件では、労働組合を結成しているので、労働関係調整法にもとづいて、労働委員会に申し出ています。労働委員会の調停も不成立に終わり、解雇となり、即裁判所に提訴という経過をたどっています。

 こうした解雇の撤回・給与の支払を求める場合、二つの方法があります。
  (1) 解雇無効・従業員としての地位確認・賃金支払い等を請求する本訴(正式な裁判)
  (2) これに先立って利用される地位保全・賃金仮払いを求める仮処分を申し立てる保全処分

   仮処分申立ては、社員としての地位保全の命令を裁判所からもらうための手続きで、裁判所は双方の話を聴く場 (審尋なり口頭弁論) を1週間に1回程度は設けて、それぞれの意見を聴いたうえで、地位保全の処分を発令するか否か検討します。その経過の中で双方の歩み寄りによる解決のため和解を勧めるのが一般的な流れです。従って、本裁判(1ヶ月に1回程度の口頭弁論期日(刑事事件では公判))と違って早期(3〜6か月位が一応の目安)の解決が可能となるのでこれを利用するのが良いかと思いますが、この事件では、即訴訟となっています。訴訟に至るまでの経過をみても会社側に誠意をもって解決したいとの姿勢が全く見られないため裁判で徹底的に不正を究明していこうという意思を現しているのかもしれません。例え裁判に入ったとしても裁判所は、和解での解決を持ち出してくるでしょうし、会社側の弁護士さんも勝算の見込みが無ければ会社を説得し、和解での解決を目指すのではないかと思われます。ただ、どちらかが裁判での黒白を付けたいというのであれば別ですが・・・。

2.社員の顧客対応に関する社内テストを土日や祝日などに実施したのに時間外手当を支給しなかった。
 時間外について労働基準法は、第36条で、過半数労働組合または労働組合がない場合は労働者の過半数代表者と労使協定を結び、協定書を労働基準監督署に提出することによって法定労働時間(注1)を超えてまた法定休日(注2)に労働させることができる旨を定めており、また、第37条で時間外・深夜・休日労働の場合の割増賃金について規定しています。さらに第41条では、こうした規定を適用しないでもいい者すなわち適用除外とされる者を定めています。適用除外されるのは一般の企業であれば管理職ということになります。管理職については、時間外・休日労働させても割増賃金を支払う必要はありませんが、深夜労働については、適用除外とされていませんので深夜の割増賃金は支払わなければなりません。

 次に、休日におこなうこうしたテストへの参加は労働時間(注3)とみなされるのかどうかという問題があります。労働時間であるとすれば、当然、割増賃金の対象になります。このテストへの参加が労働時間になるかどうかを考える材料として、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない。」(平11.3.31基発168号)との通達がありますので、会社がこのテストに関して労働者にどのように伝えていたかの問題が生じることになります。新聞記事ではそのあたりのことがよく分からないので判断できませんが、建前は自由参加、実質は強制参加ではないかと推測すると、労働時間となり、時間外割増賃金なり休日労働割増賃金を支払わざるを得ないといえます。

(注1)
  法定労働時間とは、労働基準法第32条で定める、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。A使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」のことです。これに対して、所定労働時間とは、就業規則で定めた労働時間のことです。時間外割増賃金を支払う場合、就業規則で、法定労働時間を超えた場合か、所定労働時間を超えた場合かを明確にしておかなければなりません。法定労働時間を超えた場合と仮定すれば、週休2日制で、1日7時間労働の場合、1週間の所定労働時間は35時間となり、土曜日の午前中3時間勤務したとしても1週38時間労働であり、法定労働時間40時間を超えていないので時間外割増賃金を支払う必要は無いことになります。この場合、土曜日が法定休日か否かの問題がありますので、(注2)を参照してください。
(注2)
  法定休日とは、労働基準法第35条の、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。」との定めに基づく休日です。日曜日のみを休日と定めておれば問題はありませんが、就業規則で日曜日・祝日・土曜日・年末年始等を休日として定めている場合には、休日割増賃金を支払うのはどの休日かという問題が生じてきます。就業規則で、「休日に出勤した場合に休日労働割増賃金を支払う。」と定めるか、「日曜日に出勤した場合に休日労働割増賃金を支払う。」と定めておかなければなりません。後者の場合、日曜日が法定休日とみなされ休日労働割増賃金の、それ以外の休日は時間外労働割増賃金の対象となります。従って、この事件の「土日や祝日」の扱いの問題が出てきます。会社に最も有利に解釈すると日曜日の休日労働割増賃金不払いについてのみ労働基準法違反があり、土曜日・祝日については、1日の所定労働時間が短かいものとすれば、休日労働にも時間外労働にも該当しないということもあります。
(注3)
  労働時間の定義を労働基準法ではなにも定めていませんので総合的に勘案して、「労働者が自由に利用できず、就労目的で拘束され使用者の具体的な指揮命令下にあって業務に従事しているとみうる状態にある時間をいう。」(安西愈著「労働時間・休日・休暇の法律実務」)と定義することができます。従って、休憩時間はこの定義の一部を欠くので労働時間にはなりませんし、5時に終業し、7時から仕事があるので会社に残って待機するように指示があれば仕事はしていなくても労働時間ということになります、もし、7時には会社にいること、それまでは自由にしておいてよいとなれば、同じ手待ち時間であっても労働時間ではないことになります。


3.天満労基署に「サ−ビス残業になっている」と通告。
 この事件では、残業手当の不払に端を発していますが、前項で見たように、テストへの参加が任意参加であったのか、業務命令であったのかの認識のズレの問題もあるといえますが、労働者として当然の権利を請求しても使用者が認めなかったため労働基準監督署へ通告したのですから、これを理由として処分することは労働基準法第104条(注1)の違反となるので、当然に無効になるといえます。

 今回は裁判所への訴訟ですから、労働基準法の第114条の定めにより、時間外手当と同額の付加金(注2)を合わせて請求することができます。

 また、労働基準監督署長がこうした申告を受けた場合には、第99条第3項に、労働基準監督署長の権限として「・・この法律に基づく臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり・・」とありますが、あくまでも労働基準法違反があった場合に限られており、個人からのトラブルについての相談があっても、紛争解決のための斡旋等の能力は与えられておらず、法律の解釈・適用についてのアドバイスまでしか出来ないのが現状です。これらの使用者対個人の紛争解決については、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づいて、都道府県労働局長の仕事となっています。

 「労働基準監督機関は違反の申告を受けても調査などの措置をとるべき職務上の作為義務は負わない。」(注釈労働基準法下p1058)との判例があります。匿名での問い合わせや、他人のことに関すること、また、本人からの申し出であっても法律に反していない場合などいろいろあるでしょうから、申し出全てについての作為義務はないとの意味でしょう。

(注1)
 第104条 「事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。A 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」
(注2)
 第114条 「裁判所は、解雇予告手当、休業手当も若くは割増賃金の規定に違反した使用者又はそして年休使用時の賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。」

4.労働組合を結成
 労働組合の結成については、労働組合法に労働者の当然の権利として認められており、これを理由としての解雇も不当労働行為として労働組合法第7条に定められています。
 労働者を守る法律として、よく労働三法といわれますが、これは、労働基準法、労働組合法そして労働関係調整法を指していますが、使用者側は労働基準法だけでなくこれらをわきまえた上で行動しないとトラブルを惹起することとなります。「適正な処分と思っている」と明言し、費用のかかる裁判の場でも争う姿勢をみせている今回の使用者は経営コンサルタント会社ですから勝算があるのでしょうか。

5.大阪府地労委に不当労働行為の救済を申し立て
(1) 労働委員会
 労働委員会は、労働関係調整法によって設けられている労働組合と使用者間の労働問題に関する紛争(集団的労使紛争)の解決を目指してつくられているものです。平成14年4月1日からは、個々の労働者と使用者との間の解雇や賃金等の労働条件その他労働関係に関する紛争(個別的労使紛争)解決のためのあっせんも取り扱っています。この事例では、労働組合を結成していますので、第一段階として労働委員会に問題解決を依頼したのでしょうが、話がまとまらず訴訟となったのでしょう。

(2) 不当労働行為
 憲法第28条に「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と定められています。労働三権と呼ばれるものですが、これらの権利の行使を妨害しようとする使用者の行為が不当労働行為と呼ばれるものです。労働組合法は第7条で、不当労働行為を、@労働組合結成・活動に対する不利益な取扱いの禁止、A正当な理由のない団体交渉拒否の禁止、B労働組合運動への支配介入の禁止、C労働委員会への申し立て、報告等に関しての不利益取扱いの禁止、の四つの類型に分類して規定しています。従って、これらの規定に違反する不当労働行為は憲法違反となり当然に無効ということになります。懲戒解雇されているわけですから、新聞記事で見る限りは無効と考えざるを得ませんが、これら以外の問題があったのかもしれません。

6.懲戒解雇
(1) 就業規則に解雇の規定が必要
  解雇に関しては、平成16年1月1日から、労働基準法第89条に、「三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」の()部分が追記されたことにより、就業規則に具体的な事由を記載することが必要となりました。要するに、就業規則に解雇に関する規定を設け、解雇する具体的な事由を挙げておかなければそれらの事由以外の事由では労働者を解雇できなくなりました。この会社の終業規則に今回の解雇に該当する事由が記載されていなければ解雇は当然無効ということになります。ただ、記載されていれば解雇できるかというと、民法第九十条の「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス」に抵触するようであれば、解雇権の濫用として当然無効になりますし、これを受けまた過去の判例等から、労働基準法第18条の2「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」との条文が新たに設けられました。

(2) 懲戒解雇と退職金の関係
  懲戒解雇の場合退職金を支給しないのが普通だと思います。就業規則に「懲戒解雇された者には退職金を支給しない。」と規定されているのが一般的ではないかと思います。就業規則作成の手引書など見てもこのように書かれています。確かに、懲戒解雇したのであれば問題ないでしょうが、退職金を支給するまでに、また支給した後に、懲戒事由に該当することが判明したとしても、退職事由が懲戒解雇ではないため退職金を貰う権利が労働者に発生してしまうので、この規定では退職金を支給せざるを得ないこととなります。従って、「懲戒解雇に相当する事案、その他不義・不正の行為が認められる場合には退職金は支給しない。」という規定を別に記載しておかなければならないということになります。これは、「退職の事由」と「退職金支給事由」を別なものとして規定しておくということです。

7.テストは時間外労働の強要
 使用者に時間外労働また休日労働を命令する権利があるのか、あるとすれば何を根拠とするのかということになります。時間外労働・休日労働とは労働条件に関することですから労働契約がどのようになっているかで判断することになります。このことに関して次の判例があります。「労働基準法・・32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負うものと解するを相当とする」。(日立製作所武蔵工場事件 最高裁 平3.11.28)

 36協定と就業規則に問題がなければ、使用者は、時間外労働また休日労働の業務命令をすることが可能となり、労働者には労働する義務が発生します。これを拒否すれば当然懲戒処分の対象になりますが、懲戒処分をするには、安西先生は、次の三つの要件を満たしておく必要があるとされています。(労働時間・休日・休暇の法律実務P597)


 @ 時間外・休日労働を必要とする業務上の必要性が存在すること
 A 業務命令が労働者の健康の侵害や予め会社側の了解を得ている労働者の生活設計を不当に害するなど労働者に
  不当な権利の侵害を生じないような配慮等がなされていること(たとえば、通学や教育の受講、保育、病人の介護等)
 B 労働者が具体的な時間外・休日労働命令に応ぜられない理由を具体的に述べて拒否したときには、その拒否理
  由に正当性があるか考慮しているものであること



就業規則規定例
 業務の都合により、第14条の所定労働時間を超え、又は第15条の所定休日に労働させることがある。この場合において、法定の労働時間を超える労働又は法定の休日における労働については、あらかじめ会社は従業員の代表と書面による協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。

 以上みたように、小さな新聞記事ですから何気なく読み過ごしてしまいますが、関心を持って法律的な背景を調べてみると複雑な問題が潜んでいることが分かります。労働者も使用者も多少なりともこうした知識があれば、無駄な経費も労力も使わず、問題が大きくなる前に解決することができます。ただ、「2」のところで見た、「建前は自由参加、実質は強制参加」のように、労使ともに、自分に都合の良いように解釈はしないようにしたいものです。