牛丼チェ−ン「すき家」のバイト残業代割増分をめぐって  

 共同通信によると、牛丼チェ−ン店「すき家」が、アルバイトに対して従来は1ヶ月の労働時間が一定以上に達するまで支給していなかった残業代の割増分を、昨年11月分の給与から通常通り支給し始めたことが9日、分かった。バイトらでつくる労働組合「すき家ユニオン」が同日、発表した。
 同ユニオンは「われわれの追及によって法律通りに支払われるようになった」としているが、すき家を経営する「ゼンショ−」(東京)は「1ヶ月単位で計算する変形労働時間制から、1日単位で計算する方法に変えただけ」と説明している。
 同ユニオンはバイトの組合員の解雇をめぐり同社と交渉。その過程で残業代の割増分が未払いであることが分かり、昨年9月、5人の組合員に対して過去2年分の計39万円を支払わせた。
 この後、ゼンショ−は11月分の給与から1日8時間を超えて働いた場合に割増分25%を支給するようになった。支給対象者は1万人以上。同社は従来「変形労働時間制」を採用し、1ヶ月の労働時間が174時間を超えた場合に割増分を出していたという。
 ユニオン側は「時給で働くバイトに変形労働時間制は不自然だし、就業規則に何も書かれていない。交渉過程で会社は計算方法に誤りがあったことも認めており、理解できない説明だ」としている。
独立行政法人労働政策研究・研修機構1月9日付メルマガ労働情報より


 時間外手当の不払いについては、労働者や家族等からの労働基準監督署に対する申告がもとになり摘発されるケ−スが普通ですが、この記事の場合、労働組合が問題として指摘し未払いの時間外手当を支払わせたケ−スです。労働組合が取り組むのは当たり前のことかもしれません。しかし、サ−ビス残業の問題に対して労働組合の対応は本音と建前を使い分けているのが現実ではないかと思います。個人的にはホワイトカラ−の中堅以上には一定の手当てを支払ったうえでホワイトカラ−・イグゼンプションを適用し、それ以外の者には労使ともにサ−ビス残業を徹底的に監視するのはどうだろうかと思うのですが・・流産したようですからいいとして、この記事に出てくるいくつかの言葉について見ていきます。

1.労働組合
 労働組合の設立は行政機関での許認可は必要ありませんが、不当労働行為等の調停を労働委員会に申し立てるためには資格審査があるので労働組合法に定めるいくつかの条件(管理監督者や使用者の利益代表者が加入の有無また使用者からの経済上の援助の有無など)をクリア−しておかなければなりません。労働組合法に基づき労働組合と使用者が労働条件等を定めたものを労働協約といい、労働基準法の規定に基づいて定める36協定などは労使協定と呼ばれます。ちなみに労働組合の組織率を見ると昭和22年が45.3%、平成元年が25.9%そして平成17年が18.7%と減少傾向にあります。日本では会社単位の正規職員による労働組合が一般的ですが、この記事の労働組合はバイトが設立しています。誰でも加入できる労働組合「全国一般評議会」や「管理職ユニオン」などの労働組合がインタ−ネットで検索すると見つかりますので、将来的にはこうした労働組合が組織率を高めることになるかもしれません。

2.1ヶ月単位の変形労働時間制
 労働基準法は、1週間40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないと規定しています。これを法定労働時間と呼んでいます。これを超えて労働させる必要があるときには、第36条の規定による労使協定(36協定)を結ぶことによって法定労働時間を超えて労働させることが出来ます。この場合当然時間外の割り増し賃金を支払う必要が生じます。しかし、時期的に労働の密度が変動する職場では一定の期間を平均して1週40時間を超えていなければ割り増し賃金を支払う必要が無いという制度も基準法は規定しています。これが変形労働時間制という制度で、1週間単位、1ヶ月単位、1年単位そしてフレックスタイムがあります。また裁量労働制(専門業務型、企画業務型)や事業場外労働制などもあります。
 ここの1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月の期間内で一定の期間を定め、各日の労働時間と各週の労働時間を定め(これを超えた時間は割増賃金の対象となる)それが1ヶ月平均して1週平均が40時間以内であれば割り増し賃金の支払いが必要ないとするものです。
 この1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するためには常時10以上(パ−ト等含む)の労働者がいる職場では就業規則で、それ以外の事業所では労使協定で定めておく必要があります。

3.1日単位で計算する方法に変えた
 変形労働時間制をやめて、労働基準法通り1日の法定労働時間8時間を超えた場合に割増賃金を支払うことにしたことを意味しています。1日8時間を超えなければ割れ増し賃金を支払う必要が無いかという問題が残ります。もし1日7時間で月曜日から土曜日まで働いた場合1日単位で見れば問題はありませんが1週間で見ると42時間となり、1週あたりの法定労働時間を2時間超えているので2時間分の割り増し賃金が必要ということになります。

4.過去2年分
 過去2年分の割増賃金の清算を行っていますが、この2年遡った理由ですが、基準法は労働者が使用者に対して権利を主張できる期間、すなわち時効を2年(退職金は5年)と定めていることによります。これは、年次有給休暇についても同じですから、発生した時から2年で時効となるため翌年度までしか繰り越すことが出来ません。もし、就業規則に「年次有給休暇は翌年度に繰り越すことが出来る。」と規定したら、時効の利益を使用者は放棄したことになり退職するまで繰越していけることになってしまいますので、「翌年度に限り繰り越すことが出来る。」としておく必要があります。

5.割増分25%
 時間外手当の割増率を基準法は25%と定めています。残業が午後10時から翌朝5時に及んだ場合には、深夜労働割増としてさらに25%の上乗せが必要になります。この深夜労働の割増はシフトによる場合においても、管理職が深夜労働した場合においても支給する必要があります。休日に労働した場合には35%の割増率が適用されることになります。ただ、注意しておかなければならないのは、時間外と休日の割増賃金を支払う時間帯また休日がどこかを定めておく必要があります。たとえば、勤務時間が9時から5時まで休憩時間が1時間の場合、その会社の所定労働時間は7時間となります。2時間残業したとき2時間に対して25%の割増をつけるのか、それとも基準法に従って8時間を超えた部分の1時間に対してなのかを就業規則等で明確にしておかなければ担当者によって賃金計算が異なることも出てきます。次に、休日についても同様で、基準法は1週に1回としています。しかし、大半の会社は土曜日、祭日そして年末年始も休日としているでしょう。そうすると休日出勤の割増率35%が適用される休日はどれかということになります。したがって、基準法通りにするのであれば「法定労働時間を超えたとき、法定休日に労働したとき」との定めが必要ですし、会社が労働時間や休日に労働したときに割増賃金を払うのであれば「所定労働時間を超えたとき、所定休日に労働したとき」と定めておく必要があります。また、割増率は基準法以上の率で定めても問題はありません。

6. 1ヶ月の労働時間が174時間を超えた場合
 1ヶ月単位の変形労働時間制は各日の労働時間と各週の労働時間を定めておく必要があります。ある日は10時間ある週は50時間と定めることもできますが、変形対象期間を平均して40時間以内とする必要があります。その計算は次の計算式で行います。
 変形対象期間の労働時間の総数=法定労働時間数(40時間)×変形期間の週数(変形期間の日数÷7日)
 これで計算すると30日の月は171.4時間、31日の月は177.1時間となります。この平均値が174時間となります。月によって総枠が異なるためこの数値を毎月使うことは基準法違反となります。

7. 就業規則に何も書かれていない
 就業規則は、パ−ト等も含めて常時10人以上の労働者が働いていれば使用者に作成の義務があり、さらに労働者の意見書を添付して監督署に提出し、労働者に周知する義務があります。基準法に記載する内容についても定められていますし、基準法の基準は最低のものであるのでこれ以上の労働条件を定める必要があります。時効や割増率のところで見たように明確に記載しておかないとそのときそのときで判断が変わってくることにもなりかねません。また、何らかの紛争が起こった場合には必ず雇用契約書と就業規則にどのように定められているかが問われます。年休の話で記したように言葉尻の問題で不利益を蒙ることもあります。就業規則を定めると労使ともに権利と義務が発生しますので注意しておく必要があります。先にも触れたように、1ヶ月単位の変形労働時間制は就業規則に定めておく必要がありますので、導入した時点で記載し、監督署に届け出る必要があります。ただし、就業規則の提出義務が無い事業所は労使協定で定め、これを監督署に提出しておく必要があります。