派遣労働者を受け入れるときには法律違反のないように!


デルを書類送検へ
派遣会社に販売員紹介容疑

 米大手パソコンメ−カ−、デルの日本法人「デル」(本社・川崎市)が、店頭販売員を確保する際、(1)自社で面接を行ったうえで、人材派遣会社から派遣させる形で働かせていた疑いが強まり、神奈川県警幸署は(2)職業安定法違反容疑で同社と当時の採用担当者ら数人を近く書類送検する方針を固めた。調べによると、同社の採用担当者らは2002年8月、パソコンの店頭販売員として応募した男性(30)を面接し、(3)職業紹介の許可をうけていないのに人材派遣会社に紹介した疑い。男性は、派遣社員として、家電量販店でデル社のパソコンを販売していた。
 同署では、同社が02年5月から03年12月にかけ、計約170人を人材派遣会社に紹介したとみている。同社の浜田宏社長は事情聴取に対し、「 (4)社会保険料がかさむのでやった。私の責任」と話しているという。
 男性が昨年2月、同社に問い合わせて発覚、今年7月、告訴していた。

(読売新聞 h17.8.12)


 現在、労働者がどのような形で働いているのか、また、労働に対する考え方は多様化してきています。その背景には、生活レベルの向上また生活環境のグロ−バル化、便利さ、スピ−ドを第一とする考え方があるといえます。特に、宅急便の全国翌日配達、インタ−ネットによる注文、コンビニの24時間営業、飲食店などはスピ−ドと短時間勤務労働者また長時間労働を強いる勤務体制の上に成り立っています。こうした社会を求めているのは私たち自身であり、私たち一人ひとりが利便性を求めれば求めるほど劣悪な労働環境またいびつな社会を生み出しているといえます。こうした社会の一翼をになっている労働形態の一つが派遣労働といえます。

 派遣労働者は、平成5年度には、57万人であったものが、平成10年には89万人、平成15年には236万人と増加してきています。前の5年間で30万人程度の増加であったものが、次の5年間では150万人と5倍の伸びとなっています。生産拠点の海外へのシフト等により終身雇用制が崩壊していっている時代ですから、今後さらに大きな伸びを見せていくことと思います。

 こうした時代を反映して「労働者派遣法」も16年度に改正があり、派遣労働者保護が進んできています。しかし、派遣労働者の雇用保険また社会保険への適用となるとこうした社会情勢に追いついていないのが現状です。

【派遣労働者】
 派遣労働者法第2条による派遣労働者の定義は次のようになっています。
1.労働者派遣
 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
2.派遺労働者
 事業主が雇用する労働者であって、労働者派遣の対象となるものをいう。

 一方労働基準法第9条では、労働者を、「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義しています。ここでは、使用者には労働者に対する指揮命令権と労務の提供に対する賃金の支払義務があります。当然、使用者には労働者の業務遂行に当たっての安全管理義務が伴っています。しかし、派遣労働者になるとこうした関係が分解されてしまうことになります。まず、派遣元と派遣先との関係(派遣契約)があります。 次に、派遣元と労働者の関係です。ここでは、派遣契約に基づいた雇用契約を締結し、賃金の支払と安全配慮義務の一部を派遣元が負います。そして派遣先と労働者の関係です。ここでは、労働者には派遣元と締結した雇用契約に添った労務の提供義務があり、派遣先には派遣契約に基づいた指揮命令権と安全配慮義務の一部を担うことになります。労働者にとっては、雇用契約を結んだ相手と違う者の下で労務を提供し、それに対する賃金は労働を提供した相手ではないものから貰うという複雑な関係があるといえます。

 派遣労働者には、派遣元が常雇している労働者を派遣する常雇型派遣労働者と必要が生じた都度採用して派遣する登録型派遣労働者とがあります。登録型派遣労働者には、イベント等を中心に働いている者と、一定の派遣先に長期間勤務している者とに大別されるといえます。これらの登録型派遣労働者の雇用形態が「日々雇用される者」として雇用保険の適用を受けられないケ−スもあるようです。

派遣元・派遣先・労働者の関係
派遣元と派遣先の関係 ・派遣契約を締結し、それに基づいて労働者の派遣・受入をおこなう。
派遣元と労働者の関係 ・派遣契約・派遣元の就業規則に基づいた雇用契約を締結する。
・労働の指揮命令は派遣先にある。
・労働に対する賃金は派遣元から貰う。
・採用時・定期健康診断などは派遣元の義務となる
派遣先と労働者の関係 ・派遣先は派遣契約に基づいて労働者に指揮命令をする。
・労働者は、派遣元との雇用契約に基づいて労務を提供する。
・派遣先には、労働時の安全配慮義務が発生する。
その他 ・年休の請求は派遣元に対しておこなう。
・時間外労働については、労働者は雇用契約に従い、派遣先は派遣契約による。
・雇用保険、社会保険及び労災保険は、派遣元が加入する。
・業務に伴う特殊健康診断は派遣先の責任で行う。


【問題点】
(1) 派遣労働者として受け入れる労働者を自社で面接し、派遣会社に紹介していた。

 ここでは、派遣先が、派遣労働者として受け入れるべき労働者を、自らが募集し、決定した者を派遣会社に採用させて受け入れるということが是か否かということが問われています。

 労働者派遣法第2条第1号後段の部分で「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」と規定し、こうした形態での労働力を確保する事業は派遣事業ではないとされています。要するに、派遣事業者は、自らの努力で派遣労働者を採用して派遣先で労働をさせなければならないということです。しかし、派遣先は自社の商品を販売してもらうための派遣社員を自らが選択したいという気持ちは当然のことだといえます。しかし、こうした行為については、労働者派遣法と職業安定法が禁止している行為となります。労働者派遣法では、「派遣先が構ずべき措置に関する指針」で次のように定めています。「派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること、派遣先に対して当該労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとする等派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと。」現実には行われているようですが・・。

 次に、職業安定法については、労働者供給事業に該当する可能性があるということになります。労働者派遣法が施行されるまでは、派遣事業自体が労働者供給事業として禁止されていましたが、労働者派遣法の施行に伴い、自己が雇用する労働者を派遣先の指揮命令下で働かせることは労働者派遣事業とされましたが、それ以外の、自己の支配下にある労働者または自己の雇用する労働者を他人に雇用させる行為は労働者供給事業として禁止されています。労働者供給業とは、人を紹介することで、その賃金を搾取するという口入業を指しています。デルの場合賃金の搾取が目的ではなかったとしても、労働者を派遣事業者に紹介し、採用させて派遣させ、将来的に採用することをしないという形態は職業安定法が禁止している労働者供給事業に該当するといえます。現在では、労働者供給事業は厚生労働大臣の許可を受けた労働組合にのみ認められています。

職業安定法
第44条(労働者供給事業の禁止)
 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
第45条(労働者供給事業の許可)
 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。


 デルがこの派遣労働者を将来的に職員として採用をするつもりであったのであれば、労働者供給事業違反とはならず、労働者派遣法が定める「紹介予定派遣」となり法律違反はなかったことになります。この場合には、派遣前の面接、履歴書の入手などの規制が外れますが、6ヶ月以内に採用しなければなりません。何らかの理由で採用しないのであればその旨の理由を明示する必要があります。

(2) 職業安定法
 職業安定法は職業に就くためまた人を採用するための手続き等について定めた法律です。第2条では、「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定め、第3条では、「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。その他、職業紹介機関、募集の方法、職業指導などが定められています。
 人を採用する場合には、この法律理解しておかないとデルのような事態も発生します。

(3)  職業紹介の許可をうけていないのに人材派遣会社に紹介
 職業紹介機関としては、ハロ−ワ−クをはじめ有料・無料の民間職業紹介機関また学校等があります。民間職業紹介機関は厚生労働大臣の許可が必要になりますが、学校については届出だけでよいとされています。こうした機関においては、有料の職業紹介の許可を受けた場合であっても、求職者から手数料を取ることはできません。有料の職業紹介機関にはヘッドハンティングの会社やリストラした社員の就職をこうした機関に依頼する場合などがあります。

 採用の方法としては三つの方法があります。
  @ハロ−ワ−ク等の職業紹介機関に依頼する。
  A社員等を使って探す。
  B第三者に対して委託募集する。

 この中で、第三者に委託募集する場合には、次のことを守らなければなりません。
第36条(委託募集)
 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
A 前項の報酬の額については、あらかじめ、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
B 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えることなく労働者の募集に従事させようとするときは、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。


(4)  社会保険料がかさむ
 この問題は労働保険料や社会保険料の問題だけではなく、賞与や退職金また福利厚生費などをも含んでいるものといえます。正規職員以外の、嘱託、契約社員、パ−ト、アルバイトなどまた派遣労働者を多様な労働者が社内にあふれていますが、これらはまさにこの問題に対応した人件費を節約するための対策といえます。業績の悪い会社であれば社会保険料の負担は厳しいものがあるといえます。

 ちなみに、賃金20万円の職員を採用した場合、会社にどの程度の保険料負担が生じるか試算してみます。

※ 40歳未満で、事務的な業種で時間外・賞与等含まない。(H19.9.1)
項 目
年間賃金保険料率保険料額備  考
労災保険料
240万円
(月額20万円)
×
4.5/1,000
10,800円全額事業主負担
雇用保険料
9/1,000
27,600円事業主に対する保険料率
健康保険料
41/1,000
98,400円同上
厚生年金保険料
74.98/1,000
179,952円同上
合 計
316,752円一ヶ月あたり26,396円


 月給20万円の人を一人採用するとなると労働保険と社会保険だけで上記の費用が発生します。このほかに、毎年の昇給また賞与その他の福利厚生費、教育費などを含めればかなりの額になるといえます。当然、こうした費用は、労働者に対しても発生してきますから、すべての労働者が社会保険・労働保険への加入を望まないケ−スもあり、派遣会社などでは、労働者の望みに応じて適用したり、させなかったりしている現状もあるようです。

 老齢年金の受給年齢の高年齢化、年金額の減少等から年金への不信感も強くなっていますが、老後のことは自助努力すべき問題であり、その一部を老齢年金でまかなうものではないでしょうか。悪く言えば、財産を食いつぶして生活保護を受けることも可能でしょう。みんなが右に倣えではダメかもしれませんが・・・。ただ、それ以前に、年金制度が必要なのは、今、交通事故や病気で障害を負って障害等級に該当した場合、障害年金を受給できるかどうかの方が重要な問題だといえるのではないでしょうか。