資格喪失後出産手当金廃止に伴う経過措置の問題点

 平成18年度に健康保険法の改正にともない、今年の4月から施行されるものの一つに資格喪失後の出産手当金の廃止がありました。このことについては、えくれしあ第47号で紹介しました。そのとき5月11日(多胎分娩を除く)に出産した方は、産前42日の起算日の初日が3月31日となるため改正前の法律が適用され、資格喪失後の出産手当金を受給できると説明しました。しかし、3月31日に退職(資格喪失日は4月1日)し、5月16日が出産予定日であった方が5月11日に出産され、社会保険事務所から3月31日に休務していなければ資格喪失後の出産手当金を受給できないと云われたという相談を受けました。社会保険事務局に問い合わせてみたところ同じ回答でしたが、その根拠となるものは何もなく、「3月31日に休務していなければ出産手当金の受給権が発生しない。これまでも出産手当金は、出勤した日に対しては支給していないし、休務して始めて受給権が発生するということで支給決定してきた。」とのことでした。
 これまで、資格喪失後の出産手当金の受給条件は、資格喪失後6ヶ月以内に出産することが条件でしたから、受給権の発生自体を日々発生すると考えてもなんら問題が発生しませんでした。しかし、今回は、制度が廃止されるのですから、受給権がどのような発生の仕方をするのかを明確にしなければ貰えるはずの出産手当金がもらえなくなってしまいます。行政の説明通りとすれば、4月12以降が出産予定であった方は、勤務中に産前の休暇は取れないため出勤しており、4月11日以前に出産しても受給権は発生しないことになります。また、4月11日が出産予定日で予定通り出産された方も3月31日に休暇をとっているとは考えにくいですし、4月8日出産予定日の方がそれ以前42日前(3月28日)から休暇をとっており、4月11日に出産がずれ込んだ場合、退職日である3月31日は挨拶のため出勤するのが普通ではないでしょうか。そうするとこの方も受給権はないことになってしまいます。厚生労働省保険局長が平成18年6月21日に出した「健康保険法等の一部を改正する法律の施行について」を見ると、「平成19年4月1日の前日において改正前の健康保険法第106条の規定による資格喪失後6ヶ月以内に出産した者に対する出産手当金の支給を受けていた者又は受けるべき者については、平成19年4月1日以後も出産手当金を支給することとし、その額は、標準報酬日額の6割に相当する額とすること。」されています。また、東京社会保険事務局のホ−ムペ−ジでは、「平成19年3月31日において、被保険者期間が1年以上あり、資格喪失後6ヶ月以内に出産した場合に支給される改正前の出産手当金を受けるべき方、または引き続き受けられる方とは、平成19年5月11日(出産日の42日前の日は平成19年3月31日)までに出産した方となり、平成19年4月1日以後も標準報酬日額の6割に相当する額が支給されます。」とあり、さらに枠の中の赤字で「・・平成19年5月11日(出産予定日)の方が、平成19年5月12日以降に出産した場合は、支給されません。」とあります。後段の部分は従来の資格喪失後6ヶ月以内の出産の場合と同じで当然のことでしょうが、もっとも重要な点である3月31日に休んでいなければ支給対象とはならないとはどこにも説明されていません。
 出産手当金と同じように休務したときの賃金保障として傷病手当金があります。この場合、3日間連続して休務(待機期間)し、4日目に休務していることによって1年6ヶ月間の傷病手当金の受給権が発生し、その期間内の傷病により休務した日に対して傷病手当金が支給されます。出産手当金は、健康保険法第102条で「被保険者が出産したときは、出産の日以前42日から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金として、1日につき、標準報酬日額の3分の2に相当する金額を支給する。」と規定されています。傷病手当金は、休務を積み重ねて初めて受給権が発生し、受給期間が決まります。一方、出産手当金は事後的に出産があった日から遡って受給権が発生することになります。この条文では受給権は出産日以前42日前の日に発生し、その期間内の労務していない日に対して支給すると解釈するのが妥当ではないでしょうか。これは、民法第104条「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」を前提にしているといえます。今回のように、3月31日を労務していれば受給権が発生しないとするためには民法の規定を否定する特別法での規定が必要だと考えますが、健康保険法上は否定しておらず民法の考えを踏襲しています。行政が労務していれば受給権がないというのは誤りで、産前42日の受給権は発生しているが勤務している日は受給要件を欠くだけの話に過ぎません。受給権の発生とその期間内における日々の受給要件とを混同しているとしかいえません。
 行政が云う3月31日に労務に服していないという条件が必要だとの通達等どこにあるのか分かりません。ただ、厚生労働省保険局保険課名で、健康保険組合宛に事務連絡(平成19年3月13日付)として出した文書、「健康保険等の一部改正する法律の施行に伴う傷病手当金及び出産手当金の支給事務取扱いに係る事例集の送付について」の最後に【注1】として「継続給付の条件は、出産日または出産予定日が資格喪失日の前日から42日以内であり、資格喪失前の前日に労務に服していないこと。(資格喪失日の前日において事業主から休職給が支給されており、支給調整の結果、出産手当金の支給がなされない場合を含む。)」と記載されています。課名の事務連絡文書にどの程度の法的拘束力があるのか分かりませんが、裁判ともなれば、民法の規定から無効とされるのではないでしょうか。また、私の読み方が誤っているのかも知れませんが、健康保険組合に対しては、「出産予定日が4月11日までにあれば、資格喪失後の出産手当金を支給しても良いですよ」と読めてしまいます。先にも挙げたように東京社会保険事務局のホ−ムペ−ジには、「平成19年5月11日(出産予定日)の方が、平成19年5月12日以降に出産した場合は、支給されません。」とあり、政府管掌健康保険では認めていないが、健康保険組合には特別に認めていることになります。附加給付なら分かりますが、法定給付で取扱が違うというのはどうも理解不能としか言いようがありません。今年、1回限りの措置で、対象者は多くないと思うのですが???