ある技能実習生の帰国時の賃金支払明細書から


 私たちは、就職して会社から得られる賃金で生計を立てています。そのため、就職するに当たってハローワーク等の求人票に記載されている基本給、残業、交通費等諸手当と休日・休暇について確認したうえで面接に応じるか否か判断し、面接の結果また就職後著しく労働条件が違っていれば辞職し、次の職場を探すことが可能です。しかし技能実習生達には、そうした自由がないため送出機関・受入機関また会社を信用して来日します。当然日本の法律に疎いこともあり、こうしたところに付け込んで不正また不正とまでは言えないにしてもあくどい扱いをする受入機関も少なくありません。カキ養殖業に見られた例では、労基法では労働時間、休日や割増賃金が適用除外とされていても、入管は技能実習生に対してはこれを認めていない為、本人からは労基法に従がった偽の契約書にサインさせ、入管提出用にはパスするような内容の契約書を作成して本人の署名を偽造して提出し、割増賃金をごまかすと言った例がありした。
 こうした不正又ごまかしの方法として次のようなものがあります。
 @ 正式な契約書は渡していても全く無視しているもの
 A 最低賃金の改訂を無視して賃金計算おこなうもの
 B 会社カレンダーに組み込まれた計画年休を年間休日日数として処理しているもの
 C 最低賃金の改訂を行うと同時に家賃を同額増加させるもの
 D 有給休暇を事前申請として当日の急病でも使用させないもの
 E 残業は定額なアルバイト・内職として処理するもの
 F 変形労働時間制としながらも恣意的にその時の都合に応じて勤務を設定するもの
 こうした不正の幾つかを行なう会社にいた技能実習生から最後の賃金支給明細書が送られてきたものを見ると次のように記載されていました。
出 勤
有 休
欠 勤
基本給
欠勤控除
 
支給額
6
16
1
126,600
▲5,626
 
120,974
雇用保険
所得税
住民税
住居費
クリーニング
控除額計
差引支給額
633
1,130
30,800
27,000
2,000
61,563
59,411

 7月の終わりに、日本年金機構中国ブロック本部長・各年金事務所長連名で、「厚生年金保険及び健康保険への加入指導について」という文書が社労士に送られてきました。社会保険に加入義務がありながら無視している事業場に対して指導中であり、その結果、業務依頼があれば早急に手続を進めるよう配慮をお願いしたいとの内容でした。広島県内の法人で未加入の事業場の割合が業種ごとに表として示してありました。
業 種
件 数
割合(%)
業 種
件 数
割合(%)

サービス1は、
 理髪/美容、(産
 業)廃棄物処理等
サービス2は、
 自動車修理業など
不動産業
2,631
21.28%
製造業
801
6.48%
サービス業1
2,217
17.94%
料理旅館飲食業
772
6.25%
小売業
1,521
12.30%
卸売業
679
5.49%
建設業
1,192
9.64%
運送業
317
2.56%
その他の業
1,023
8.28%
サービス業2
199
1.61%
宗教法人
993
8.03%
デ−タ無
16
0.13%
  
12,361
  

 ここに示してあるのは社会保険の加入手続きを取っていない小規模事業所数を示しているだけで、加入はしていても正社員のみ加入させてそれ以外のパート等非正規社員を加入させていない大規模事業所はここでは問題とされていません。そうした大手の事業所であれば1社で数百人を未加入のまま放置している例も少なく無いと考えられます。また零細事業のコンビニ業界も社会保険未加入の事業所が少なくありませんし、店長だけ加入させていると言った例もあります。建設業会では元請が下請の条件として、役員の労災保険特別加入を義務付けているように、コンビニではフランチャイジーに加入指導義務を負わせる必要があるのではないでしょうか。年金機構からの資料には、建設業許可(更新)等の際に未加入であれば年金事務所に通報する仕組みがあり、自治体や有力企業に未加入事業者と契約しないように要請しているとのことです。また独自の取組として次のようなことが書かれています。

  1. 年金事務所が、文書、電話、訪問等により加入指導を実施します。
  2. 度重なる加入指導にもかかわらず加入されない場合は、「立入検査」を実施し、職権により、事実に基づいて遡って加入手続きを行ないます。
  3. 届出義務が履行されない場合や、立入検査を拒んだ場合には、厚生年金保険法及び健康保険法の規定により、罰則(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が適用されることがあります。

 この中のAに「遡って加入手続きを行ないます。」時効にかからない過去2年間分の保険料が徴収されます。こうなると、従業員も保険料を支払う必要が出てきます。その金額は次のようになります。
(30歳で賃金総支給額20万円の場合)

 健康保険料が10,040円、厚生年金保険料が17,474円   計27,514円
 この2年間分なので、27,514円×24か月分=660,336円

 事業所はこの2倍の額を一括して支払うことになります。しかし職員は、国民健康保険と国民年金を支払っていたならその額が返還されることになるとしても様々な問題が発生します。社会保険料が違えば所得税額が違ってきますし、労働保険料も発生します。病気で長期間休んでいた人は、傷病手当金の請求の可能性も出てきます。当然時効の問題も出てきますし、障害年金の問題も発生し、事業主の不法行為に対する損害賠償の問題も出てこないとは言えません。