健康保険証にまつわるお話し @

 病気に罹ったとき、病院に持っていって保険診療してもらうためのパスポ−トが健康保険証ということは皆さんご存知のとおりです。保険証を病院で提示することにより、自己負担の3割部分を支払えば済みますが、もし持参しなければ全額支払うことになります。また継続して受診しておれば毎月最初の受診日には保険証を提出する必要があります。一般の病院では忘れても次回持参してくださいで済むでしょうが、大学病院などでは全額負担させられることになります。この場合には、療養費の請求書に診療報酬明細書(レセプト)と領収書を添付して保険者に請求すれば7割部分が給付されます。よくあるのが旅先で病気になり保険証を持っていっていない場合です。当然全額支払うことになりますが、これは自由診療となり、保険診療では1点10円であるものが、1点20円程度で請求されることもあります。こうなると保険者に先の療養費の請求をしても1点10円として計算した額の7割しか給付されず残りは自分が負担しなければなりませんので、かなりな負担をするはめに陥ります。過去に見た中では東京の歯医者さんで1点30円というのをみたことがあります。

 普通かかりつけのお医者さんとの間では保険証の提示は厳格には行われていないのでこうしたことはピンとこないかと思います。かって大学病院に子供が受診していたとき、お医者さんの指示により3ヶ月間隔で通っていました。たまたま保険証を忘れ全額支払わされたことがあり、療養費の手続きをするため領収書を見ると初診料が取られていたので、「お医者さんの指示で3ヶ月ごとに通院しているので初診料は算定できない。」と電話をすると、「1か月以上受診の間隔があくと一律に初診料をもらっており一切例外は認められない。」の一点張りで埒が明かず、当時の県の保険課に行き指導してもらったことがあります。交通事故の場合も保険証を使うか、使わないかで大きな差がでることは「えくれしあ第4号」の「第三者障害に健康保険を使えるでしょうか?」を見てください。

 もし保険証を退職後にも使用したとしたらどうなるかとのことを見ていきます。退職時には保険証は事業主に返却することになります。もし、返却せず使用すれば病院では困った問題が発生します。医療費を保険者に請求しても「既に資格を喪失しているので医療費は支払えません。」と付箋がついてレセプトが病院に帰ってきます。病院では本人に連絡をとり新しい保険者の番号等を聞いて請求しなおすことになります。こうなると病院では医療費が数ヶ月未収のまま残ってしまいますので、保険証は初診時、毎月そして保険者が変わったときは速やかに提示してください。病院に行くため退職後も保険証を返却していないとなれば当然詐欺罪ということになります。また、その保険証は身分証明の代わりにもなるので退職時に回収しておかなければ事業主さんにとっても迷惑がかかることも無いとはいえません。

 保険証で一番困った問題は、サラ金でお金が簡単に借りることができることです。写真が無いので確認できないと思うのですが・・・・。自分が借りるのはいいとしても保険証を盗難にあったり、なくした場合は大問題です。他人が自分になりすましサラ金からお金を借りまくればその日のうちにもものすごい額の借金の山を負うことになってしまいます。こうした場合には、すぐに警察に盗難届なり、遺失物届を提出しておかなければ対抗できないことになってしまいます。

 保険証はクレジットカ−ドと同じと考えてください。事業主さんは社員証と同じと考えておかなければ思わぬ事態に陥らないとはいえません。

健康保険証にまつわるお話し A〜給付の目的

 前回は健康保険証の大切さ、また扱いをおろそかにすると大変な目にあうことなどの話でした。では、保険証はどのようなときに使えるのかという話に進みます。

 一言で保険証といっても、これを読まれている方すべてが同じ法律の適用を受けているとはいえません。当然、病院の窓口での負担割合は同じであっても、それ以外の保険給付の内容については大きく違っています。公務員や私立学校の職員であればそれぞれが加入している「共済組合法」、船員は「船員保険法」、民間会社のサラリ−マンであれば「健康保険法」、自営業者等前記以外の方は「国民健康保険法」の適用を受けています。中でも、健康保険法の適用を受ける労働者の場合は、会社なり同業者等で組織する健康保険組合に属する人と、それ以外の社会保険事務所が窓口になっている政府管掌健康保険の適用を受ける人に分かれます。健康保険はなにを目的としているかを康保険法と国民健康保険法でみていきます。併せて、健康保険法または国民健康保険法の適用を受ける労働者が対象になる労働者災害補償保険法の目的もみておきます。

   
健康保険法 「この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」
国民健康保険法 「国民健康保険は、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする。」
労働者災害補償保険法「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して」

 国民健康保険法には被扶養者の文言がありませんが、これは未成年者であっても被保険者として扱われ保険料負担が発生するためです。労働者については、業務上や通勤途上のものは労働者災害補償保険法で、それ以外は健康保険法や国民健康保険法で面倒をみてもらうということになり、自営業の人は仕事上の事故も含めて国民健康保険法で給付してもらうことになります。上記の労働者災害補償保険法の条文中に、「出産」という文言はありません。事故で出産、無いことは無いかもしれませんが、当然、公序良俗に反する職業ということで給付されませんが、代理出産はどうなるかということがあります。法律の字面だけからみていくと、業務上の行為であって災害ではないので、労災保険は対象にならないし、健康保険は業務外の事由に限定しているので対象にはなりません。だけど国民健康保険では「被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡」とあり、自営業者の業務上の傷病も給付対象であり、給付制限の条文にもなんら記載はないので、異常分娩だったら医療費も保険給付の対象になるのかとの疑問が出てきます。民法第90条に(公序良俗違反の法律行為)「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす。」とありますから代理出産契約に対して現段階では給付は難しいのかと思います。一方では、子供が欲しいとの熱烈な気持ちも分かるし、個人の考え方次第だからとして、「疑わしきは罰せず」で、代理出産の是非はすぐに結論が出ないので、出産という行為には国民健康保険の条文上問題が無いから給付も可能との考えもできるかも知れません。ド−キンスのように「人間はDNAの乗り物に過ぎない。」と割り切ってしまえば問題はないでしょうが、いずれにしても代理出産が法律上可能となれば、頭の悪い私は、「頭のいい人に代理受験してもらってもいい。」と短絡してしまいそうです。「蟹は自分の甲羅にあわせて穴を掘る。」といいますから、自分の甲羅に合わせて精一杯生きるのが幸せかもしれません。

 代理出産の話は例外としても健康保険には給付制限の規定があり、給付の決定には難しい問題がいろいろあります。自殺に対して保険給付は?法律どおり扱うのか?自殺といわなければ分からないのではないか?次回は、このあたりのことを見ていきたいと思います。


健康保険証にまつわるお話−3 〜給付制限〜

 健康保険は、業務上以外の疾病・負傷・死亡・出産を給付の対象とし、労災保険と併せれば一応、病気や怪我などはすべて健康保険なり、労災保険の給付を受けることが出来ます。ですが、無免許の酔っ払い運転で速度違反をして自損事故を起こしたり、強盗に入って逃げるとき塀から落ちて怪我をしたといった場合にまで保険給付をしたのでは、高い保険料を支払っている善良な被保険者は、怒ってしまいますので、一定の条件に該当すれば保険給付しないと健康保険法は定めています。余談ですが、強盗云々の話では、物品回収業として、有限会社強盗産業を設立すれば、労災保険等には加入できるでしょうが、公序良俗に反する事業内容部分で事故を起こしても保険給付はなされないでしょう。

第116条
 被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。
第117条
 被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、その全部又は一部を行わないことができる。

  ただ、ここであげた自損事故のような場合には、第116条・第117条に該当して給付されませんが、無免許だけの場合とか、速度違反だけとかの単一の事由での給付制限は難しく、ここのように複数の事由が重ならないと無理といえます。とはいっても、広島駅前を150km/hで走って事故を起したような特殊な事例は別でしょうが・・。いずれにしても給付制限するとすれば保険者が一定の基準を作成しておく必要があると思います。

 前回最後に触れておいた自殺の場合の話に入ります。まず、「保険者に自殺と分かるのか」との疑問があると思います。保険者には、支払基金又は国保連合会を通じて診療月の翌々月に診療月一か月分の診療内容の明細書(レセプト)が送られてきます。これには、傷病名、それぞれの初診年月日、診療日数、レントゲン、手術、注射や投与した薬名などが記載されています。「手首創傷」のような傷病名が記載されていますのでレセプトをみればおおよその見当がつきます。保険者では、怪我のレセプトについては、交通事故などの第三者傷害の報告漏れをチェックするため、怪我の原因を問い合わせる文書を送っています。そうすると自殺未遂として報告してくることもありますし、事業場の担当者から、「自殺未遂だけどどのように報告すればよいか」と問い合わせてくることもあります。本来であれば、そのレセプトは支払えないということで医療機関に返戻することになりますが、健康保険組合自体、会社の福利厚生施設という立場もあり、原因確認だけで終わらせざるを得ない面もありますが、そのあたりは組合の考え方次第といえます。ただ、自殺が成功した場合には、埋葬料は給付制限の対象からはずされていますので、給付されます。もし、親族等がいなければ埋葬費として埋葬料の範囲内でのお葬式代の実費が支払われることになります。実際にあった話ですが、一家心中で埋葬費の給付をしたことがありました。子供が当組合の被保険者で、両親は政管健保と他の健康保険組合の被保険者でした。当然お葬式は一つですから、お葬式にかかった費用の内、どの費目を埋葬費算出の基礎項目として認めるかを協議した上で、それぞれが埋葬費を給付したことがあります。

 この怪我の原因調査で、第三者傷害が時々判明します。よその飼い犬に咬まれて大怪我をした事例、仕出し弁当での食中毒、暴行を受けたり、業務上の事故だった、とかいろいろあります。交通事故の場合が一番多いのですが、この調査で判明し、数百万円求償していく事例が良くあります。調査しなければすべて保険料の無駄使いになりますし、傷病手当金と自賠責保険の休業補償との二重取りという例もありました。

 法律上は、給付制限ができますが、いざ適用しようと思っても悪質な事由が重なるケ−スはなかなかありませんので、まず、この適用を受けることは無いのではないかと思います。