健康保険組合の被扶養認定を巡るトラブル

東京  外資系証券会社  匿名

 

 わが国では、昭和36年に国民皆保険制度が確立され、国民健康保険(市町村国保と組合国保)、社会保険(政管健保と組合健保)そして各種の共済組合(公務員共済や私学共済)等いずれかの健康保険制度に加入が義務付けられています。そうは言っても収入が無く生活が困窮し健康保険料を支払うことができなければ、生活保護法による医療扶助が受けられます。また、失業したりして収入が激減すれば、国民健康保険料の減額措置などが市町村単位で実施されている場合もあります。
 今回の、「健康保険組合の被扶養認定を巡るトラブル」では、転職前の健康保険組合では、別居し自営業を営む両親の被扶養認定が認められていたにもかかわらず、転職後の健康保険組合からは、「自営業者は国民健康保険にしか加入できない。」との理由で被扶養認定を拒否されましたが、被保険者の努力の結果、関東信越厚生局を動かし、被扶養認定が認められた事例です。Q&Aという形で報告していただきました。

  1.いままで被扶養認定が認められていたご両親の状況についてご説明ください。
 (別居のこと、自営業としての年間売上と年間所得、仕送りの状況(他のご兄弟からの仕送りの有無等)
  ・両親は喫茶店を経営しております。
  ・年間で売り上げは平均で500万ほどありますが経費を差し引いた後、所得として残るのは年間で30万に足らないほどです。
  ・月に平均して10万ほどの仕送りをしています。
  (ボーナス時に多めに送ったり、こちらで出費が多い時は少なくなる月もあります)
  ・妹は就職しておりますが、海外に在住しており日本で住民登録されておらず、日本での所得はありません。外国通貨での仕送りも現在はなしです。

2.転職前の某銀行健康保険組合から被扶養者の調査がなされていたと思いますが、そのときの添付書類等はどのようなものを出されていましたか。また、特別に要求された書類等はありましたか。

  ・被扶養者異動届
  ・前年度の確定申告書のコピー
  ・母の非課税証明
  ・仕送りの記録(通帳のコピー)
 のみだったと思います。

3.転職後の某総合健康保険組合からご両親の被扶養認定が認められなかったとのことですが、最初に健康保険組合から被扶養認定の否認を受けた状況をご説明ください。
  (電話で提出書類を確認した、被扶養者異動届けを提出したら否認を受けた等の状況を)
 
 最初に提出を依頼された書類は上記と同じだったはずです。

 TOG Japanという弊社が人事関連業務を委託している会社を通し不認定の連絡を受けました。

 前の会社では認定されており、状況が全く変わっていないのに。。。と告げると組合によって判断基準は色々なのでとTOGから言われました。

 納得がいかないので東証の担当者の連絡先をいただき、不認定の理由を詳しく説明していただけるよう依頼したが、「自営業は国民保険しか加入できない」(注1)とだけ説明されました。

 厚生省、社会保険庁、社労士さんのページで色々調べて、自営業だからというのは理由にならないのではないかと再度東証に連絡するが、収入が500万あるので認められないと説明が少し変化しました。(この際に、もし年間所得が30万しかないなら、どうやって生活しているのですかと鼻で笑うように失礼なことを言われました)後日TOGを通して、東証がこれ以上連絡しないでと言っていると言われました。

 一度は諦めようと思ったのですが、どうしても納得できず(不認定になったという事実ではなく東証の対応が)再度厚生省、社会保険庁、社労士さんのページで調べ、色々な見方やケースがあるようですが、一般的には収入-経費=所得と見なされると言われてるのを知り、再度TOGに東証に連絡していただく。

 それでも東証は認定を認めないと言うので、では「収入とは」と東証が定めている定義を書面で見せてほしいと依頼しました。でも、そのようなものはないと断れました。(TOGからは簡単にメールで説明をいただくが、きちんとした説明になっているとは思えなかった)

 社会保険事務所(日本橋)に行き、意見を求めると組合によって違うから・・・と言葉を濁されました。ただ、Hotline(注2)に電話してみたらどうかと番号をいただく。

 そこで、組合調整係の方がとても親切で、組合によって判断基準が違うが、今回の場合は認められるべきだと思うのでと、東証に連絡をしてくださる。
 ここ時点で、東証の中でやっと上席の方にこの話が持っていかれたようです。

 2,3日後に、組合調整係の方から私が以前にFaxで問い合わせをした関東信越厚生局(注3)の方が動いているので、この先は、関東信越厚生局に任すことになったと連絡をいただく。

 更に1週間ほど後にTOGより再度書類を提出してほしいと依頼がある。
 (以前のものは返却されていたため)

 追加資料として扶養を始めたのは去年からにもかかわらず、前年度だけではなく3年間さかのぼった確定申告書のコピーを始め、お店の住所、規模、妹の就職先、私たち家族が15年ほど海外で生活していたことに関しての詳細等、隠すことは何もないので全て回答しましたがプライベートな情報を聞かれました。(注4)

4.健康保険組合では、被扶養者認定を明確にするため、それぞれ独自の被扶養認定基準(注5)を定めていますが、その認定基準は会社に置いてありますか?また、健康保険組合にその開示また否認理由を文書で請求されましたか。

 会社の規模が大きく人事はTOGに全てを任せていると思われ、はっきりとはわかりませんが、多分東証の健保のしおりは1部人事にあるのではないでしょうか。
 不認定の理由と定義の開示を依頼した際は、東証のしおりやHPに載っている内容と同じ被扶養者についての簡単な説明をTOGからメールでいただきました。

5.某総合健康保険組合からは明確な説明また扶養認定基準も示されず、門前払いされたことになりますが、最終的には、関東信越厚生局からの指導により被扶養認定されましたが、その経緯について説明していただけますか?
  (最初に社会保険事務局に持ち込まれたと思いますが、@事務局はすぐに健保組合に対して対応してくれましたか?A健保組合とのやり取りの経過をどのように説明してくれましたか。B最終的に厚生局に持ち込まれた経緯にはどのような事情がありましたか。C被扶養者異動届は健保組合に提出されましたか。提出されたのであればどの時点でしたか。D健保組合が否認決定通知書を出しましたか。この当りの経過を詳しく時系列でお願いします。

 経緯につきましては、3でご説明させていただいたとおりです。
 社会保険事務局について。  
@ 日本橋の方も対応が悪いというのでは全くなく、ただ、(詳しいことは忘れてしまったのですが)2種類の社会保険(注6)があり、国と関わっているところならば、なんとか連絡してあげれるのだけど、組合だからどうも助けてあげれない、でも、HOTLINEに連絡したら?と親切だった。
   HOTLINEの組合調整係の方も大変親切で親身になってくださいました。

A 健保とのやり取りに関しては、だれだれさんと今こういうことを話したのでときちんと連絡をくださいました。ただ、結果については、その後すぐに関東信越厚生局のケアーとなったので、調整係の方からは連絡はいただいていません。

B 関東信越厚生局には、初めのころに小松さんへ送ったメールと同じような内容をFaxしておりました。全く返事がなかったのですが、動いてくださっていたようで、後々に今回の社会保険事務局へ出された問い合わせのものと同じものだと判明したようで、厚生局が対応してくださることになったようです。

C 一番初めの(入社時)提出書類に含め提出しました。

D 健保からは否認決定通知書(注7)もいただきませんしたし、何も連絡はありませんでした。(TOGもからもなし)


6.健保組合から被扶養者認定された時、組合から何か言われましたか。また被扶養認定基準の制定等の動きがでてきましたか?

 最終的に認定された時も組合からは何も連絡がなく、TOGより、認定がおりたので保険証を明日送ると連絡をいただいただけです。業者を通しているので直接連絡がないことは納得できたとしても、なぜ最初は不認定で、何をもって認定と改めて判断されたのか、また、時間がかかりすぎた(入社より2ヶ月ほど、その間両親はどこの健保にも加入していなかった)ことの説明をいただけたらよかったと思う。

7.今回の被扶養者認定を巡って、健保組合や行政官庁の対応等について感じられたこと、又同じような経験をされている方も多いと思いますが、何かアドバイスなどあればお聞かせください。

 今回の件で、一番感じたのは、なぜ国として被扶養者認定の基準(注5)を設定しないのだろうということです。ある程度は決まっているようですが、組合に判断基準を任せてしまっているから、このようなことが起こり、一度別の健保で認定されていた場合、条件は変わらないのに会社を変わったために不認定になるのは誰でも納得がいかないのではないのではと思いました。それでも多くの人が諦めてしまうように思います。
 私も一度は諦めようと思ったのですが、小松さんを初め多くの方に励ましていただきがんばることができました。そして社会保険庁の方々に対しても、最初は不信感を持って接していたのですが、とてもいい方たちで安心しました。

(注1) 「国民健康保険と健康保険の違いを聞かれたとき、自営業者やサラリ−マンが退職後加入するのが国民健康保険で、サラリ−マンが加入するのが健康保険」とよく説明されますが、これは知識の無い人向けの大雑把な説明ですが、今問題となっている状況下でこのような説明をされるのは???となってしまいます。ましてや、健保組合の担当者が被扶養者の認定を否認するための説明としてはあまりにもお粗末です。
(注2) 「日本橋の社会保険事務局からいただいたのは、「社会保険事務局 03-5322-1603(代表)」と記載された紙で、そこに電話をし「健康保険組合の事業所の扶養認定についての問い合わせ」と言ってくださいとのことでした。 それでお話をしたのが組合調整係の男性で、その方から後日「関東信越厚生局のMさん 048-740-0774」が動いてくれているので、もう少し待っててと言われました。」
(注3) 厚生労働省の出先機関として全国に7つの地方厚生労働局と一つの地方厚生労働支局が置かれています。また、社会保険庁の下には、各県に社会保険事務局そしてその下に社会保険事務所があります。
(注4) 被扶養者認定時の収入要件は、申請時点より前の収入は一切対象になりません。将来に向ってしの収入がどうかを見て生きます。しかし、自営されている場合には前年度の収入状況調査は必要となるため課税証明の提出は理解できても、それ以外のプライバシ−に関する事項がなぜ必要であるのか理解できません。
(注5) 被扶養者の認定が保険者によって異なっていることに対して、厚生労働省は「収入がある者についての被扶養者の認定について」(平成52年4月6日保発第9号)という取り扱い基準を出しています。これによると、原則として同居の場合、被扶養者の収入が130万未満(60歳以上のものまた一定の障害者は180万円未満)でかつ被保険者の収入の二分の一未満の者、また別居している場合には、前段の収入要件は変わりませんが、原則として被扶養者の収入が、「被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には」被扶養者として認めることとされています。国民健康保険と社会保険事務所が窓口になっている政府管掌健康保険はこの基準によって被扶養者の認定を行っていますが、健康保険組合の一部は、厚生労働省の指導より厳しい独自の被扶養者認定基準を定めているところもあります。
(注6) 健康保険には、公務員等の共済保険を除けば、国民健康保険法に基づくものと健康保険法に基づくものとがあります。国民健康保険法に基づくものには、各市町村が保険者になるものと医師会・歯科医師会などの同業者がつくっている国保組合とがあります。 また、健康保険法に基づくものとしては、国が保険者となり社会保険庁が運営している政府管掌健康保険と大企業や同業者が集まって運営している健康保険組合とがあります。「2種類の社会保険」とはこれを指しています。健康保険組合では、法律で定められた給付に加えて独自に附加給付をおこなっているため保険給付の内容も厚く、またろいろな保険事業を行っています。会社の福利厚生の一環として捉えることが出来るといえます。
(注7) 今回の被扶養者認定申請や傷病手当金等の保険給付の申請は指定の用紙に添付書類等を添えておこないますが、今回のように否認されることも少なくないといえます。否認の決定に不服があれば、社会保険審査官に、この決定にも不服があれば社会保険審査会に再審査請求が出来ることになっています。この不服申請を行うためには、保険者から否認されたという決定通知書が必要となります。支給できないとして申請書類が返却されれば、門前払い、すなわち申請自体なかったことになってしまい、保険給付に対する支給また不支給の決定の俎上にも上がらなかったことになり再審査請求が出来ないことになってしまいます。




健保組合からのコメント
健康保険組合の立場からの被扶養認定についてのコメント

H健康保険組合 事務長 原田 明

   今回のレポートを拝読し、同業者(他の健保組合関係者)の一人として、決して対岸の火事ではないとあらためて自省するところです。
 最大の問題点は、健保組合側が説明義務を十分果たさず、自らのルール(基準)を被保険者(組合員)に押し付けたままで済まそうとしたことでしょう。被扶養者として認定しないと判断し、それを押し通すときは、保険者側も、それなりの「覚悟」で被保険者(組合員)に「納得」していただく最大限の努力をすることが不可欠であり、それが責務ともいえます。

 このことを前提に、自営業の方の被扶養者認定について、健康保険組合側の考え方を少し説明させていただきたいと思います。

 売り上げが500万円で所得が30万円弱とのこと。まず470万円の経費の内容はどうなのかを検討してみることになります。このとき税法上の経費と被扶養者認定上の経費を同一としていない組合も多くあるのではないでしょうか。
 実際の金銭の動きとは連動しない減価償却費、店舗と住まいが一緒である場合は水高熱費、通信費等の区分はっきりしない、高級什器を必要経費で落とすなど、あくまでも一般論ですが、税法上の経費は自営業者に「甘い」(給与所得者に比し、所得を低くするための操作をしやすい)、また、その生活実態を正確に反映しえない状況が少なからず存在すると思われるからです。
 注5でご案内の「収入がある者についての被扶養者の認定について」(平成52年4月6日保発第9号)の中では、被扶養者の収入が130万未満(60歳以上のものまた一定の障害者は180万円未満)等の条件にあれば被扶養者として認めることとありますが、同時に、同通知の3には『上記1.及び2により被扶養者の認定をおこなうことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ社会通念上妥当性を欠くことになると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること。』とあり、年収基準額だけが被扶養者認定の金科玉条の条件とはなっていないのです。
 あくまでも一般的な事例ですが、年収131万円のパート就労の方を被扶養者として認定できない実情に比し、税法上の経費で落とした高級乗用車に乗り、アルバイトも雇って人件費を支払う自営業の方を、経費がかさみ、所得が少ないという一律な収入要件のみによって、被扶養者に認定するということは、社会的、常識的にみて妥当なのだろうかとの判断も健康保険組合(保険者)には求められているといえます。

 被扶養者として認定されるまでの、健康保険組合の不誠実と思われる対応にめげず、ご自分の正当な権利を守られた匿名様のがんばりにあらためて敬意を表しますとともに、健康保険組合の被扶養者認定の原則的な考え方の一端ですが紹介させていただきました。
 なお、申すまでもありませんが、これはあくまでも私見でありますことをどうぞご承知おきください。