研修生・実習生の残業代問題

 

労働審判:未払い残業代176万円求め、中国人実習生ら申し立て /熊本


 外国人研修・技能実習制度を利用して来日した中国人実習生ら5人が5日、勤務先の「九州条鋼加工」(北九州市八幡西区)の甲佐町の工場に、最低賃金との差額に当たる未払いの残業代計約176万円を求める労働審判を熊本地裁に申し立てた。代理人によると、実習生らによる労働審判の申し立ては県内で初めてという。  申立書によると、5人は07年6〜11月に研修生として来日。同社は制度上必要な研修を実施せず、時給500円で換算した残業代は支払うことを約束したものの、最低賃金による支払いは拒否したという。技能実習を終え帰国した2人には時給500円で換算した残業代を既に支払ったとされる。同社は「申立書を見ていないのでコメントできない」としている。

【澤本麻里子】 毎日新聞 2010年8月10日 地方版

 インターネットで検索しているとこの記事が目に付きましたので最近発生した問題と絡めて見ていきます。この記事で大きな問題は最低賃金を下回る500円/時で残業代を支払ってはいたが最低賃金との差額精算を拒否したため労働審判に至った事件です。労働審判は費用も安く、自分ひとりでも申立て可能で、決定された事項には拘束力があり、大いに活用すべき制度だといえます。「えくれしあ第85号」に実際に経験したものを掲載していますのでこちらを参考にしてください。(小松社労士事務所で検索してHPを参照ください。)

 「時給500円で換算した残業代は支払うことを約束したものの、最低賃金による支払いは拒否した」の部分については労働法に特別の知識を持っていない人でも明らかな誤りであり、何故会社は差額支給を拒否したのか理解に苦しむと思います。この会社が頑なに清算を拒否した理由は協同組合(第一次受入機関)の指導にあったのかもしれません。7月の始めごろ強制帰国から逃げてきた実習生を保護したとき、協同組合との折衝の中で、責任者より「研修生に残業をさせることは出来ないが、研修生から「残業をやらせてもらいたい」との申し出があるから止むを得ず働かせている。当然労働者には該当せず最低賃金が適用されないため本人達の了解を得て時間500円を支払っている。会社が指示してやらせているのではない。」ということを発言していました。協同組合のこのような指導を真に受けた結果ではないかと考えたくなります。しかしこの発言をした協同組合はまともに計算した残業代を支払ってきました。会社が支払ったのか協同組合が支払ったのかはわかりませんが・・・。ただ、「研修生からの残業の申し出」ついて実習生に質したところ事実と違っており、「会社から残業をしたいかどうか?」と聞かれたとの事でした。協同組合は違法であることを知っていますからこうした問題が入国管理局の耳に入り、立ち入り調査され、受入停止処分を受けては困るので、直ぐに対応してくるため普通であれば裁判や労働審判に行くことはないはずなので不思議な気がします。

 残業代未払いの問題は日常的に行われているようですが、この記事のように単価が違っているとか残業時間が違っているという問題であって一切支払われていないという例は考えてもいませんでした。しかし先日相談にきた実習生(個人経営の建設会社)の場合がそうでした。ただ、途中で本人達がこの問題を取り下げるといってきたので断念しましたが、取り下げの経過を調べてみると実習生を送り込んでいる協同組合が残業代を支払わなくてもよいと指導しているとしか考えられなくなりました。その理由には二つあります。

(1) 協同組合が実習生たちを脅迫し、未払い残業代の支払請求を取り下げさせた内容から
(2) この協同組合が送込んでいる他の会社数社でも残業代が一切支払われていないことから
 この協同組合は広島市内にあるIIS協同組合です。先の個人経営の建設会社に勤務している2名の実習生の勤務状況と賃金また脅しに屈した経過は次の通りです。

【相談の内容】
@ 労働契約書をもらっていない。
A 賃金支給明細書をもらっていない。
B たまに残業があり、土曜日も仕事をしているのに残業代は一切支払われていない。
C 月給は12万円で家賃、水道光熱費、租税公課で5万円引かれ、毎月7万円現金支給。
D 研修生のときも今と勤務状況は替わらず、残業もあり、土曜も働いたが残業代はない。

 こうした相談に対して、本人達の記録に基づいて未払賃金を計算し、会社に交渉の申し入れをした日の晩にIIS協同組合が本人達のアパートに押しかけ夜中の12時過ぎまで脅しや甘言を弄して私達への依頼を取り下げさせました。

【IIS協同組合の脅しの内容】
@ 残業問題を取り下げなければ他の会社の50人の実習生達を帰国させることになる。
A 9月にはいると会社の仕事が減るため帰国させることになるかもしれない。残業問題を取り下げれば契約期間中は帰国させず、12万円の賃金を補償する。
B その条件としてこれまでの残業代は支払わないこと、そしてこれからの残業代も支払わない代わりに土曜日については月2回休日にする。
C 控除額を1万円減額して4万円とし、手取り額を8万円とする。

 こうした内容での脅し、説得ですが、納得しなければ朝まででも脅し続けたと思われます。翌日1名の実習生は睡眠不足から建設現場での事故を恐れて欠勤しました。この実習生が問題提起し、あと一名はあまり乗り気でなかったようなので集中攻撃されたのでしょう。

 ここで一番問題なのは残業代を一切支払わないことが大前提になっていることです。それと月2回土曜日を休みにするといっても残りの土曜日の勤務は全て週40時間を超過することになり、明らかに労働基準法違反のままです。法律も知らない弱い立場にある実習生を保護しなければならない協同組合がこうした行為に出ることには憤りを感じざるを得ません。

 また、賃金からの控除額を1万円減額するとの裏には国民年金保険料が免除されていることがあります。これまでは国民年金保険料を支払っていないのに本人達から徴収するという詐欺行為を行っていたのに実習生達は善いことをしてくれたと誤解しています。契約期間中は雇用確保するとの説明も「明日帰国するので荷物をまとめるように」と一転しなければ良いのですが・・・。

 これまでは相手の立場も考慮して労働基準監督署や入国管理局には行かずに対応してきていましたが、IIS協同組合が関係した会社を相手にするときは、本人を脅迫し、取下げを強要されては困るので労働基準監督署や入国管理局に報告した上で交渉に入らざるを得ないでしょう。そのため手元にある資料と未払賃金計算書一式を入国管理局に渡し、経過報告をしてきました。

 こうしたあくどい協同組合に対処するため外国人問題に取り組んでいるユニオン等との情報交換の場も必要かと思いますし、研修生たちのネットワークを通じてIIS協同組合が送り込んでいる会社を探し出していく必要があると考えています。