有期労働契約をめぐって


 最近は終身雇用や年功序列賃金といった言葉を聞く事が少なくなり、その代わりに能力や業績にもとづいた賃金形態また、職業経験、職業能力を高めてより評価してもらえる会社への転職といった話がよく聞こえてきます。確かに一部の職種や能力がずば抜けて高い人については転職という形態が増加すると考えられますが、大半の企業では、少数の能力や業績にもとづいた賃金体系の終身雇用制の基幹社員と賃金が低く解雇も容易な形の雇用形態や非正規労働者を中心とした二本立てか三本立ての組み合わせで組織を維持・発展させるという考え方をしていく必要があると考えます。そうした観点から見ると、昨今の非正規労働者に対するさまざまな法整備はこれを助長するための支援のように見えてきます。これからも非正規労働者は増加傾向にあると考えられますので、私が育ってきた高度経済成長期のように賃金損額の旗印とは違って正規労働者の賃金を抑え、非正規労働者の賃金は上げて、一定のバランスを取る必要が企業にとってはあるのではないかと思います。
 昨年、有期労働契約をめぐる法改正がありましたのでこのあたりのことを見ていきます

【労働契約法第17条 契約期間途中での解雇禁止】
 労働基準法第14条は労働契約に期間を定める場合にはその限度を原則3年(特定の業務と満60歳以上は5年)としています。当然その期間の雇用は保証されているはずですが、労基法第20条では30日前までに解雇予告をするか30日分の平均賃金を支払えば即解雇も可能とされています。事業主にとっては良い規定ですが、解雇される側にとってはひどい話です。しかし民法第628条(注1)はこうした場合、残りの期間に対しての損害賠償請求が出来るとしています。
 一方、労働契約法第16条は解雇する必要がある場合には「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と恣意的な解雇は認めていいません。さらに、期間の定めのある労働契約については、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」(労働契約法第17条)とより厳しい定めを置いています。事業の状況に合わせた調節弁として有期雇用を利用するためには契約期間を短くしておけばよいのかというと、労働契約法第17条第2項は「使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。」としています。こうした有期契約の反復更新による弊害を防止するために労働契約法第19条が置かれています。

【労働契約法第19条 反復更新時の雇止め禁止】(注2)
 有期労働契約を反復継続している場合には、期間を定めない契約をしている労働者を解雇する場合と同様の社会通念上同視できると認められる理由が無い場合、また、有期労働契約が更新されることへの期待感を労働者が期待することへの合理的な理由があると認められる場合には、ただ単に契約期間満了といった理由だけでは雇止めすることが出来ず、労働契約法第16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」が適用されるとしています。反復更新の回数は3回以上の契約が該当し、更新への期待感には採用時また常日頃更新する期待を抱かせる話があったり、これまで例外なく全ての人が更新されている場合などが挙げられます。当然こうした場合には、前回と同じ内容での契約更新が事業主には義務付けられています。この条文は一定期間更新してきた場合の雇止めへの歯止めをかけるもので、積極的に期間の無い契約への転換までは問題としていませんでした。平成24年度の改正で有期雇用労働者から請求があった場合には期限の無い契約に変更しなければならないという無期転換ルールが定められました。

【労働契約法第18条 無期転換ルール】
1. 契約を更新して5年を超えることとなった場合、または5年を超えている場合に労働者が期間の定めのない労働契約の申込みを
  したときには次回の契約から期間の無い契約としなければならないとされています。当然、そうした申し入れがなければ期間契
  約を更新していくことになります。
2. 有期契約を更新していても、6か月以上契約の無い時期を置いて次の契約をした場合には、それまでの契約期間は5年間にカ
  ウントしないというクーリング期間が設けられています。以前の契約期間が1年未満の場合には、契約期間の2分の1の期間が
  クーリング期間とされます。下記の表のようになります。これに該当しない空白期間は前後の雇用期間が通算されることになり
  ます。
有期労働契約の契約期間
 空白期間 
 2か月以下
1か月以上
 2か月超〜4か月以下
2か月以上
 4か月超〜6か月以下
3か月以上
 6か月超〜8か月以下
4か月以上
 8か月超〜10か月以下
5か月以上
 10か月超〜1年未満
6か月以上

3. この条文が対象となるのは、平成25年4月1日付以降の有期労働契約であるため平成25年3月31日以前に契約したものは
  次回の契約から5年間をカウントします。
4. この無期転換ルールが導入されたから1年契約を4回更新しての雇止めが可能になったと考えると大きな間違いです。
  第18条 は、労働契約期間が5年を越えて労働者から申し出があれば期間を定めない契約に転換しなければいけません。
  もし申し出がな ければ有期契約を更新していってくださいと言うだけの話です。期間を定めた労働者がかなりな割合を占めてい
  る場合には、これまで通り契約更新は2回までとしておかなければ問題を抱えることになると言うことになります。

【労働契約法第20条 正規職員との労働条件差別の禁止】

 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。


 正規職員と有期労働契約で働く職員との間の労働条件格差は頭の痛い問題であり、一度紛争が起き、訴訟に持ち込まれると損害賠償や慰謝料として多額の補償が必要になります。この条文が設けられたのを機に、正規と非正規職員の勤務形態等を見直し、労働条件格差も「不合理」と認められない程度の格差であると論理立てて説明できるように是正しておく必要があるといえます。

(注1) 民法第628条「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の
   解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対し
   て損害賠償の責任を負う。」
(注2) 「有期労働契約の締結、更新及び雇用に関する基準」によると雇止めによる予告が必要となる場合を次の3つとしています。
   但し、契約期間満了以外の理由でなければいけません。
  @契約が3回以上更新されている場合
  A1年以下の契約期間の有期労働契約が更新または反復更新され、最初に有期労働契約を締結してから継続して通算1年を
   超える場合
  B1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合