職場におけるうつ病のことなど


  厚生労働省から平成17年度の「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況」が5月に発表されました。過去に遡ったデ−タも含めて末尾に掲載していますが、脳血管疾患と精神疾患等が過去最高となっています。精神疾患による欠勤の問題には仕事上でも遭遇しますし、うつ病での傷病手当金が増えているとの話も聴きます。傷病手当金に関する疾病統計がありませんので実際の推移はつかめませんが、今回発表された労災補償状況と同じような傾向を示すもの考えられますので、このデ−タからこのあたりのことを見てみたいと思います。
下記の表−1と表-2を見ていただくと平成10年度から平成17年度にかけて請求件数・認定件数ともに大きく伸びてきている状況がよく分かります。
表-1で見られるように、平成10年度の認定件数のうち75%が自殺によるものでしたが、平成17年度には自殺によるものが30%に低下しています。というか、従来は、精神疾患等では認められておらず、認められるにしても自殺中心といってもいい状況が、平成11年に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」が出されたことにより、精神疾患等に対する労災補償認定への道筋がつけられた結果ぞくぞくと表に現れてきたといった方が良いといえます。
表-2は過労死の代表的疾患ともいえる脳血管疾患と虚血性心疾患に関するものです。平成17年度には請求ベ−スでは精神障害が脳血管疾患を超えてしまっています。認定ベ−スでは、平成10年度に対して、平成17年度は、脳血管疾患が4.5倍、精神疾患が31.7倍となっています。まだまだ精神障害への請求・認定ともに増加していくものと考えられます。
また、平成17年度の認定件数に対する死亡者(自殺者)の割合を見ると精神疾患では33%、脳血管疾患と虚血性心疾患では47%となり、背筋が寒くなる思いがします。
こうした状況はまだまだ氷山の一角かもしれません。労働の現場もさることながら、社会全体で見ても自殺者が年々増えてきていることから、6月には「自殺対策基本法」が公布されました。この第5条で事業主の責務として、「事業主は、国及び地方公共団体が実施する自殺対策に協力するとともに、その雇用する労働者の心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」とされています。上記の様な労働の現場における状況を考慮しているからでしょうか。
こうした精神疾患、脳・心臓疾患による休業が、傷病手当金についても、労災保険認定と同様の傾向を示していると類推すれば、将来的には会社にとっても健康保険にとっても大きな問題があると言えます。会社にとっては、賃金費用は発生しないものの法定福利費は負担しなければいけませんし、他の労働者の業務量が増える結果、時間外手当、休日出勤手当、深夜労働手当などの費用が発生します。また、本人の代替が難しければ売上の減少また顧客の離散といった損害が発生します。健康保険にとっては、医療費や傷病手当金など財政上の問題が発生します。傷病手当金を1年6か月まるまる支給するとなれば、傷病手当金は、賃金40万円の人であれば、40万円×0.6×18ヶ月=432万円、健康保険組合で付加給付があればさらに40万円×0.2×18ヶ月=144万円、合計576万円の支出となります。医療費は??これに対する予防のための費用を考えると、精神疾患に対しては病気に対する管理職等への教育費と保健士さんによる指導費用程度でしょう。一方、脳血管疾患については、脳ドックを実施すれば、費用が一人35千円程度として、576万円÷35千円=164人の脳ドック費用と傷病手当金・附加金の額が等しくなります。脳ドックをしたからといって防止できるともかぎりませんが・・。しかし、会社が何の対応策も取らず、会社の体面上から労災申請もせず、家族が労災認定申請するとなれば労働契約義務違反として事業主に損害賠償請求が降りかかってくる可能性は大きいのではないでしょうか。

  過労死関連のことに関心がある方は下記のHPと本が参考になります。
  1.大阪過労死問題連絡会のホ−ムペ−ジにはいろいろな事例・法令・通達等が紹介されています。
   http://homepage2.nifty.com/karousirenrakukai/
  2.「過労自殺と企業の責任」 川人博 著  旬報社  1600円

(精神疾患等の労災補償状況)表−1
区 分 / 年 度H10H11H12H13H14H15H16H17
精神障害等請求件数42155212265341447524656
認定件数143670100108130127
うち自殺
(未遂を含む)
請求件数299310092112122121147
認定件数11193143404542

(脳血管疾患及び虚血性心疾患等(「過労死」等事案)の労災補償状況)表−2
区 分 / 年 度H10H11H12H13H14H15H16H17
脳血管疾患請求件数309316448452541486541608
認定件数47494896202193174210
虚血性心疾患請求件数157177169238278256275261
認定件数43323747115121120120
合 計請求件数466493617690819742816869
認定件数908185143317314294330
うち死亡請求件数484558160158150157

性別自殺死亡者数・自殺死亡率(人口10万対)の年次推移表−3
S30S35S40S45S50S55S60H2H7H12H15
 13,836 11,506 8,330 8,761 11,744 12,769 15,356 12,316 14,231 21,656 23,396
8,6418,6376,1146,9678,2317,7738,0277,7727,1898,5958,713
 22,47720,14314,44415,72819,97520,54223,38320,08821,42030,25132,109
25.221.614.715.318.017.719.416.417.224.125.5