通勤災害が認められる通勤経路は?

 

   前回、通勤災害の適用範囲が4月から拡大したことについて報告しましたが、最近、通勤経路のことで、「会社に届け出ている通勤経路以外では通勤災害とは認められない。」という話を最近数名の方が話されるのを聞きましたので、この辺りのことに触れてみたいと思います。
 結論から言うと「原則としては誤りです。」となります。こうした誤った常識となっているものが沢山あるといえます。例えば、「交通事故の治療は健康保険ではできない。」(第4号、第27号)、「管理職には一切時間外手当を払わなくてよい。」(第3号、第31号)、「試用期間中はいつでも解雇できる。」(第1号)など。誤った理解を事務担当者がしていれば迷惑を被るのはその人だけに止まらず職員全体に不利益が及ぶことになります。第10号に掲載した肝硬変で障害年金がもらえた例などその最たるものではないでしょうか。
 では、通勤災害が見取られる経路の問題を見ていきます。前号では4月改正前の条文を参考にしましたので今回は新しい条文でみていきます。


  第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
A 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
(略)
B 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
(施行規則)
(日常生活上必要な行為)
第八条 法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。
一 日用品の購入その他これに準ずる行為
二 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十五条の六第三項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む。)、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
三 選挙権の行使その他これに準ずる行為
四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為


 通勤災害と認められるためには、「就業に関し、次に掲げる移動」と明記されているように、仕事をしている時間ではなく、仕事に付随する前後の時間帯、要するに自宅と会社の間を往復するものでなければなりません。お昼ごはんを自宅に帰って食べている人は1日に2往復の通勤があることになります。会社に出る前に客先に書類を届ける場合には「業務の性質を有するものを除く」に抵触してしまい通勤とはみなされませんので事故に遭っても通勤災害ではなく労働災害として扱われることになります。ならば時間外手当の対象となるのでしょうか??。会社との往復とはいっても「所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合には、当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられるので、就業とは関係ないと認められる。」との通達があります。資格取得の勉強でもしようという目的を持って会社に早く行っているのでは通勤とは認められないことになります。新しい部署ということもあったと思いますが8時半始業なのに毎日7時前には出社して仕事をしていた先輩がいました。この方が出勤途中路地から飛び出してきたトラックには跳ねられ脳挫傷で脳死の状態になりました。始業時間とかけ離れた時間の出勤ということで就業との関連性が問題になったと聞いています。
 本題の通勤経路の問題ですが、条文では「合理的な経路及び方法」と記載されているように「あらかじめ登録された経路及び方法」とはされてはいませんので、会社に届出ている経路や方法以外のものは認定されないというものではありません。こうした通勤に関する届けは通勤手当を支給するため、また通勤方法を確認するためのものであって通勤災害か否かを判定する意味合いは全くありません。合理的な経路の解釈について通達をみると「乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。また、タクシ−等を利用する場合に通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。(略) 他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。」とされています。また、別な通達では、マイカ−通勤者が自分の会社の450m先にある妻の会社まで妻を送るのは合理的な方法とされていますが、これが1.5km先となると往復3kmとなり合理的な経路とは認められないとしています。どの程度までが合理的な経路とされるかは、実際に問題が発生してから経路・迂回等の理由を詳細に調査したうえで監督署の判断を仰がざるを得ないといえます。
 最後に、通勤経路の逸脱と通勤の中断についてみておきます。私たちが通勤する場合、特に、退勤時には病院に寄ったり、本屋さんに寄ったり、マ−ケットでの買物ために通勤経路を外れたり、通勤経路を外れないが、通勤を一時中断することは日常茶飯事といえます。「こうした日常生活を送る上で必要な行為を行うための通勤経路の逸脱は認めましょう、しかし買物をしている時間は就業に付随する通勤とは関係ないため買物が済んで、店を出て帰宅の途についたときからまた通勤が始まったことにしましょう。」というのが逸脱・中断として規定されている内容になります。これはあくまでも「日常生活上必要な行為」と限定されていますので、デパ−トの地下の買物に止まらず全館見て廻ったとなるとデパ−トに入った時点、悪くすれば会社を出たところから通勤ではないとみなされてしまうことになってしまいます。資格取得のため学校に通っているのであれば授業終了後遅滞なく学校を出ればその時点から通勤に復帰したと認められることになります。「どの程度であれば、逸脱・中断として認められるのか。」とは聞かれても回答できませんので、詳細に調査した上、監督署の判断を仰いでくださいとしか答えようがありません。