労災保険には特別加入制度があります。
  〜 建設業の一人親方と中小事業主の場合



   最近、建設現場で一人親方が被災した。労災保険の適用はどのようになるのかとの問い合わせがありました。これに先立って半年ほど前には、従業員を2〜3人使用する有限会社の社長さんが同じように建設現場で大怪我をしたが・・との話がありました。どちらも墜落事故で再起不能の状態です。こうなるとたちまち医療費はどうなるのか、今後の生活はどうなるのかという問題が発生ます。労災保険の適用を受けられれば医療費、休業補償また障害年金も給付されますので問題はありませんが、お二人とも労災保険の適用は受けられませんでした。労災保険が対象としているのは労働者であって、個人事業主や会社の役員は対象としていないから当然のことといってはそれまでですが、労災保険法はこうした人に対しても特別加入という制度を設けています。この制度に沿って特別加入していればよかったのですが、残念ながらお二人とも加入されていなかった。注意すれば事故は起こさないと考えておられたのだろうと思います。私もそうですが、労災事故にしても、交通事故にしても大半の人は「自分は事故を起こさない」と思っているでしょう。しかし、車の任意保険には加入されているはずです。車の場合は相手がいますから「万一の場合に備えて」という気持ちがあるためでしょう。ではなぜ労災保険加入されないのでしょうか。わずかな保険料をケチるため?自分のことだから怪我をしても仕方が無い・・?だけどもし植物人間になってしまったら家族は路頭に迷わざるを得ないのではないでしょうか。働く人全てを年金や健康保険と同様に労災保険も強制加入にすべきでしょうが「個人経営の事業主また中小法人の役員は入りたければ入れ、大企業の役員は一切加入させない」としている労災保険に問題が無いともいえないと思います。
 前置きは止めて、建設業の労災保険と一人親方また中小事業主の特別加入についてみていきます。
 まず、
建設会社では、現場に出ない事務、営業等の職員に対する労災保険、一定規模以上の現場ごとにかける労災保険(注1)そしてそれ以外の小さな現場を一括する労災保険(注2)と三通りの労災保険に加入します。労災保険は適用事業所全てが加入することになっていますが、建設現場では元請・下請・孫請・・と重層的な形態をとっているため元請が一括して加入するように定められています。要するに、下請は労災保険への加入手続きをとらなくても元請の労災保険の適用が受けられます。しかし、前段で触れたように下請等の従業員は対象になっても一人親方、中小事業主やその役員は当然除外されています。蛇足ですが、下請は一切労災保険に加入する必要がないかといえば、そうではなく、自分が元請になればその現場については自らが労災保険に加入しなければなりません。
 次に、労災保険に特別加入できるのは、@中小企業の事業主等、A従業員を使用しない一人親方、B海外派遣者です。海外派遣者以外は労働基準監督署に直接手続きをするのではなく労働保険事務組合に加入し、そこに手続きをしてもらうことになります。お医者さんであれば医師会が設けている労働保険事務組合を通じて加入することができます。診療所まで通勤したり、往診等診療所外での活動が多ければ加入も必要かもしれません。また、商工会なども労働保険事務組合を持っていますし、社労士を通じて加入も出来ます。
 特別加入する場合には、事故が起きたときの給付の基礎となる日額を3500円から2万円までの間の定められた額を選ぶことにより保険料の額(保険料率は業種等により異なる)も給付の額も決まります。特別加入した場合としなかった場合を下記の表にまとめていますので参考にしてください。
 最初に触れた有限会社の社長さんの場合は、幸いに糖尿病の持病がありこの発作での事故すなわち私傷病として処理されたため、傷病手当金が1年6ヶ月給付されています。この例のように業務中に発生した事故であっても仕事以外の原因であれば労災保険の対象にはなりません。特別加入していない時の労災事故の場合、個人事業主であれば当然に国民健康保険から医療費が給付されますが、法人の役員は社会保険ですから、業務上の事故に対する給付は一切ありません。しかし、平成15年7月1日以降は、通達により5人未満の従業員を使用する法人事業主には医療費のみ給付されるようになりました。5人以上の従業員がいればダメですが・・。

建設業で労災保険に特別加入の有無の比較 (給付基礎日額1万円で加入の場合)
労災保険に
加 入
している場合
労災保険に加入していない場合
一人親方
中小事業主(注3)
従業員5人未満
従業員5人以上
医療費
全額労災保険
3割自己負担(健康保険使用可能) (注4)
全額自己負担
休業補償
6000円×日数
なし
後遺障害
1 級
年 金 3,130,000円
一時金 3,420,000円
国民年金 993,125円
国民年金
993,125円
個人事業主 国民年金 993,125円
法人役員  国民年金+厚生年金
特別加入した場合の労災保険料
年間 73,000円
年間 62,050円(新設工事)
(注1)建設業では工事現場を一つの事業とみなしそれぞれの現場ごとに労災保険加入を原則としています。小さな現場もそのようにすると事務手続きが煩雑になるため、請負金額1億9千万円以上または概算保険料が160万円以上の現場についてのみ現場ごとに労災保険に加入することになっています。
(注2)請負金額1億9千万円未満かつ概算保険料が160万円未満の現場は有期事業であっても一括して労災保険に加入します。4月から翌年の3月までの見込みの労災保険料を概算払いし、年度終了後に確定保険料を計算して精算します。一般の事業と同じような手続きです。
(注3)健康保険法は「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産」とあるように業務上の事故は対象としていませんが、平成15年7月1日以降、通達によって5人未満の小規模法人の役員については医療費のみ保険給付することになりました (傷病手当金は支給されません。) 。ちなみに国民健康保険は「被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行う」となっており、業務上の疾病も対象となっています。
(注4)高額療養費の制度があるため自己負担は多くても「139,800円+(医療費−466,000円)×1%」となりますが、一旦は支払い後日請求しますが、無利息の高額療養費貸付金制度があり、高額療養費見込み額の80%を狩り猫とも出来ます。