給与からの天引きについて



違法な給与天引き新日本を書類送検  大阪労働局

 派遣労働者に一部前払いした給与が未回収になった場合、社員の給与から違法に差し引いたなどとして、大阪労働局は22日、人材派遣会社「新日本」(大阪市北区)を労働基準法違反(賃金の違法控除、割増賃金不払いなど)などの疑いで大阪地検に書類送検した。
 発表では、同社は2012年1月〜13年1月、社員5人の給与から、16回、計約35万円を違法に差し引いた疑い。同社では、派遣労働者が給与の前払い分を受け取ったまま連絡が取れなくなった場合などに、管理担当の社員の給与から引く仕組みを設けていたという。
 社長(65)についても労働基準法違反の疑いで書類送検した。

(読売新聞 H25.5.23)

 賃金が現金で支給されていたころには、賃金袋の中に賃金支給明細書が入れてありました。銀行振り込みになってからは、賃金支給日に賃金明細書だけ渡されているはずです。私自身、若いころは賃金支給明細書を見ることもなく捨ててしまっていましたが、労働問題に関係するようになると、労働契約書、賃金支給明細書と稼働時間を記録したものがあるかとまず確認します。この三つがなければどのように賃金が計算されたのか分かりません。特に稼働時間の記録がなければ未払い賃金があるのかどうかの把握が難しくなります。幾ら賃金を貰ったかについての関心はあっても、これら3つのことに関心のある人は少ないと思いますし、ましてや賃金の仕組みについて理解している人はごく少数ではないでしょうか。この新聞記事をみると割増賃金要するに残業代の未払と賃金からの違法な控除が問題となっており、その責任を追及されたのは会社と社長であることが分かります。この辺りのことを中心として賃金に関係する法律をみていきます。

【賃金支払いの5原則】
 労働基準法は第3章第24条〜第28条で賃金に関することを定めています。このうち第24条で賃金の支払いに関して次の5つの原則を定めています。@通貨で支払うこと、A直接労働者に支払うこと、B全額を支払うこと、C毎月1回以上支払うこと、D一定の定められた期日に支払うこと、の5つです。これを平たく言うと、会社の景気が悪いからと言って製品で支払うことはできず、原則家族に支払うこともだめで直接本人に支払わなければならないが、本人の承諾があれば本人の銀行口座への振込みは認められています。資金繰りを理由とした分割払いもダメ、月1回は支払う必要があります。年俸の場合であっても12分の1の支払いが必要となります。また支払う日は確定しておかなければいけません。要するに少なくとも1か月単位での生計が成り立つようにとの配慮といえます。そのためサラ金等で賃金の差し押さえ通知が来た場合であっても全額の差し押さえは出来ず、支給額に応じた一定の割合に限られています。

【賃金からの控除】
 「全額を支払うこと」の例外として、源泉所得税や社会保険料のようにそれぞれの法律で賃金からの控除が定められているものと労使間で賃金から控除すると書面(労使協定)を交わしているものについては控除が認められています。ここの記事で問題となっている「給与から違法に差し引いた」とはこのことを指しています。法令以外のものとして賃金から控除する項目についての労使協定がなかったか、此処で問題となっている控除項目の記載がなかったということを指しています。この労使協定の無い会社は少なくないのではないでしょうか。
 ただ別の社員に対する前払い金が回収できないからと言って管理している社員に支払わせること自体問題があります。会社の規定として回収不能も予見できるのに前払いを認めていながら管理不十分として懲戒規定に基づいての懲戒としての引き去りも無理難題といえます。

【賃金支給明細書と賃金台帳】
 賃金支給明細書は会社によって千差万別で、稼働時間や日数を始め事細かく記載されたものから市販の簡単な様式まであります。労働基準法には賃金支給明細書を交付するようにとの規定はないので渡さなくても構わないのですが、所得税法には所得税が計算できる資料を渡すようにとの記載があるため、市販の簡単なものでも構わないことになります。ただ労働基準法の第54条は賃金台帳への記載が義務付けられています。これに記載する内容として、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数、基本給や諸手当の額そして賃金から控除した額などの記載が義務付けられているためデータとしては記録しておく必要があることからこれらの内容を記載した賃金支給明細書が渡されるのが普通です。

【割増賃金】
 これは残業代の話になります。ご存知のように法定労働時間(8時間/日)を超えた時間については25%の上乗せが、深夜時間帯(22時〜5時)に労働した場合には25%の上乗せが、そして法定休日(週1回普通は日曜日)に労働した場合には35%を上乗せした賃金の支払が必要になります。深夜時間帯については残業には関係なくこの時間帯に働けば無条件でプラスされるものなので、アルバイトのチラシなどを見てもこの時間帯は時間単価がその分高くなっています。管理職であってもこの時間帯に働けば25%の割増賃金部分の支払いが必要となります。所定労働時間7時間の場合の残業を法律通りに考えると、法定労働時間8時間までの部分の残業代は1時間の基本単価となり、後の1時間分は「1時間の基本単価+(1時間の基本単価×0.25)」となります。ここで割増賃金不払いとされているのは25%の部分のことで当然賃金の不払いもあります。罰則を見ると割増賃金不払いは6か月の懲役又は30万円以下の罰金で賃金不払いは30万円以下の罰金となっています。

【会社と社長を送検=両罰規定】
 この記事を見ると会社と社長がそれぞれ書類送検されたとあります。労働基準法第121条には「この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。」と規定されています。労働基準法は、実際に労働基準法に違反して命令を下した者と事業主の両者に対して罰則を科すように定めています。この会社は、株式会社として法律的に人間同様に権利能力を与えられた組織=法人なので、事業主=法人と違反を行った使用者である社長を含めた役職員を検察庁に書類送検しています。傷害事件と同じで、警察が検察庁に書類送検し、検察庁が必要と認めれば裁判所に訴え、懲役ないし罰金を科すといった流れとなります。