技能実習生と労働基準法第41条の「適用除外」との関係



 平成24年10月18日に外国人技能実習生を支援する会の主催で、技能実習生を巡る二つの裁判の報告集会が開催されました。解雇と残業代未払に関する報告ですが、このうち一件は牡蠣養殖の会社で働く中国人技能実習生の問題でした。この会社での問題は少し違った側面があります。それは労働基準法が農林水産事業については労働時間等の規制を適用していないことです。当然相手方はこの労働基準法第41条の適用除外の規定に従って当該中国人技能実習生の残業代等の支払い義務はないとの立場をとっています。これに関して担当の藤井弁護士は入国管理局の「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」によって適用除外は認められないと説明されていました。広島県には牡蠣打ちや畜産業で技能実習生が多数働いているためこの問題に対する考え方をはっきりさせておかなければ、その都度、頭を悩ませることになりかねませんので、技能実習生と適用除外の関係をどのように理解すればよいか検討してみます。

 この問題を考えるとき参考となる文書に次の四つのものがあります。

(1) 「技能実習生の労働条件の確保について」
    (平成22年2月8日 基発0208第2号 都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
(2) 「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」
    (平成12年3月農林水産省農村振興局地域振興課)
(3) 「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」
    (平成21年12月 法務省入国管理局)
(4) JITCOのHPでの説明文

 この中で、(1)と(2)は明確に労働基準法第41条の適用があることを明言したうえでなお書きが付加されており、あとの二つ(3)と(4)は適用除外について全く触れていないという違いがあります。技能実習生は労働者として扱われるため全面的に労働基準法の適用を受け条文通りに扱うのが原則となるため当然のことといえます。従って、労働基準監督署に「農林水産業に従事する技能実習生は適用除外に該当するか」と問い合わせれば、「例外は認められていないので当然適用になる」との回答があるといえます。しかし入国管理局の指針等は適用除外に一切触れていないことから適用除外に該当しないと短絡したくなりますが、どこを探しても明確に適用除外を否定する文書が見出せないため攻守ともに適用除外に該当するとの結論とならざるを得ません。ただ技能実習生は適用除外に該当せず残業代未払があるとする側からすれば(2)の農林水産省の文書から強引に「農業以外も適用除外は認められない」と拡大解釈していくことになります。ただこの文書も「基本的に」といっているだけにすぎず、結論としては、「法律的には技能実習生にも適用除外は適用される」が正解となります。

 ただこうした考え方は、技能実習生の問題を、私たち日本人労働者と同じ地平で見ていることからくる誤りで、「実務的な取扱い」がどうなっているのか考える必要があります。技能実習生は、一定の要件を満たし、入国管理局の許可がなければ入国できない点に注意する必要があります。受け入れ機関がこの許可を受けるため提出する資料の中に技能実習計画や雇用契約書と雇用条件書があります。入国管理局の指針が適用除外の問題に一切触れず、労働時間について、「実習実施機関が責任を持って適正な技能実習を雇用契約に基づいて実施するに当たっては,労働関係法令を遵守することが特に必要です。」と述べ、「なお,技能実習生について労働時間管理を行う必要があるほか,時間外労働や休日労働を行わせる場合には,労働基準法に定める割増賃金の支払いだけではなく労使協定(36協定)の締結が必要です。」と適用除外に触れず「労働時間管理を行う必要がある」と記載しているのは、「適用除外は認めない」と暗黙の裡に語っておりJITCOのHPではより明快に「技能実習生(1号及び2号)の労働時間は、労働基準法に基づき1日8時間以内、1週間40時間以内の原則が適用されます」と記載されています。事実、JITCOの担当者に牡蠣養殖の会社の適用除外について聞いたとき「適用除外として扱っていない」と話していました。事実、藤井弁護士の担当している事件でも雇用契約書は割増賃金を支払うものとなっているとのことです。要するに、この指針に従わず適用除外で作成した雇用条件書の提出があれば入国管理局は許可しないことを意味しているといえます。上記の内容を入国管理局に問い合わせてみたところ、困惑した感じで、翌日、これらのことを否定せず、「農業で働く技能実習生は適用除外に該当するが、入国管理局としてはこの問題は技能実習計画に基づいて判断していく」と歯切れの悪い回答をしてきました。技能実習生が労働者として扱われるといっても、あくまでも技能実習生制度の枠内で研修を実施する前提があるため、適正な時間管理、すなわち1日8時間、1週40時間を守るのが原則といえます。そのため、技能実習計画はこの原則に従い、これに基づいて雇用条件書が作成されているはずです。この制度自体、幾つかの省庁合同で、実質は低賃金労働者の導入を目的とした「建て前と本音の世界」で運営されているため「技能実習生には労働基準法の適用除外の規定は適用しない」と明言できないためこうした回答もやむを得ないと考えられます。

 先に挙げた入国管理局の指針の中にわざわざ「雇用契約に基づいて」との言葉が挿入され、労働基準局長の通達には「なお、労働時間等に関する規定が適用されない労働者についても、雇用契約において時間外・休日割増賃金を支払う旨を定めた場合には、当該契約に基づきこれらの賃金が支払われなければならないこと。」とこちらもわざわざこの文言を挿入したのは両者呼応して実務上は「技能実習生に適用除外は認めない」と宣言していることを意味しているといえます。蛇足ですが、労働基準法第1条第2項は「この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」と定めています。要するに、個別の雇用契約で労働基準法以上の内容を定めた場合には、労働基準法の基準(適用除外)を理由として労働契約の無効を主張することはできないことになります。

 相手方の弁護士さんにしても私たちにしてもこうした仕組みが見えていないため農林水産業で研修している技能実習生は適用除外と短絡してしまうといえます。場合によっては、交渉過程で会社が適用除外の雇用条件書を提出してくることが無いとは言えません。JITCOの書式では雇用契約書と雇用条件書は別様になっており、本人たちがサインするのは雇用契約書のみで雇用条件書は会社が記名捺印するだけのものなので入国管理局に提出したものと差し替えることも可能といえます。その際は、会社なり、協同組合に対して技能実習計画の提示を求める必要もありますし、入国管理局なりJITCOに申請書に添付されたものと同一かどうか確認してみる必要があります。

【付記1】
 適用除外に該当する労働者に対して残業代や休日出勤手当を支払う必要がないとの前提で話をするのが一般的ですが、この理解の仕方には問題があるため補足説明しておきます。適用除外に該当すれば、1日8時間1週40時間を超えて何時間働かせても構いませんし、休憩も与える必要はないし、週1回の休日も与えなくても構わないというだけの話で、労働した時間に対する賃金まで支払わないでいいということにはなりません。当然労働契約で定められた時間を超えた部分の労働に対しては賃金を支払う必要があります。要するに適用除外の条文は第4章の「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」についての適用除外であり、賃金の支払い義務解除までは適用除外の対象になっていないためです。ただし、法定労働時間を超えた場合や休日の労働に対する割増賃金については、賃金を定めた第3章ではなく、適用除外を定めているこの第4章に規定されているため支給の必要がないということになります。要するに、時間外労働に対する25%の割増賃金及び休日労働に対する35%の割増賃金は支払う必要がないが、労働した時間に対しては正規の時間単価で計算した賃金を支払わなければならないということです。私たちが通常考えているように「一切賃金を支払わないでよい」とするならば、適用除外に該当する労働者については、労働契約なり就業規則で賃金を支払わない旨の定めをしておく必要があります。この第41条によって自動的に賃金支払い義務がまぬがれるわけではありません。ただし、総労働時間で支給された賃金を除した金額が最低賃金を下回っておれば最低賃金法違反に該当することになります。また、この適用除外の条文は深夜労働の割増賃金は対象としていないため、午後10時から翌兆5時までの間の労働に対しては25%の割増賃金の支払いが必要になります。

【付記2】
 農林水産業は労働基準法第41条の第1号に該当します。別表で詳細な業種が記載されており、水産動植物の養殖が対象となっているので、当然牡蠣の養殖の事業に従事する人達全員が適用除外となります。事務の人も陸上で運送を担当する人も当然その事業に従事しているので適用除外となります。実際問題として、事務や陸上運送に従事する人たちに対して適用除外とするには問題があると考えられますので、適用除外から外すとすれば何らかの形で別事業として明確にしておく必要があります。この辺りが不明確なまま事務や陸上運送に該当する人達に割増賃金を支払っていれば、牡蠣打ちや海上で勤務する人達にも割増賃金を支払う義務が発生するといえます。

【参考】 (1)労働基準法(労働時間等に関する規定の適用除外)

第41条  この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1  別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
2  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3  監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
【参考】別表第一 (第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
6 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
7 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業


(2)「技能実習生の労働条件の確保について」
(平成22年2月8日 基発0208第2号 都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

(3) 適用除外
 労働基準法第4章に定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、農業又は畜産、養蚕、水産の事業に従事する労働者については適用されないが、これらの事業においても、深夜業及び年次有給休暇に関する規定は適用されること。
 なお、労働時間等に関する規定が適用されない労働者についても、雇用契約において時間外・休日割増賃金を支払う旨を定めた場合には、当該契約に基づきこれらの賃金が支払われなければならないこと。


(3)「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」
(平成12年3月農林水産省農村振興局地域振興課)の文書

1.労働基準法等の規定の適用と労働時間関係規定の準拠について
 原則として1人でも労働者を使用していれば、労働基準法の適用を受けるが、農業労働の場合、気候や天候に大きな影響を受けるという特殊性から、労働基準法の労働時間・休憩・休日等に関する規定については適用除外とされている(ただし、深夜業に関する割増賃金に係る規定、年次有給休暇に関する規定は適用がある。)。
 しかし、農業の場合も労働生産性の向上等のために、適切な労働時間管理を行い、他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要となっている。
 このため、技能実習移行に当たっては、労働時間関係を除く労働条件について労働基準法等を遵守するとともに、労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件についても、基本的に労働基準法の規定に準拠するものとする。


(4)「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」
(平成21年12月 法務省入国管理局)の「 第2適正な技能実習の実施につい (3)実習実施機関の役割 G労働関係法令の遵守」

 実習実施機関が責任を持って適正な技能実習を雇用契約に基づいて実施するに当たっては,労働関係法令を遵守することが特に必要です。労働関係法令に違反した場合は処罰の対象となることがありますし,また,後述の労働関係法令違反に係る不正行為認定等の対象となります。
 また,労働関係法令により実習実施機関は,雇用契約の締結に際し,技能実習生に対して労働条件を明示する義務があり,特に賃金,労働時間等については書面を交付しなければなりません。この場合,雇用契約書等を日本語に加えて母国語によっても作成する等して,雇用契約の内容が技能実習生に十分に理解できるようにしなければなりません。
 なお,技能実習生について労働時間管理を行う必要があるほか,時間外労働や休日労働を行わせる場合には,労働基準法に定める割増賃金の支払いだけではなく労使協定(36協定)の締結(注)が必要です。


(5) JITCOのHP

(5)労働時間の取扱い
技能実習生(1号及び2号)の労働時間は、労働基準法に基づき1日8時間以内、1週間40時間以内の原則が適用されます。これを超えて実習実施機関が技能実習生(1号及び2号)に時間外又は休日の労働をさせる場合には、法律の規定に従って、労使協定を締結する等一定の手続きが必要であり、時間外割増賃金等の支払いが必要となります。