定期健康診断の実施が使用者には義務付けられています。


 新しい年度が始まるといろいろやらなければならない仕事がありますが、それらのうちのひとつに健康診断があります。労働安全衛生法によって、「1年以内ごとに1回、定期に」実施する旨定められており、その検診項目(注1)また検診後(注2)のことについても細かく定められています。事業所の高年齢化や成人病の低年齢化も進んできていることから、定期健康診断受診者の有所見率も平成2年の22%程度から平成15年には47%程度にまで増加しています。こうした状況を受けて労災保険給付の中に二次健康診断等給付が設けられています。これは、定期健康診断で脳・心臓疾患に関連のある一定の項目に異常の所見があると診断(当該症状がある者は除く)された場合に、労災保険からこれらについてのより詳しい健康診断の費用とこの結果に基づいた保健婦による指導が行われます。(注3)

 ここまで読まれて、二次健康診断等給付が、なぜ労働安全衛生法でなく労働者災害補償保険法で定めているのかと疑問に感じられた方もあると思います。確かに、労働者の健康を守るのは定期健康診断の延長として労働安全衛生法で定めるのが本来だろうと思います。しかし、過重な労働負荷により症状が急性憎悪して、心臓疾患や脳血管障害で病床に就かれたとしたら、平成13年に出た基準に該当すれば労働災害として認定されることになってしまいます。その結果、労災保険は多大な損害を被ることになってしまいますのでその対策として当然の結果だともいえます。また事業主は、前号でも触れたように安全管理義務違反による損害賠償を請求されないともいえません。この基準とは関係がない状況の傷病であれば当然健康保険のお世話になることになります。健康保険は当然のことながら全身の状況を検診するため人間ドックの事業を行っています。これも当然のこと被保険者の健康を守るため、別な言い方をすれば保険給付の額を少なくするために行っているといえます。例を挙げます。賃金50万円の人が脳血管障害で倒れ、障害厚生年金の1級に該当したとします。傷病手当金として、16,670円の60%が1年6ヶ月分支給されます。概算計算すると10,002円×30日×1年6ヶ月≒540万円の給付となり、さらにこの期間の医療費は1000万円を下らないのではないでしょうか。会社にとっては、売り上げの減少、この間の福利厚生費や法定福利費またこれまでに投じてきた教育関連等の費用を加えると非常に大きな損害となります。

 健康の問題は法律の定めがどうのこうのというような問題ではなく、また、その個人に任せておくような問題でもありません。その個人のQOLの問題として、また会社に与える有形無形の損害も考慮に入れて事業主が積極的に指導していくべきものではないでしょうか。過去の経験から、検診および治療が必要と見込まれるならば、受診するように業務命令を発する必要があるといえます。

(注1) 定期健康診断の検診項目(年齢により検診項目が違います。)
1 既往歴及び業務歴の検査 2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長,体重,視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力)の検査
4 胸部エックス線検査及びかくたん検査
5 血圧の測定
6 貧血検査(赤血球数,ヘモグロビン
7 肝機能検査(GOT,GPT,γ−GTP
8 血中脂質検査(血清総コレステロール,HDLコレステロール,血清トリグリセライド)
9 血糖検査
10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無
11 心電図検査(安静時心電図検査
(注2) 検診後の事項
 健康診断結果の通知・医師等の意見の聴取・検診結果の健康診断個人票への記載・定期健康診断結果報告書の監督署への報告(50人以上の事業所場合)等
(注3) この受診方法は、「二次健康診断等給付請求書」に事業主の証明をもらい、都道府県労働局長が指定した医療機関にこれを提出することにより受診できます。費用は一切かかりません。