退職や解雇に関係する話 @

 前回は、労働基準法に解雇規定が設けられたことにより、解雇に関する事柄を就業規則に規定しておかないといけませんよ、という話でした。今回は、「退職とはどのようなことだろうか」ということを見ていきたいと思います。

 「退職する」、「定年になった」、「契約が切れた」、「辞職する」、「解雇された」など会社を辞めるときの言葉がありますが、会社と縁が切れたとの意味合いでは全て共通していますが、それぞれが意味するところは大きな違いがありますし、その人のその後の人生にとっても大きな問題を含んでいると思います。

 会社と縁が切れるとは、それまで結ばれていた労働契約が終了することを意味しています。その終了の原因に基づいて、どのような終了の方式をとったかによって前記の言葉が使われるということになります。

 労働契約が終了する原因には次のようなものが挙げられます。@契約期間満了、A相手方の契約違反によるもの(労働条件が違う・資格の申告が虚偽)、B合意による解約(結婚などによる自己都合退職等)、C一方的な解約(辞職・解雇)、D就業規則等の定めによる解約(定年・休職期間満了等)、E当事者の死亡や事業の消滅によるもの、などがあります。場合によっては複数の原因に関係する場合もありますし、途中から他の原因に変わる(もともと他の原因を内包している)場合もあります。たとえば、本来、懲戒解雇の事由であるが、協議の結果、本人に退職願を出させる諭旨解雇、また自己都合退職(合意による解約)であっても、後日懲戒解雇に該当(注1)する場合などです。また、辞職という言葉についてですが、これはCにあるように一方的な解約の意思表示(注2)です。結婚などの自己都合退職とは少しニュアンスが違うものと理解してもよいと思います。

 こうした労働契約を終了させる原因をどのような方式に当て嵌めたかというのが先に挙げた会社を辞める時の言葉ということになります。中でも解雇は、終了原因としてはA、CそしてDに該当しますが、注意して適用する必要があります。

解雇には、(1)普通解雇、(2)整理解雇、(3)懲戒解雇と大きく3つに分けられます。普通解雇は、終了原因のA、CそしてDに該当し、勤務態度が不良で懲戒に該当しないものなどが含まれます。また、定年による退職も解雇(注3)となる場合があります。こうした解雇を行う場合、就業規則に定めているだけでは無理があり、適用するための前段の対策がとられたかどうかが問題とされます。〔以下次号〕

(注1)
 この場合退職金を支給しないのであれば、就業規則に退職金の不支給事由が「懲戒解雇されたもの」とだけの規定では足りず、さらに「懲戒解雇に相当する事案、その他不義・不正の行為が認められる場合」という規定を設けておく必要があります。これは、懲戒解雇以外の事由では退職の時点で退職金請求権が発生してしまい、後日懲戒解雇に切り替えることが出来なくなるためです。したがって退職の事由と退職金支給事由を別なものとしておく必要があるからです。
(注2)
 民法627条は、当事者が雇用の期間を定めていない時には各当事者は何時でも解約の申入れが出来、解約申入れの後2週間を経過した時に終了する、と定めています。さらに続けて、第2項では、月給制の場合、辞職の意思表示が、当月の前半の場合には翌月度以降、当月後半の場合には翌々月度以降にしか退職はできないと定めています。ただ、使用者の場合には、労働基準法で解雇予告を30日前にすると定めているため、この民法の規定は、適用されません。 (注3)
 定年退職には、定年に達すれば全員退職するという「定年退職制」と一部の者は定年延長ないし再雇用する定めがある場合の「定年解雇制」とがあります。後者の場合、解雇予告の問題が生じてきます。


退職や解雇に関係する話 A

 前回は、労働契約が終了する場合の態様について、また解雇についての概略をみてきましたが、「解雇を行う場合、就業規則に定めているだけでは無理があり、適用するための前段の対策がとられたかどうかが問題とされます。」と書いて終わりました。この前段の対策について見ていきます。  事業主さんにとっては作業能率の悪い人、指示に従わない人そして業務上災害で休んでいる従業員等はすぐにでも辞めさせて、新しい人材を採用した方が良いに決まっています。そうは言っても辞めさせられる本人にとっては大変な問題となりますので基準法では解雇について制限を加えています。まず、第10号で説明した解雇事由を就業規則で定めておく必要があります。また、基準法は解雇できない期間を次のように二つ規定しています。(注1)@業務上の傷病の療養中およびその後30日間(注2)とA産前産後の女性が休業する期間およびその後30日間です。この期間は原則解雇できない期間となっていますので、まずこの問題をクリア−しておく必要があります。

 次に、即日解雇となるとその従業員は次の職場が見つかるまでは生活に困ることになりますので、解雇する30日前にはその旨通告しておく必要があるとの定めがあります。30日あれば次の職場が探せるだろうとのことで決められた期間です。それでも即日解雇したいと思うのであれば平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払えば可能ということになります。さらに続けると解雇予告手当を支払った日数分解雇予告期間を短縮できることになります。すなわち10日分の解雇予告手当を支払えば20日前に解雇予告すれば良いということになります。30日間の生活費を確保しておこうということでしょうか。

 基準法では@就業規則への解雇事由の記載、A解雇制限、B解雇予告手当の三つが解雇に関して定められていますが、実際に解雇しようとすれば、解雇を回避するための手立てをとっていたか否かが問われてくることになります。このあたりは裁判の判例から導き出された解雇への規制事項ということになります。整理解雇の場合の要件をあげておきます。@人員整理をおこなわなければならない業務上の必要性があることA整理解雇をおこなう前にこれを回避する努力がとられていることB整理解雇される人員を選ぶ基準に合理性があることC解雇手続きにおいて、労働組合との協議や本人に対する説明などが十分に行われていること。こうした4つの要件を満たしていないと整理解雇をしても、裁判に持ち込まれれば事業主さんの敗訴となる確率はかなり高いといえると思います。

(注1)
機会均等法、労働組合法、育児介護休業法等もそれぞれの規定に違反する場合には解雇できない事由を定めています。
(注2)
療養期間が際限なくなる場合を想定して、「療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」と定めています。


退職や解雇に関係する話 B

   前回は、解雇制限、解雇予告手当そして整理解雇する場合の踏んでおく要件等の話をしましたので、今回は、第10号で解雇の三つの類型(@普通解雇、A整理解雇、B懲戒解雇)を挙げましたが、残りの普通解雇と懲戒解雇についてみていきます。

 今年から解雇は就業規則に明記された事由に限られることとなりましたので、就業規則の中で見ていきましょう。関連する条文としては、解雇に関する条文の中に列記されることになりますし、その中に「懲戒の事由に該当した場合」との条項を設け、懲戒の条文の中に「解雇もしくは懲戒解雇」に該当する事由を列記します。さらに、この事由の中に「服務規律に違反した場合」と記載される場合もあります。こうなると「服務規律」についても併せて見直しておく必要が生じてくる可能性もあります。特に、懲戒の条項が簡単に定められている場合には、かなり大幅な修正を要することも否定できません。また、手引書を見ると一般的な条項が記載されていますが、手引書はあくまでもどの事業所にも該当する事項を列記しているにすぎませんので、それぞれの事業所の業務形態、特色に応じた条項を検討し、加えておくようにしなければなりません。

依頼を受けて就業規則の見直しをしている過程で責任者の方とばかり話を進めていると現場では違った実態があったり、事務担当者との認識のズレがあってみたり、また就業規則には記載されていないがそこ独自の扱い方をしていたりと話しているうちにいろいろな問題がでてくるので就業規則の見直しは面白いといえると同時に怖い面もあります。基準法通りに変更しても面白くないのでどの程度まで基準法以上の内容に持っていくかが頭のひねりどころとなります。

 つぎに、普通解雇と懲戒解雇の境目はどこにあるかというとその境界は明確に線引きができるとはいえません。普通解雇、懲戒解雇の事由のいずれにも該当する事由に「窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があったとき」というのがあります。傷害による刑法犯といっても過剰防衛もあるでしょうし、泥酔して不意に殴りかかることもありますし、または喧嘩の腹いせに金物屋から包丁を買ってきて・・ということもありますので、普通解雇とするか、懲戒解雇とするか、事業主さんのその時の気分で決める分けにもいかないので、就業規則とは別に、内規を定めるなり、懲戒委員会を設けて一定の手続きを経た後に処理する必要があります。また、その経過を記録にとっておく必要もあるでしょう。いずれにしても本人が種を蒔いた結果によるものですから何度注意しても欠勤を繰り返すような軽易なものであれば普通解雇でしょうし、重大な責任問題が絡んでおれば懲戒解雇ということになりますが、本人の将来を考えて懲戒解雇にはしないが退職金を支給しないこととして退職届を提出させる諭旨解雇という形態をとることもあるでしょう。このような従業員のためを思って寛大な処置をするにしても懲戒解雇ではないのでと安易に考えずに処理した経緯だけは記録しておかないと訴えられた場合には企業防衛の面からはマイナスとならざるを得ないといえます。