就業規則に係わる問題から

 〜 労働時間・法定労働時間・所定労働時間・週44時間労働 〜



 就業規則に定められる労働時間の規定についてみていきます。労働時間を巡っては残業代未払いの問題がたびたび報道されますし、過労死の報道もよく見られます。いずれの場合も、使用者が労働時間を適正に管理していないことの結果として現れてきます。そのため「労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。」とされ、使用者は労働時間の管理を適正に行い、残業代を確実に支払わなければなりません。そのためには就業規則での定めを明確に理解しておく必要があります。ここにモデル就業規則と某社の就業規則を並べましたのでこの違いを通してみていきましょう。

モデル就業規則
某社就業規則

第14条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
第16条 業務の都合により、第14条の所定労働時間を超え、又は第15条の所定休日に労働させることがある。
第30条 割増賃金は、次の計算式により計算して支給する。
@ 時間外労働割増賃金(所定労働時間を超えて労働させた場合)
A 休日労働割増賃金(所定の休日に労働させた場合)

第18条 労働時間は、1週間については44時間、1日については8時間とする。
第20条 業務上の必要性また緊急性が認められる場合には、その必要な限度において本規則に定める労働時間を超え、また休日に労働させることがある。
第33条 職員が法定労働時間を超え、また法定休日に労働した場合には本条に定める割増賃金を支給する。


 第14条と第18条の違いについては、1週間の労働時間が違っています。労働基準法第32条は「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」となっていますので、「右のものは誤りだ。」と直ちに決め付けるわけにはいきません。なぜなら施行規則第25条の2で、一定の業種(注1)については常時10人未満の労働者を使用する場合には週44時間まで労働させることが出来ると例外規定を設けていますので、例外規定に該当する業種であって、常時働いている人が10人未満であれば問題のない規定となります。しかし事業が拡大して10人を超えてしまえば労働時間を40時間に修正する必要が生じます。
 次に、第16条と第20条は残業をさせることがあるとの規定で、文言は違っても同じ内容なのですが、もしこの条文がなければ残業をさせることが出来ないことになるので欠かすことの出来ない条文といえます。この条文が有ったとしても労働者を採用するときに渡す労働条件通知書に「残業なし」としてしまえばこの労働者については一切残業をさせることが出来なくなってしまいます。就業規則は集団に一括適用される効力がありますが、個別の労働条件として特約(残業なし)を付けてしまうと就業規則のその部分の効力がなくなってしまうことになります。就業規則で「転勤がある」と定めていても、労働条件通知書で「転勤なし」とした場合も同様といえます。
 最後の第30条と第33条の相違は非常に大きな問題があるといえます。いずれも割増賃金(時間外割増賃金率=0.25、休日割増賃金率=0.35)をどのような場合に支払うかといった内容を定めていますが、その違いは、「所定」という言葉を使用するか、「法定」という言葉を使用するかによって大きな違いが生じることとなります。
 「所定」という言葉は、就業規則で定めている労働時間や休日を意味しており、一方、「法定」という言葉は、労働基準法で定めている労働時間や休日を意味することになります。例えば、その就業規則が定めている労働時間、すなわち所定労働時間が1日8時間、1週40時間(44時間)であればいずれの言葉を使用しても違いはありませんが、就業規則で定めている労働時間が1日7時間であれば「所定労働時間を超えて」とした就業規則の場合、1時間残業すれば「時間単価×1.25」の残業代を支払わなければなりませんが、「法定労働時間を超えて」とした場合には、法定労働時間の1日8時間を超えていないため「時間単価×1」の残業代しか支払う必要はありません。
 休日の場合は、さらに問題が大きくなります。労働基準法は第35条で休日は週1回与えなければならないと定めています。しかし、就業規則を見ると祝日や土曜日を休日としているのが一般的ではないでしょうか。そうすると「所定休日に労働させた場合」という言葉を使用すると、就業規則で定めた休日である祝日や土曜日などに労働させた場合の休日出勤手当は「時間単価×1.35」で計算しなければなりませんが、「法定休日に労働させた場合」とすれば、日曜日を週1回の法定休日とすれば、それ以外の祝日や土曜日などに労働させれば休日労働とはならず普通の残業扱いと同じとなり「時間単価×1.25」の残業手当を支払えばよいことになります。
 就業規則をつくる上で労働時間については、変形労働時間制の導入をしなければ取り立てて頭を悩ます必要もない部分かもしれませんが、週44時間という例外規定を知っているかどうか、また「法定」か「所定」といったいずれの言葉を選択するかまたその他規定の仕方によっては賃金に大きな影響を与えるという問題があることに注意する必要があります。

(注1) 商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の4つが44時間の適用を受けることが出来ます。また、労基法第41条で労働時間、休憩、休日の適用が除外されるものとして、農林、水産、畜産の事業、管理監督者そして監視又は断続的業務に従事する者があげられています。