死亡退職時の退職金の扱いは?
就業規則から-2

 第50号で「有効な就業規則とは」としてカルチャ−センタ−で使う資料を利用してここに載せましたが、今回もその一環として退職金の規定の解説を作成している中から標記のことを取り上げてみました。

 退職金制度を設けるか設けないかは会社が独自に決めればいいのですが、多くの会社では退職金制度を定めています。会社独自の制度をつくるところもあれば、中小企業の場合では中退共(独立行政法人勤労者退職金共済機構)に加盟し、毎月掛け金を拠出している場合も多いといえます。通常通り退職し、本人が退職金を受領するのであれば何の問題もありませんが、もし、病気等何らかの事由で死亡退職された場合には、誰が退職金を貰う権利があるのかという問題が発生してきます。普通に考えると相続権の問題と考えるのではないでしょうか。しかし、中退共の案内の中に記載されている退職金規定(例)をみると従業員が死亡したときにはその遺族に支給すると定めています。また、就業規則によっては死亡退職の場合の退職金受け取りのことには何も触れていないものもあれば、遺族に支給するとして、細かく受給権者の順位を記載しているものもあります。中退共の例は先に挙げたように遺族としか記載されていないため遺族とは誰かという問題もあります。

 死亡退職の場合の退職金は民法の規定に従って相続財産として処理するものなのか、それとも中退共や一部の就業規則が規定しているように相続財産とは見なされず就業規則に規定された遺族が受けるべき権利なのか、どのように扱えばいいのか迷います。

 相続財産となれば、子、子が亡くなっていればその子、子がいない場合は直系尊属、直系尊属が死亡していれば兄弟姉妹に相続権があることになります。一方、遺族とは誰かといった問題があります。退職金の規定は労働基準法には何も定められておらず、ただ、退職金を支給する場合にはその旨就業規則に記載しなければならないと定められているだけですから、別に支給が義務付けられているわけではないので遺族の明確な規定は無くそれぞれ勝手に定めれば良いということになります。しかし、業務上災害で死亡した場合には遺族補償の規定が存在していますので、施行規則に定められている遺族補償の受給権者の規定を準用すれば、配偶者、生計維持関係にある子、父母、孫、祖父母、生計維持関係に無い子、父母、孫、祖父母、そして最後に兄弟姉妹ということになります。このように、相続財産とみなされるか、遺族に支給されるものと見なされるかによって微妙に受給対象者が別れてきます。たとえば、相続の場合、子は必ず権利が発生するのに対して、遺族という考え方では、生計維持関係にない子には受給権が無いということになります。

 民法の規定が優先されるのか、就業規則の規定が優先されるのか考える必要があります。基本的には一般法としての民法が優先されることになりますが、特別の分野に係わる法律が別な規定をすれば、民法の規定に優先してそちらが優先されることになります。特別法である労働基準法は、退職金の定めをするときは、就業規則に記載する旨規定しているので、就業規則でどのように定めているかにより相続人に支給するのか、遺族に支給するのかを決めていくことになります。死亡退職の場合の受取人について就業規則が何も定めていなければ判断すべき根拠が特別法にないため民法の規定に従って、相続人に支払っていくことになります。就業規則に遺族と規定していればその規定に従って遺族に支給していくことになりますが、その順位について記載していなければ先にあげた労働基準法施行規則の順位が妥当ではないかと考えます。一方、就業規則で、遺族についての定めがあればそれに従って判断していくことになります。たとえば、「第一順位が配偶者、第二順位が生計維持関係にある子」として規定されていれば、生計維持関係にない子は絶対に父親の死亡退職金を受給できないことになります。

 相続の場合には、相続権を得るものが亡くなっていればその子に相続権が移転していくことになり、普通、誰かが相続することになりますが、遺族に支給となっている場合には、もし規定に該当する遺族該当者が全て死亡していれば誰もその退職金を受け取ることが出来ない、会社としては支払う必要が無いということになります。

 就業規則の定め方一つで結論が大きく左右される例の一つといえます。上記に関する判例を一つ挙げておきます。

日本貿易振興会事件(最高裁第一小法廷昭和55年11月27日判決)

 「被上告人の『職員の退職手当に関する規程』は被上告人の職員に関する死亡退職金の支給、受給権者の範囲及び順位を定めているのであるが、(中略) 受給権者の範囲及び順位につき、民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方がされているというのであり、これによってみれば、右規程は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当であり、そうすると右死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、受給権者である遺族が存在しない場合に相続財産として他の相続人による相続の対象となるものではない。」