傷病手当金請求で解雇された技能実習生と同僚の解雇・強制帰国


 日本の進んだ技術を発展途上国に移転する目的で運営されている技能実習生制度は建前論としては素晴らしい制度ですが、これほど建前と本音がはっきりしているものはそんなにないのではないでしょうか。そうした制度で来日する技能実習生の存在価値は日本経済にとって計り知れない価値をもっているとはいっても、彼らの存在感は全く見えてこず吹けば飛ぶような存在としてしか見做されていないのが現状です。今回紹介する問題もまさにその典型的な例といえます。

 彼はフィリピンから重機のオペレーターの職種で来日していますが、現実の仕事は公園での植木の剪定やゴルフ場での仕事全般やレストランで提供する野菜づくりまたレストランでの仕事でした。母国ではビルの清掃やジブニーの運転手で肉体的な労働に慣れていないまま造園関係やゴルフ場のメンテナンスに従事させられたことから手根管症候群になり十分な治療も行えないまま仕事に従事してきました。痛みに耐えきれずやむを得ず休業することになり、同時に研修生時代から一切支払われていなかった残業代をスクラムユニオンに加入して請求することにしました。すぐに団体交渉には入りましたが、「ゴルフ場の担当者が忌引きで休んでいるので後日連絡する」とのまま、なんらの連絡もなく第二回目以降の団体交渉はおこなわれないまま時間が経過してしまいました。本人は、手の痛みも治まらないため残業代問題が解決すれば帰国を考えていましたが、交渉が進展しないため健康保険協会に傷病手当金の請求で会社に休業証明をもらうため7月27日に書類を送付したところ、25日に遡って解雇されてしまいました。残業代問題で団体交渉中であるため当然不当労働行為となり、通常解雇など考えられないにも拘らず解雇したということは、解雇すれば団体交渉もなくなると考えたのでしょうか。その後も団体交渉は持つことができず、弁護士から内容証明で残業代の支払いを求めました。相手方も弁護士を立てて問い合わせがあっただけで何等の進展なく時間だけが流れていき、やむを得ず労働審判に進むことにしました。離職票についても10月の終わりにならなければ交付されない状況でしたし、労働審判も第1回目は相手方が答弁書も出来ておらず、社長は急用で欠席とのことで流れてしまい、第2回目は社長が入院しているとのことで欠席し、何も進展なせず、結局第3回目で相手方の弁護士が強く説得して決着しました。彼はイノシシ避けの高圧電流が流れた柵の外にある建設現場用の仮設建物に住まわされ、トイレは壊れて使用できず、水道もなく、イノシシやクマやマムシの仲間として扱われていました。

 技能実習生は安価な労働力でしょうが、当然労働法の適用も受ければ、人権問題といった側面もあります。こうした埒外の存在として考えていなければ彼のような扱いは出てこないのではないでしょうか。彼と同期が3名おり、一名は早くに足を痛めて帰国させられ、あと一名はこうした残業代問題が再発することを恐れた会社が11月終わりに勝手に解雇して帰国させるという暴挙に出てきました。協同組合は、最初の解雇の段階で会社と連絡が取れなくなり、全く管理能力を失っていた状況での解雇・帰国です。解雇する権利はあっても帰国させる権限を持っていない会社と管理能力を失ったまま放置し、こうした暴挙を防げなかった協同組合の責任は非常に重いといえます。この2件の事件は、技能実習生制度の問題点を如実に示しているとともに技能実習生の人権が全く無視されている典型的な事例といえます。

 11月末の解雇・強制帰国事件は、夜遅くゴルフ場に保護に向かい、地位保全の仮処分を申請しましたが、残業代問題まで含めての解決には至らず、解雇問題のみ解決し、これから残業代未払と協同組合に対する慰謝料請求の訴訟に進むことになります。

 こうした技能実習生に対する会社の扱いまた協同組合の態度を見ても技能実習生は金儲けの道具でしかなく、宙を舞う綿毛のように適当に吹いて遊んで、面倒くさくなれば握りつぶしてしまえばいい存在としか考えられません。ましてや管理能力を失ったのであれば技能実習生を会社から引き揚げ、他の会社に移籍させ適正な研修が行えるように配慮するのが協同組合の責務ではないでしょうか。「存在の耐えられない軽さ」という小説がありますが技能実習生にはこの言葉がぴったりと当てはまります。

 お金を出さずに働かせたいといった欲望はよくわかりますが、些細な問題を大きな問題にまで発展させ、当然支払うべき義務がある残業代についてまでなぜ裁判にまだ進まなければ解決できないのでしょうか。弁護士の費用や時間を考えればかえってマイナスとなってしまうのに・・。「安く使えるはずだったのに」という思いへのいら立ちを自己納得させるだけの問題なのでしょうか。