健康保険未加入者の流産から


 ここのところ外国人の問題が持ち込まれず暇にしていたら、スクラムユニオンひろしまにフィリピン人から電話があり、「弁護士がいると様なことを言っているが、詳しい事情を確認してもらいたい。」との連絡があり、日本語の出来るフィリピン人に電話をかけてもらうと職場で同僚から暴行を受けたとのことで特別心配することも無いと思いながら、その地域のフィリピン人にも連絡を取ってもらうと、暴行を受けた2日後に流産をし、入院中だとのことでした。2日後、状況を聞きに病院に行き状況を確認しました。問題点としては、会社で暴行を受けた事件と流産による変死事件との二つから成り立っています。どのように対応していくかいろいろな問題がありますが、取り敢えずは医療の支払いがどうなのかが心配になりました。派遣会社から水産加工会社に派遣されているので当然社会保険に加入していると思い健康保険証を持っているかと問うと、持っていないと答え、一枚の紙を見せてくれました。それは国民健康保険への加入申請書でした。これでは、医療費の全額が自由診療扱いとなり、大きな額を請求されてしまいます。実際次の日退院しましたが、とりあえず5万円支払い、残りの55万円強は次回の診療日に支払うとの誓約書を書くことで収まっていました。誓約書には、次回診療日(10日後)に残額を支払うことと記載されていました。しかし誓約書に何が書かれているのか本人は全く知らず、同行していた派遣会社のフィリピン人通訳もどのような書類か全く説明していませんでした。
 会社に社会保険に加入させる交渉も考えましたが、ひと悶着おこり時間がかかることが見込まれるため、とりあえず国民健康保険で処理することとしました。こうした無保険者の場合の問題点等今回の対処内容を簡単に列記します。
(1)医療費の問題
 保険証を提示していないため自由診療となっていました。保険診療であれば1点10円で計算することになりますが、自由診療となれば医療費は自由に設定できますので、交通事故の場合など私自身1点15円を指導しています。交通事故では自賠責保険等があるので問題は少ないのですが、今回のように100%自費となると大変です。医療費は医療機関から社会保険は社会保険診療報酬支払基金に国民健康保険は国民健康保険連合会に診療月の翌月の10日までに請求するので、月末までに保険証を提示すれば国民健康保険の計算に変更してもらうことが出来ます。どうにかこれはクリャーできましたので18万円程度が自己負担となり、その内5万円は支払っているので残りは13万円程度の支払いとなります。
(2)出産育児一時金・産前産後の問題
 社会保険も国民健康保険も出産時には出産育児一時金として、出産した医療機関によって違いがありますが、42万円または39万円何れかの給付が受けられます。ただし、出産と認められる条件として4ヶ月以上の妊娠期間が必要となります。妊娠の場合、1ヶ月は4週間(28日)で計算するため12週(84日)を超えている必要があります。従って13週(85日以上)に入っていれば出産育児一時金が給付されます。今回の場合、5ヶ月程度での流産であったため39万円の給付を受けることが可能でした。
 また妊娠出産に伴う休業について、産前は6週間(多胎妊娠は14週間)、産後については8週間若しくは医師の許可がある場合には6週間の休業を取ることが出来ます。社会保険であれば、休業して賃金の支払いが無ければ標準報酬日額の60%の出産手当金が給付されます。ちなみに出産日当日は産前の扱いとなります。
 労働基準法の規定から、産前産後の休業の休業等については、次の3点を注意する必要があります。
@ 産前の休業は労働者が請求した場合には使用者に与える義務が発生し、産後8週間(叉は6週間)については就業させることが禁止(第65条)されています。
A 産前産後の休業中また終了後30日間は解雇が禁止(第19条)されています。
B 上記二つの事項に違反にする使用者に対しては6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(第119条)が定められています。
※ 出産育児一時金貸付制度
 出産は病気とは看做されていませんので正常分娩であれば健康保険は適用されません。しかし帝王切開などの異常分娩となれば健康保険の適用があります。いづれにしても高額な費用がかかってしまいますので負担軽減を目的として出産育児一時金貸付制度が設けられています。貸付を受けられる額は出産育児一時金見込額の80%で無利息となっています。
※ 出産育児一時金の医療機関への直接払い
 前項の出産育児一時金貸付制度を利用する方法の外に出産のため医療機関に支払う費用を出産育児一時金の範囲内で保険者が直接医療機関に支払うという方法もあります。ただし、この制度を認めている医療機関に限られています。今回の場合、後日、自己負担分についてご主人の口座に振り込まれるとの報告があったので、この制度を利用したのかもしれません。
(3)高額療養費の問題
 医療保険の給付の中に高額療養費という制度があり、一つの医療機関で、1ヶ月間に10万円程度以上の自己負担があれば、それを超えた額が高額療養費として給付されます。自分で給付手続きをしなければ給付を受けることが出来ませんので注意が必要です。
 今回の場合、医療費の問題のところで自己負担が18万円程度と報告しましたが、高額療養費の給付を受けると自己負担額は8万円程度となるようです。
(4)高額療養費貸付制度の活用
 前項に記載したように高額療養費は事後的に給付申請する必要があるため、大手術をし、100万円を超えるような自己負担が発生するとどのように支払うかが問題となります。こうした窮状を救う制度としてこの高額療養費貸付制度が設けられており、高額療養費見込額の80%が無利息で貸付を受けることが出来ます。
(5)国民健康保険料の遡及支払の問題
 わが国では国民皆保険の制度が導入されているため国民健康保険か健康保険の何れかに加入することになります。社会保険に加入していない場合には、国民健康保険が強制加入扱いとなり、加入手続きが遅れてしまうと該当市町村に住所を定めた時に遡って保険料が徴収されることになります。今回の場合、健康保険の加入となるはずですが、会社は費用負担を嫌って手続きを取っておらず無保険状態が続いていましたので、取り敢えず国民健康保険に加入させることにしました。これから社会保険加入について交渉していくことになります。
(6)社会保険に加入させた場合の問題
 会社が社会保険に加入させていないのは健康保険料と厚生年金保険料の半額を会社が負担しなければならないからです。どこまで遡及して加入させるかとなると時効との関係で2年前に遡っての加入となり、今回の場合、21年3月に呉市に就職してきているので21ヶ月程度遡及する必要があります。
 賃金を17万円とすれば、被保険者負担分の保険料は、厚生年金が13,649円、健康保険が7,964円 となり、遡及保険料額=453,873円(会社も同額負担)となります。これが30人程度となればザット1300万円会社は負担する必要があることになります。

 以上が今回の事件の流産を巡る部分の概略ですが、ここに記した手続きは「呉市生活と健康を守る会」に依頼して行ってもらいました。この会は、生活保護や医療費の関係、介護保険高齢者関係、国民健康保険料等の減免申請や就学に関する手続き支援などを行っており、実に迅速な対応をしてくれます。今回も会った翌日には全て終了していましたし、その後の受診等への対応もしていただいており、この事件はこれから損害賠償や労働関係の問題に対処していく必要があるため役割分担しながら対応していこうと考えています。
 「生活と健康を守る会」全国各市町村広島市では区単位で組織されており、無料で対応していますので生活関係で何か相談がある方は最寄の地区の会にご相談ください。


 呉市生活と健康を守る会  電話:0823-23-0454 24時間ヘルプコール090-1359-3310
 広島県生活と健康を守る会連合会  (http://www2.ocn.ne.jp/~mamoru/index.html)