セブンイレブン店員の労働問題から



 外国人の労働問題ばかり取り上げてきていましたが、こうした問題は外国人特有の問題ではなく日本人も同様の問題に悩まされています。相談に行く先が分からなかったり、行ってもなかなか話されている内容が理解できなかったり、資料がなかったりどのように対応すればいいのかわからない、また早く就職して会社とは関わりを持ちたくないとの理由で問題解決を放棄する例が一般的ではないでしょうか。解決するための選択肢には社会保険労務士は思いもつかないし、そうした存在すらご存じないのが普通ですし、ユニオンの存在もそうですし、弁護士さんとなると相談だけでも高額な費用がかかり、依頼すればいくらかかるか想像もつかないため余程のことがない限りあきらめてしまいます。
 先日セブンイレブンで働いている人から日本人から相談がありました。たまたま彼は私の知人から「相談してみたら。」と私の電話番号を聞いたとのことでした。
 相談内容は深夜労働の割増賃金をもらっていないというものでどのような勤務状況であったか聞いてみると次のような状況だったことかが分かりました。

 (1) 労働条件通知書はもらっていない。
 (2) 勤務時間は夜9時から朝5時までの8時間労働である。(休憩1時間)
 (3) 休日は週1回である。
 (4) 時間給らしいが時間単価がいくらかわからない。
 (5) 残業代、深夜の割増賃金等が支払われていない。
 (6) 賃金支給明細書はもらっている。
 (7) 年休については何も話されたことがない。
 (8) 勤務期間は1年6か月程度であり、退職して1年6か月程度経過している。


 24時間営業のコンビニですから当然3交から4交代勤務でパートさんと8時間勤務の職員の組み合わせでシフトを組んでいるでしょうし、勤務時間データは全てセブンイレブン地域事務所の方に伝送され、所定の賃金明細書に打ち出されて賃金が支給されているとのことです。深夜労働であれば当然自動的に割増賃金が計算される仕組みになっているのかどうか、現在勤務しているセブンイレブンでは深夜労働の割増賃金が打ち出されており、賃金支給明細書もおなじ様式であるため意図的に操作しているとしか考えられません。そうであれば同様の操作をしている店舗も少なくないと考えてもいいのかもしれません。
 先に挙げた項目を労働基準法との関連で見ていくと働く者が知っておかなければならない問題が網羅されているといえますので問題点を簡単に見ていきます。
(1) 労働条件通知書(労基法第15条)
 私たちが生活する中で意識するしないにかかわらず契約行為を行っています。日々の買い物も就職するのも家を買ったり借りたりするのと同じで契約書を交わす交わさないを問わず契約行為です。労働契約書を交わすことはまれだと思いますがそれはそれで法的な問題はありませんが、労働基準法は人を雇えばどのような条件で雇用したかを書面で交付する義務を使用者に課しています。これを「労働条件通知書」といい記載する事項も決められています。これがなければ自分がどのような労働条件で働いているのかわからないといえます。問題が起こった時には必ず必要になる書類です。
(2) 勤務時間(労基法第32条、第37条)
 勤務時間の問題はなかなか分かりにくいところがありますが大原則は1日8時間労働,1週40時間労働です。これを法定労働時間と呼びます。従って1日8時間労働であれば週5日の労働となり週休2日となります。週1回しか休日がなければ48時間労働となるため8時間分は残業となり割増賃金の対象となります。この例で問題となるのは夜9時から翌日の6時までの夜間の勤務という点です。労働基準法では夜10時から朝5時までの労働に対しては無条件で25%の割増賃金の支払いを義務付けています。このお店ではこうした割増賃金を一切支払っていませんでした。当然、分かったうえで無視し、残業代を支払ったように細工をしていました。それは通常8時間労働であれば1か月の労働時間は176時間(8時間×22日)程度になります。これを超えた時間を特務手当?のような名称で割増賃金なしで支給していました。
 労働時間には特例措置があって10人未満の小売業の場合1週44時間労働が認められています。また一定期間を平均して週40時間に収めればよいとする変形労働時間制もあります。ただ変形労働時間制は残業代を支払わないための方便として悪用されている事例によく遭遇しまいますので実態を調査して確認する必要があります。
(3) 休日(労基法第35条)
 休日について労働基準法は週1回の休日を義務付けています。例外として一定の条件の下に4週4回の休日制度の導入も認めています。従ってこのお店は週1回の休日は与えていたので労働基準法に従ってはいましたが、労働時間との関係であと一日休日を与えなければいけないことになりますので、毎週1日は休日労働をしていたことになります。ここで問題となるのが労働基準法は「週1回の休日」という表現を使っていることです。要するに、残業として扱うのかそれとも休日労働として扱うのかという問題です。労働基準法の週1回の休日は法定休日と呼ばれています。それに対して今回のように週休2日にしなければならない場合のあと1日の休日やお盆や年末年始の休日のように会社が定めた休日のことを所定休日と呼びます。労働基準法の定める休日はあくまでも週1回です。それも日曜日と決まっているわけでもなく、会社が独自に週日のどこかを法定休日と定めればよいことになります。従って祝日はカレンダーに赤マークの休日となっていても労働基準法上は休日(法定休日)ではないので会社が労働条件通知書や就業規則で休日(所定休日)と定めない限り休みにはなりません。法定休日か所定休日かで問題となるのはこれらの日に働いたときの割増賃金が法定休日割増率(35%)を適用するのか、残業の場合の割増率(25%)を使うのかの問題があります詳細は「(5) 割増賃金」の項で説明します。
 また、前項の終わりで触れた変形労働時間制(1年単位)の場合には休日日数(法定+所定)を85日以上とするよう義務付けています。8時間労働であれば105日以上の休日としなければいけませんし、1か月前までにはどの日を休日とするのか、日々の労働時間数を特定しなければいけませんがこうした手続き自体無視した変形労働時間制が横行しているのでチェックが必要です。
(4) 割増賃金計算の基礎となる時間単価
 今回の例は時間給でしたがこの場合単純にこれに割増賃金率を乗じればいいのかというとそうではありません。手当が支給されていればそれも含めて時間単価を計算することになります。今回の場合、職務手当が月額1,000円支給されていたので、1,000円÷(22日×8時間)=5.68円を時間単価に加算した金額に割増賃金率を乗じて計算することになります。
 賃金を見るとき気を付けておかなければならないのが最低賃金との関係です。時間給の時はすぐわかりますが、月額で定められているときにはそれの時間単価を算出してみなければなりません。算出方法は、「基本月額賃金÷所定労働時間」で計算します。
(5) 割増賃金(労基法第37条)
 割増賃金とは法定労働時間を超えて労働した場合(25%の割増賃金)、法定休日に労働した場合(35%の割増賃金)また深夜(午後10時から翌朝5時までの間)に労働した場合(25%)に支払われなければいけない賃金です。休日の項で所定休日と法定休日の説明をしましたが、同じように労働時間にも所定労働時間と法定労働時間の区別があります。所定労働時間とは入社するとき1日8時間労働とかパートであれば1日3時間労働と定めた時間のことを意味しています。法定労働時間とは、「(2) 勤務時間」で見たように労働基準法が定めている1日8時間、1週40時間といった1日また1週間の労働時間のことを意味します。要するにこれ以上は労働させてはいけない時間のことで、これを超えて労働させるためには労働基準法第36条に定める手続に従って36協定を労働基準監督署に提出する必要があります。従って、労働条件通知書や就業規則に割増賃金の計算率が「法定労働時間を超えた場合25%」か「所定労働時間を超えた場合25%」か、また「法定休日出勤35%」か「休日出勤35%」と書かれているかによってどの割増賃金率を使うかがが違ってきます。
 相談に来た人の場合は違法な勤務形態ですが、1日8時間労働で月曜日から土曜日までの勤務なので48時間労働になります。この場合、土曜日の8時間分に対して25%の割増賃金を払えばよいというのは労働基準法に従えば正解です。この場合、労働条件通知書や就業規則には「法定労働時間を超えた場合25%、法定休日労働35%」と定められているはずです。そうではなく、「所定労働時間を超えた場合25%、休日労働35%」と定められている場合はどうでしょうか。この場合、法定休日と限定されていないため土曜日は休日扱いとなるため35%の割増賃金率が適用されることになります。ちなみに、この場合1日7時間労働で2時間残業したときには2時間とも25%の割増賃金となりますが、「法定労働時間を超えた場合」と記載されていれば1時間しか割増賃金は付かないことになります。
(6) 賃金支給明細書
 労働基準法には賃金の支払いについて通貨で、全額を、毎月1回以上、一定の期日に、直接労働者に支払うよう義務付けています。しかし、いくらの金額をどのような内訳で支払い、どのような項目のものをいくら控除したか明確にした賃金支給明細書を渡すよう義務付けた定めは何もありません。しかし、所得税法231条は「居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者つしつしに交付しなければならない。」と定めています。
 今回の場合、支給項目(基本給と職務手当)、控除項目、勤務日数、勤務時間(所定労働時間と総労働時間)が記載してありました。
(7) 年休
 年休があるとは告げられていなかったし、病気で休んだ日は賃金が支給されていなかったので無いものと理解していたとのことでした。労働条件通知書を渡さないということは労働者の無知につけ込んで労働者の権利をはく奪するとの意図があったからといえます。。週に1日1時間しか働かないパートさんも採用後6か月経過した時点で1日の年休が発生します。
(8) 時効
 労働基準法の時効は原則2年です。2年が経過したら年休も賃金も請求できなくなってしまいます。悪徳な事業主さんにとっては非常に有難い制度といえます。今回の場合も当然時効を援用して時効にかかっていない期間分だけの支払いという回答となりました。パートには深夜割増を支払い職員には支払わないという事業主さんですから、裁判にして未払賃金と付加金の請求さらに慰謝料の請求ということも可能かもしれませんが未払賃金の額が少なければ弁護士費用が支払えなくなってしまうのでこれもできないという結果になってしまいます。賃金の未払部分については3年程度まで伸ばしてもらいたいと思います。こうすれば外国人技能実習生の賃金未払についても時効により消滅することがなくなります。こう考えるのも外国人技能実習生は3年間日本で研修します。22年7月の入管法改正で最初から労働者として技能実習することになったため帰国前に残業代未払を請求しようとすると時効が成立して請求できない部分が必ず発生するようになったからです。

 こうした労働問題をどのような方法で解決に導くのがいいのかいつも悩みます。社会保険労務士には代理権がないので相手から話し合いを拒絶されればそれ以上進めることができなくなるため、とりあえず交渉に入るか、労働基準監督署に持ち込むか、紛争調停委員会に持ち込むか、ユニオンに加入させるか、弁護士さんに依頼して労働審判か裁判に進むかいろいろ方法がありますが費用対効果で考えざるを得ないところもあるし、早期解決を希望しているかどうかもあり、自分の思いだけで進めることはできず本人の判断ということになります。本人を説得してユニオンに加入させるのが一番いい方法ではないかと考えています。