船場吉兆の希望退職に関すること


船場吉兆:希望退職募集へ 労組と交渉


 牛肉の産地偽装による不正競争防止法違反容疑で、大阪府警の家宅捜索を受けた高級料亭「船場吉兆」(大阪市)のパート従業員2人が7日、大阪市内で記者会見し、同社が@パート、正社員を問わず希望退職を募る方針を示していることを明らかにした。A2人は労働組合に加入し、船場吉兆側とB団体交渉をしている。
 会見したのは、同社心斎橋店(同)で接客をしていたパート従業員の女性2人。同社は先月16日に家宅捜索を受け、全店の営業を停止したが、営業再開や給与の支払いに関する説明がないため、心斎橋店の従業員13人が「アルバイト・派遣・パート関西労働組合」(同)に加入した。
 先月末からの団体交渉で、同社はパート従業員全員の解雇を提案したが、反発されて撤回。その後は希望退職者を募る考えを示している。団体交渉で湯木喜久郎取締役らは「心斎橋店は当面、休眠状態にする」「スポンサーや引き取り先を探しているが見つからない」などと説明したという。
 同労組によると、Cパート従業員は雇用保険に入っておらずD有給休暇も取っていなかった。組合側は▽Eさかのぼって雇用保険の手続きをしFペナルティーとして本人負担分も会社が払うG12月分の給与を補償する▽辞任表明した役員は早急に辞任する−−点などを要求している。
(毎日新聞 2007年12月7日16時08分)

船場吉兆、半数が希望退職応じる


「船場吉兆」(大阪市)の一連の偽装表示問題に絡み、同社は17日、すべての社員やパート従業員184人のうち、99人が希望退職に応じたことを明らかにした。
 心斎橋店(同市中央区)や天神店(福岡市)などはH先月から休業に追い込まれ、同社は今月11日、希望退職の募集を始めていた。
 同社の弁護士によると、I希望退職者には過去3カ月の平均賃金を1カ月分支払う。Jこのうち雇用保険に加入していない従業員には、今年4月までさかのぼって加入してもらいK半年分の失業保険を受給できるようにする。(日経 2007/12/17配信)



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@パート、正社員を問わず希望退職を募る方針】
 リストラを行わなければ、会社が成り立ってゆかない状況にあることからパート、正社員を含めての希望退職募集を行う方針を立てていますが、本来は、その数行下にある「パート従業員全員の解雇を提案したが、反発されて撤回」したという状況があります。リストラを行う順序から言えばパートから始め、正社員の雇用確保を図るのが本来のあり方と思えますが、「反発されて撤回」したのも前言撤回が目立つ同社らしいのかとも思います。解雇に関する具体的な法律がありませんので過去の判例に基づいて進めていかざるを得ないといえます。判例によると整理解雇の場合、次の4つの要件が必要とされています。緊急避難的な場合もありますので、全てを充たす必要はありません。
@ 人員整理をおこなわなければならない業務上の必要性があること
A 整理解雇をおこなう前にこれを回避する努力がとられていること
  ※遊休資産の処分、役員報酬の削減、賃金切り下げ、アルバイト・パートの削減等
B 整理解雇される人員を選ぶ基準に合理性があること
C 解雇手続きにおいて、労働組合との協議や本人に対する説明などが十分に行われていること

A2人は労働組合に加入、B団体交渉】
 憲法第28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と、労働者に「団結権、団体交渉権、争議権」(労働三権)を認めています。労働組合はわが国では、各企業別に組織するのが一般的でしたが、船場吉兆のパートさん2名が加入した「アルバイト・派遣・パート関西労働組合」のように企業を問わず一人でも加入できる労働組合が沢山できてきています。パートさん2名とともにこの労働組合の役員さんが団体交渉に当った思います。働き方の多様化も良い面もあるかもしれませんが、労働条件で不当な扱いを受けることも多く、労働紛争も頻発していることからこうした形態の労働組合が増えていくと考えられます。ちなみに労働組合の組織率は昭和24年の55.8%を最高に低下し、平成18年は18.2%と過去最低となっています。

Cパート従業員は雇用保険に入っておらず】
 労災保険、雇用保険、社会保険(厚生年金保険と健康保険)への加入はそれぞれの法律によって事業主に義務付けられています。これを無視している事業所が多いというのが現状です。労災保険はたまにアルバイトを使用する場合だけであっても加入が義務づけられていますが、それ以外のものについては一定の条件を満たした場合に加入が義務付けられることになります。社会保険は、個人事業の場合には労働者が5人以上の事業所、また株式会社等の法人組織の事業所は必ず加入しなければなりません。特に、法人組織であれば、従業員がいなくても役員の社会保険への加入が義務付けられています。
 ただ、パートさん等短時間労働者については、雇用保険は、1週間の労働時間が20時間以上のもの、社会保険では正社員の労働時間のおおむね4分の3以上の場合、だいたい30時間以上の労働時間であれば加入が義務付けられています。
 船場吉兆ではどのような勤務状態であったか不明ですが、「Iこのうち雇用保険に加入していない従業員には、今年4月までさかのぼって加入」してもらうといっていますので、故意に加入させていなかったと考えられます。

D有給休暇も取っていなかった。】
 年次有給休暇は本人に行使権がありますので、取らなければそれでも構いませんが、年休があることを知らせず、また取らせなかったら問題でしょう。1週間に1日1時間で労働契約を交わしているパートさんにも採用6ヶ月後には1日の年次有給休暇が発生します。

Eさかのぼって雇用保険の手続き、Jこのうち雇用保険に加入していない従業員には、今年4月までさかのぼって加入してもらい】  故意に雇用保険に加入させていなかったことを明言しています。当然、社会保険にも加入させなければいけなかった人がいると思われますが、この点には何も触れていません。加入していなければ事後でも加入させるのは当然のことです。雇用保険法第8条は「被保険者又は被保険者であった者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。」と定めており、労働者自ら雇用保険に加入しているか否かを確認することが出来ます。これに基づき確認依頼を受けたハローワークは、加入させなければいけないのに加入させていなければ資格取得すべき時点に遡って職権で資格取得の確認を行うことになります。ただ、時効(第74条)の問題があることから、2年前までしか遡ることは出来ません。ここに記載されているように、希望退職に応じた者のうち雇用保険に加入していない従業員に限ったり、今年4月までしか遡らないといった恣意的な決定はできませんので、もし、このような加入がなされたらハローワークに確認に行く必要があります。また、当然社会保険の被保険者に該当していればこちらの手続きも2年前まで遡らなければいけません。

Fペナルティーとして本人負担分も会社が払う】
 労働保険料や社会保険料は労使それぞれが負担率に応じて負担します。会社から貰う源泉徴収票にも自分が負担した社会保険料の額が記載され、支給総額から控除された残りの賃金をベースとして所得税が課税されます。ここに書いてあるように会社が労働者の労働保険料を負担するとすれば賃金とみなされてしまいますので、所得税の清算の問題が発生します。同時に、労働保険料の計算においても同様に賃金とみなされ過年度分の労働保険料の清算も必要となってきます。このためでしょうか、4月までしか遡らないとしているのは・・。被保険者が負担すべき雇用保険料の会社負担が賃金となるとすれば、時間外手当の基礎給も変わってしまいますので、これも清算が必要ということになります。

G12月分の給与を補償するH先月から休業】
 「12月分の給与を補償」するとあるのをどのように考えればよいのか迷います。単純に通常勤務した場合もらえる額を100%補償するという意味と取っていいのではないかと思いますが、労働基準法第26条の休業補償を意味していたと後から言われたら少々当惑せざるを得ないのではないでしょうか。この条文は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定めています。当然、先月から休業しているのですから、休業開始日からこの規定は適用されているはずですから・・。

I希望退職者には過去3カ月の平均賃金を1カ月分支払う。】
 通常であれば希望退職を募集すれば、退職金の上乗せということが行われますが、退職金制度をもうけるかどうかについては法律的な定めは何もありませんので、退職金を支給するのであれば労働契約なり就業規則で定めておくべきものといえます。船場吉兆に退職金制度があったのかどうか分かりませんが、この額が妥当かどうか別として、どこから「過去3カ月の平均賃金の1カ月分」という数字が出てきてかを考えると、これも労働基準法の解雇予告手当(第20条)の考え方を流用してきたと考えられます。この条文は「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と、解雇する場合には、30日前の予告を義務付けています。「即解雇したければ平均賃金の30日分を支払え」ということになります。

K半年分の失業保険を受給できるようにする。】
  雇用保険の被保険者が退職すれば加入期間と離職事由に応じて失業保険(基本手当)がもらえます。平成19年10月1日以降に離職した者については、雇用保険の被保険者期間が1年間(9月までは6ヶ月)あることが条件となりました。被保険者期間が1年以上10年未満であれば90日間失業保険が貰えます。10年以上20年未満で120日、20年以上で150日となります。しかし、これは定年や自己都合退職の場合の規定で、今回のように会社都合による解雇(特定受給資格者)となると少し変わってきます。この場合、被保険者期間は6ヶ月あれば良いとされていますので4月まで遡れば当然受給権は発生しますが、受給できる失業保険の期間は1年未満では90日と定められています。記事にある半年分はどこから出てきたのでしょうか。また、特定受給資格者の1年以上の受給期間は離職時の年齢によって細かく規定されています。