精勤・皆勤手当と減給の制裁

 私たちが毎月もらう賃金の支給明細書には稼働状況、基本給、諸手当などの支給項目と所得税などの控除項目などが記載されています。あまり気に留められることはないかもしれませんが、少し関心を持って眺めると時間外単価などどのように計算したのか、また、多くの会社に見られる扶養手当を設定していない会社もあったり、会社の業務内容によって手当の名称もいろいろあり興味が尽きないところがあります。こうした手当の中でも中小企業に良く見られる「精勤・皆勤手当」を見てみましょう。
 この手当は、「欠勤がない場合には1万円支給、欠勤1日の場合には7千円支給、欠勤2日の場合は5千円支給、欠勤3日の場合は支給しない。また遅刻早退2回で1日の欠勤扱いとする。」また「欠勤遅刻早退がない場合に1万円支給する。」といった形で定められている手当です。場合によっては年次有給休暇で休んだ場合も減額の対象とされていることもあります。1日休んで1万円の減給になると1日当たりの賃金が7千円の人であれば1日分以上の賃金の減少となり、さらにその日の賃金7千円もなくなるとすれば併せて1万7千円の減収となってしまいます。こうしたことは問題がないのかと先日質問されました。確かに減収となる本人にとっては厳しい賃金規定といえます。こうした規定が労働基準法上許されるのかという疑問が起こってくるのも当然でしょう。ましてや「精勤・皆勤手当」支給上、年次有給休暇で休んだ日も欠勤扱いとされるのでは・・。
 まず、年次有給休暇で休んだ場合に「精勤・皆勤手当」を減額することについてみていきます。年次有給休暇は労働基準法第39条で「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」と労働者の権利として定められており、さらに労働基準法附則第136条で「使用者は、第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」と定めています。この条文が追加されたときの通達(昭63.1.1基発1号)で「精皆勤手当及び賞与の額の算定等に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤として、又は欠勤に準じて取り扱うことその他労働基準法上労働者の権利として認められている年次有給休暇の取得を抑制するすべての不利益な取扱いはしないようにしなければならないものであること。/年次有給休暇の取得に伴う不利益取扱いについては、従来、@年休の取得を抑制する効果を持ち、法第三九条の精神に反するものであり、A精皆勤手当や賞与の減額等の程度によっては、公序良俗に反するものとして民事上無効と解される場合もあると考えられるという見地に立って、不利益な取扱いに対する是正指導を行ってきたところであるが、今後は、労働基準法上に明定されたことを受けて、上記趣旨を更に徹底させるよう指導を行うものとすること。」とされていますので、年次有給休暇を取得した場合に「精勤・皆勤手当」を減額することは労働基準法違反ということになります。
 次に、欠勤した場合「精勤・皆勤手当」を減額できるのかということについて、労働基準法第91条の減給の制裁の規定との関係をどのように考えればいいかということがあります。

第91条 (制裁規定の制限)
 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 この規定は就業規則の懲戒規定の中に減給の制裁として定められるのが一般的です。この規定を見ると減給する場合の上限額が1回の事案に対して平均賃金の1日分の半額を超えてはいけないとなっています。この規定に当てはめて考えてみると、平均賃金が7千円とした場合、先の規定例のように、欠勤1日なら3千円の減額の場合は問題ないとして、2日欠勤の場合の5千円の減額や一回の遅刻で1万円全額が支給されないとなれば第91条違反となってしまいます。しかしこの第91条の規定は懲戒規定ですから、懲戒規定に該当した場合にのみ適用される必要があります。そうすると果たして子供の学校の行事のため事前に届け出て欠勤した場合や、理由もなく無断欠勤を1日しただけで懲戒事由に該当するといえるのかという問題があります。無断欠勤をたびたびしていたり、理由もない遅刻早退が多い場合を除けば、常識的に考えても懲戒規定に触れるとして減給の制裁を適用することには無理があるといえます。
 次に遅刻早退をした場合の賃金カットの扱いとこの規定との関係について、「労働者が、遅刻・早退をした場合、その時間については賃金債権が生じないものであるから、その分の減給は、法第91条の制限を受けないものと解してよいか。」との質問に「貴見のとおり。なお、遅刻・早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、法第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受ける。」(昭63.3.14基発150号)とされています。遅刻早退をすればその時間分だけの労働の提供をしていないので、減給の制裁規定に該当するのではなく、ノーワーク・ノーペイの原則によって賃金の支払い義務も請求権も発生しないことになります。
 これらのことを安西先生は「減給の制裁として問題となるのはいったん請求権として発生したものを制裁として減給する場合であり、したがって精皆勤手当の欠勤による不発生や遅刻早退についてその時間分の控除は減給の制裁に該当しない」(「採用から退職までの法律知識」十訂p241)と説明されています。要するに精勤・皆勤手当は一定の条件を充たした場合に支給されるという内容の雇用契約ですから、欠勤や遅刻早退をすることによって支給を受ける権利自体発生しないことになりますので、減給の制裁とはまったく関係のないこととなります。
 使用者からすれば休んでもらっては困るということで付ける手当ですが、新型インフルエンザに罹った労働者が1万円のため無理して出勤してくることになれば職場全員お休みという事態も想定されますので一考すべき手当かもしれません。