採用時の健康診断について


   労働安全衛生法施行規則第43条に「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。」と定めています。「雇い入れるとき」とはどの時点を指すのかが一つ問題点としてあります。採用決定前の応募の時点を意味しているのか、それとも採用決定後を意味しているのか。
 会社にとって、必要な人材を採用するためには、「仕事の内容、学歴、経歴そして必要な免許資格」などが採用の条件となるといえます。さらに仕事を大過なくこなしてもらうためには健康状態にも配慮する必要が当然あります。前者については、履歴書や免許証などの提出を求めれば確認できますし、後者については応募書類の一つとして健康診断書の提出を求めるか、指定した医療機関に受診させるかということになります。採用する側としては、「雇い入れるとき」とは当然「採用決定前」じゃないと困ると考えるのが普通だろうといえます。これに対して応募する労働者は採用されるかどうか分からないのに個人情報のうちでも最も微妙な健康診断の結果まで提供する必要があるのか、もしそうであれば病気持ちは就職差別を甘受しなければならないのかと考えざるを得なくなります。
 結論から言うと、「雇い入れるとき」とは、採用決定後のことであり、選考している時点では、原則として健康診断書の提出を求めてはならない、ということになります。
 明確に規定した通達等はないようですが、次の二つの資料がこの根拠になるといえます。

 (1) 募集に当たっての指針(平成11年11月17日付労働省告示第141号)があります。これを見ると募集に当たっては次の三点についての個人情報の収集を禁止しています。
 イ.人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
 ロ.思想及び信条
 ハ.労働組合への加入状況
 ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。
 健康診断は、 イ.の「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれ収集してはならない個人情報となりますが、業務遂行上健康状態をチェックしておく必要があれば本人の同意の下に実施することも可能であるということになります。

 (2) 次に労働省職業安定局業務調整課長補佐及び雇用促進室長補佐から各都道府県職業安定主管課長に宛てた平成5年5月10日付け事務連絡文書である「採用選考時の健康診断について」があります。
 「この「雇入時の健康診断」は、常時使用する労働者を雇入れた際における適性配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、また、応募者の採否を決定するために実施するものでもありません。また、健康診断の必要性を慎重に検討することなく、採用選考時に健康診断を実施することは、応募者の適性と能力を判断する上で必要のない事項を把握する可能性があり、結果として、就職差別につながるおそれがあります。」と記載されています。
 次に、就業規則によっては、「採用時の提出書類」として健康診断書を記載しているものがあります。これが妥当かどうか疑問があります。冒頭に掲げた労安法施行規則では、事業者が健康診断を行わなければならないと定めていますので、労働者が自ら受診して提出するものではなく、事業者の責任の下に実施されなければならないといえます。当然、費用は事業者が負担することになります。
 また、健診項目も労安法施行規則に定められていますので、その項目総てを網羅しておかなければなりませんし、異常があれば医師の意見を聴いて適切な処置をとり(法第66条の4、5)、結果を本人に通知(法第66条の4)し、結果を記録(法第66条の3)しておかなければなりません。